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ソニー平井氏が実践した対話する経営者--麻倉怜士が聞くテレビ復活から今後のチャレンジまで - (page 2)

麻倉怜士 栗栖誠紀(人物撮影)2019年06月18日 08時00分
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見て、触って、意見ができる経営者がメッセージに込めた思い

――平井さんは商品に対してものが言える経営者です。実際に見て、触って、意見するというメーカーの社長はなかなかいない。そんなユーザー目線でメッセージを発していた。事業部のスタッフもそれを感じ取り、それが商品に生かされていたように思います。

 昔からモノが好きで、カメラ、車、中でもエレクトロニクスは大好きでした。特にソニーの商品は好きで、子どもの頃からずっと使ってきましたので「SONY」の4文字は身近な存在でした。だからソニー製品に対する愛着はものすごく強い。もともと父と祖父がソニーファンで、物心ついた時から家の中にラジオやテープレコーダー、マイクロテレビなど、ソニー製品がたくさんありましたからね。

 中学、高校になって、BCL(Broadcast Listener=海外の短波放送の聴取者)が非常にはやった時に、ソニーのラジオ「スカイセンサー ICF-5900」がとにかく欲しくて、お小遣いをためて秋葉原に買いにいきました。しかし、どうしても数千円足りなくて「ICF-5800」を購入しました。ほかのメーカーも短波ラジオを出していたけれど、やはりソニーでした。それを自宅に持って帰って、箱を明けた時の匂いや感触はいまだに覚えています。

 社長時代は、めぼしい新製品を社員にお願いして借りてきて、いじっていました。ところが社長に気を遣ってか、箱から出して製品だけ裸で持ってくるのですね。それではお客さまが箱から出した瞬間、どう感じるかが分からない。ちゃんと箱のまま持ってきなさいと言いました。そういうところにも徹底的にこだわりました。

2016年にソニービルで開かれた「It's a Sony展」でも思い出深いモデルとして「スカイセンサー ICF-5800」を挙げていた(撮影:編集部)
2016年にソニービルで開かれた「It's a Sony展」でも思い出深いモデルとして「スカイセンサー ICF-5800」を挙げていた(撮影:編集部)
――確かに、欲しくてたまらないものが、買えた時は、まず匂いを嗅ぎますね。

 そういう記憶は、みなさんそれぞれお持ちだと思います。特に高額商品になればなるほど、そういう瞬間ってあるじゃないですか。そういう経験は、今のユーザーも感じてくれていると思いますし、逆にそういうことを感じてもらえる商品でなければならないと思います。

 私が商品に口を出すことを、事業部のスタッフは「そこまで言うのか」と感じることもあったかと思います。でも言わないと気がすまない。しかし言い続けることで、私の意見を聞いてくれるようになりました。ときには「違う」と考えを正してくれました。対話をすることで、私も納得して「ならばこのまま進めてほしい」ということも、逆に「なんとしてもやりきってほしい」と話すこともありました。対話が起きるのはやはり大事なことですね。

――商品に対してトップが意見を言うことで、事業部のみなさんの励みにもなりますね。テレビについて、どういった意見を述べられましたか。

 「規模を追わない」と決めたテレビは、どこで差異化するのかが常にテーマとしてありました。誇りをもって何が違うかを議論していこうよ、と。ソニーのテレビは何が違うかというと、画が違うんです。ドライブするチップセットが独自のもので、そこに価値があります。テレビの画質はパネルに左右されると思いがちですが、大事なのはチップセット。そのメッセージを打ち出せたことも、テレビ復活のポイントだと思っています。

――一方で、オーディオはハイレゾを大きく打ち出しました。

 オーディオ関しては「ハイレゾが盛り上がってきている」という流れを、担当の高木のチームをはじめ、いろんなところから聞いていて、この新しい楽しみ方をソニーが牽引しないでどうするんだという思いが強かったですね。ソニーのオーディオには知識も経験も資産もある。この積み重ねをいかして、ソニーのオーディオだからこそできるものを提供したいと思いました。私自身、評論家ではないので、音の表現はできませんが、聴いてみて音がいい、それが素晴らしいことは、強く感じました。

――音楽ソフト会社出身という経歴も影響がありそうですね。昔はLP、CDなどを経験されてそれがハイレゾになる、と。ご自身の音楽産業出身というところでピンときた感じですか。

 それもあるかもしれません。私はFMラジオのエアチェックをしてきた人間ですから、高音質化という意味ではハイポジションやクローム、メタルとカセットテープのポジションが上がるごとに盛り上がってきた世代です。その時代に育ってきたので、高音質化していく楽しみは十分に体験してきました。

 しかし、少し前には音にこだわりの持てない世代があって、すごく残念な時代だったと思っています。圧縮された音を聴いてこれでいいんだ、となってしまって、もっといい音があるという世界が見えにくかった。それに対して、私たちの世代は飛躍的に音が良くなっていくというのを体験できた。でも今は、ハイレゾが登場したこともあり、イヤホンやヘッドホンを選ぶ楽しみも出てきた。最近の若い世代にも音にこだわる文化がでてきて、うれしいですね。

――そうした意味では、ポータブルオーディオも約30万円の「ウォークマン NW-WM1Z」など、すごく攻めた商品が数多く登場しました。

 オーディオは高木からいろんなアイデアが出てきました。「NW-WM1Z」の試作品を持ってきて「こういうのをうちの企画が考えている」と。ずっしり重いし、音も素晴らしい。

 ウォークマンはエントリーモデルもありますが、同時にハイエンドでも勝負できることが大事で、それがソニーらしいと思いました。台数を追うのではなく、徹底的にこだわって評価されるモデルがある。ソニーのオーディオに対する姿勢をきちんとアピールすることで、ブランド価値の向上にもつながります。そういった商品をどんどん出すべきと思っていました。

 超ハイエンドの商品の開発は、社内にも良い影響を与えました。「台数を稼ぐだけではなく、こだわるべきものはこだわり抜いていいんだ」という風潮が生まれました。それは開発者たちのプライドにもなります。エンジニアに対しても会社がこういうことを認めるんだ、と。ブランド的にも対外的にも素晴らしいメッセージなったと思っています。本当にオーディオが好きな人に「これいいですね」と評価されるほど、うれしいことはありませんから。

――昨今のヘッドホンのイベントなどでは、約90万円で、重量約2.5kgのネットワークプレーヤー「DMP-Z1」を携帯してくるマニアも出現しています。狙い通りですね。

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