VRで気を逸らすことによって苦痛を緩和するという方法は、目新しいことではない。ワシントン大学の研究者は、火傷を負った人が治療の際に感じる痛みをVRで緩和することを、10年以上前に試みている。シダーズ・サイナイ医療センターによる2017年の研究では、VRを気晴らしとして使った患者の方が、痛みの激しさを表すスコアが24%も低かったという。
AT&Tでヘルスケア産業ソリューション担当ゼネラルマネージャーを務めるRod Cruz氏は、「アヘン系などの鎮静剤を使って苦痛を和らげようとするより」、VRを使った疼痛管理の方が望ましいのではないか、と語っている。
VITAS HealthcareとAT&Tの共同研究はカリフォルニア州で始まっており、15人の臨床医にMagic LeapのヘッドセットとOculus Goヘッドセットが支給される。VITAS Healthcareの最高情報責任者(CIO)であるPatrick Hale氏は、この研究で数百人の患者がデバイスを使うことになると予測する。その取り組みで、最適なVR体験のタイプや理想的な使用時間といった特性をつかめるようになり、呼吸数、脈拍、血圧に対する影響などのデータも得られることを期待している。6~9カ月で治療プログラムを開発・修正して、VITAS Healthcareが全国で利用できるようにする、というのがHale氏の目標だ。
AT&TのCruz氏によると、5Gのモバイルホットスポットにアクセスして4KのVRを使えるようになれば、ラグも少なくなってVR体験が向上するはずという。だが、次世代の携帯通信技術5Gはまだ配備の初期段階にすぎず、このようなVR体験の向上に必要なカバレッジが実現するのは、まだ数年先のことかもしれない。
VRも、万能薬というわけではない。新しい技術を敬遠する人もいれば、動きの悪いVR体験に吐き気を覚えたり、乗り物酔いしたりする人もいる。なかには、視力の悪さがハードルになる人もいるだろう。
だが、使える人に対しては、予想もしなかった形で影響が現れていると医療従事者は述べている。
旅行に行き損ねた末期がん男性患者とその夫人にVRでクルーズを体験させた看護師のMcKayさんによると、夫人からこう報告を受けたという。男性は、訪ねて来たすべての人にそのVR体験について語った、そして男性の死後には、夫人も葬儀のときにそのことを語ったのだと。
McKayさんは、こう述懐する。「あの患者は、自宅のベッドに寝たまま、ただ死ぬのを待つだけだと思っていた。でも、残された一日一日を生き、楽しいことも体験できるのだと気づいてくれた」
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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