では現行の制度案がそのまま通過し、2019年秋の電気通信事業法改正を機に、制度として実際に適用されるとどうなるのだろうか。まず「違約金1000円」の影響だが、現行の携帯電話大手が提示する料金プランの金額は、基本的に2年間期間拘束契約・違約金9500円を前提としており、“縛り”がないプランも用意されているが、それらは月額1500円上乗せされるのが一般的だ。
その違約金が10分の1近くとなり、期間拘束が意味をなさなくなるとなれば、当然のことながら現行の料金プランの維持は難しくなる。携帯電話会社は(1)縛りのないプランの水準にまで月額料金を上げる、(2)全く別の料金プランを用意する、(3)携帯電話会社が差額となる8500円分の“損”を被って現行の料金を維持するなど、いずれかの選択肢を取る必要があるだろう。
だが、最初の2つの選択肢を選べば、ユーザーに少なからず混乱を与えることは必至だ。特に新料金プランの提供を6月開始したばかりのNTTドコモやKDDIは、短期間でのプラン内容変更が迫られるため、非常に大きな混乱が起きると考えられる。一方で、3つ目の方法を取ればユーザーに混乱は起きないものの、収益低下に直結するため携帯電話会社はコスト削減の一層の強化に迫られるだろうし、それは今後の5Gインフラ整備や、サポート拠点となるショップの維持などに大きく影響してくると考えられる。
また「端末割引2万円」については、分離プラン導入にともない携帯電話各社が提供を開始した、高額な端末を買いやすくするための購入プログラムに大きな影響が出ると見られる。KDDIの「アップグレードプログラムEX」やソフトバンクの「半額サポート」は通信契約と紐づいているため見直しは必須だが、NTTドコモが5月に開始したばかりの、通信契約に紐づかない「スマホおかえしプログラム」も何らかの見直しを余儀なくされると考えられる。
このプログラムは36カ月の割賦で端末を購入し、端末を返却すると最大12カ月分の残債支払いを免除する仕組みだが、制度案が適用された場合、免除額から端末を買い取った金額を引いた額が2万円以下、あるいは先行同型機種の買い取り価格より低くする必要がある。だが端末の買い取り額は機種によって大きく異なり、常に変動もする。ゆえにタイミングによっては12カ月分の残債免除ができないケースが出てきてしまい、当初の予定通りプログラムを運用できなくなる可能性があるのだ。
こうしたプログラムを提供できなければ、消費者は最近では10万円を超える高額なハイエンド端末の購入が相当難しくなるだろう。他の主要各国に1年遅れて2020年の商用化が予定されている5Gでは、当面対応する端末が高額なハイエンドモデルに限られる。そのため、分離プランと今回の端末割引制限によってそうした端末の販売拡大が難しくなり、日本は一層5Gの国際競争で遅れを取ることになるかもしれない。
ただし、制度案は既往契約、つまり我々がいま契約しているプランを契約し続けている限りは適用されないとしており、秋になったからといって全ての消費者が影響を受けるわけではない。だがここまで触れてきた通り、その影響範囲が決して小さくないのも、また確かである。携帯電話業界のビジネスを根底から覆すかもしれない案を、議論が進まない状態のまま、行政側が短期間で強引に押し通すのが正しいことなのかという点には、やはり大いに疑問を抱かざるを得ない。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力
「もったいない」という気持ちを原動力に
地場企業とともに拓く食の未来