ALS患者に“声”を--WITH ALSら、自らの声を残せるサービス「ALS SAVE VOICE」

 WITH ALS、オリィ研究所、東芝デジタルソリューションズ3社は6月20日、自分の声を失ってしまうALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の声を救うサービス「ALS SAVE VOICE」を開発し、サービスを夏頃開始予定と発表した。


 ALS SAVE VOICEは、音声合成プラットフォーム「コエステーション」と目を使った意思伝達装置「OriHime eye」を連携させ、ALS患者が自分の声で発話し続けられるサービス。3社によると、ALSの啓発のために制定された6月21日の「世界ALSデー」に向けて研究をしてきたという。

 現在まだ発話ができ、自分の声を残せる人が対象だ。病気の進行が進んでしまい、発話ができなくなってしまった人の声を録音などの音声から復元することは現段階ではできないという。



 研究・開発は、WITH ALS代表理事であり自身もALS当事者である、武藤将胤氏の発案によりスタートした。

 自分の声を残すことは、進行が進んだALS当事者にとっては切実な願いであり、自分の声でコミュニケーションを取ることはALS当事者や家族にとって重要だ。コミュニケーションの研究を続けるオリィ研究所にも、何人もの当事者や家族から「本人の声で話せないだろうか」「もう主人の声を忘れてしまった」などの声が寄せられているという。

 なお、これまでにも自分の声に似た合成音声を作る技術自体はいくつあったが、どれも簡単にできるものではなく、費用面やツール面などで多くのハードルがあった。

 ALS SAVE VOICEは、アプリ「コエステーション」の音声合成とOriHime eyeの視線入力という2つのテクノロジーを融合させることで、自らの声を残しコミュニケーションに活用できる仕組みを実現。利用者が手軽かつ、継続的に日常に取り入れられるサービスを目指した。

脳波でラップをプレイする「BRAIN RAP」プロジェクト

 このほか、武藤氏は世界ALSデーに向けて、世界初となる脳波でラップをプレイする「BRAIN RAP」プロジェクトを発表。

 電通サイエンスジャムと共同で、脳波を活用した意思伝達装置「NOUPATHY」の研究開発に取り組んでいるという。同装置は、小型でポータブルな脳波計とタブレットを活用し、特殊な脳波を読み取り、使用者の発したい意思を選択肢の中から選べるという。


 「意識の辞書」という個人が日々書き起こすメッセージをAIが学習し、その人らしい単語マップを生成するシステムを組み合わせることで脳波が選択した言葉をベースとして、AIがリリック(韻を踏んだ歌詞)を生成するというもの。

 BRAIN RAPプロジェクトでは、武藤将胤氏の想いを音楽に乗せて、ラッパーが想いを代弁する。このボーダレスエンターテイメントを通して、ALS、TLS(Totally Locked-in State:完全な閉じ込め状態)と闘っている仲間をはじめ、多くの人に希望を届けるとしている。

 クラウドファンディングをスタートさせ、クラウドファンディングプラットフォーム「GoodMorning」にて、6月20日から9月7日までの80日間、資金を募集する。目標金額は400万円。


 なお、ALSは2019年現在、有効な治療法が確立されていない指定難病。意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸障害を引き起こす。延命のためには、人口呼吸器が必要で、平均余命は3〜5年。呼吸器を装着することで生きられるものの、身体能力に加え発話能力も失っていく。現在年間約10万人に1人が発症しており、世界で約35万人、日本には約1万人の患者がいる。

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