いっぽう、テレビ番組や映画のオリジナルタイトルを開発・投入するApple TV+(今回の発表でいちばん注目を集めた部分)については、ぶっちぎりで先行している感さえあるNetflixとの「距離」を意識しないわけにはいかない。
先述のRecodeチャートにもある通り、Netflixの契約者(購読者)は全世界で約1億3900万。同社がオリジナル・コンテンツの制作に注ぎ込む資金は2019年に10億ドルに達するとされている(Appleのほうもとりあえず20億ドル程度はすでに用意があるというのが定説)。Netflixがオリジナルのドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』を製作し、それでエミー賞を獲ったのは6年前(2013年)のことだが、2018年12月に放映されたAlfonso Cuaron監督の『ROMA/ローマ』は「あと一歩でアカデミー賞の最優秀作品賞」というところまでいった(受賞の下馬評が高かった)。比較的短期間に、ユーザー数や作品の本数といった数字を伸ばしただけでなく、できる作品の質のほうもしっかり伴うまでになった。
ゼロからオリジナル製作・配信を始めるAppleは、Disneyのように「鉄板のコンテンツ」ーーESPNの試合中継とか、あるいは『スター・ウォーズ』シリーズや『Marvel Cinematic Universe(MCU)」といったハズレの少ないコンテンツを押さえているわけでもないので、いまのままだとかなり苦戦するのではないか(それでもいろいろ試行錯誤できる余裕のある会社なので、じっくり時間をかけて勝負するつもりなのかもしれない。
さらに、Netflixは特定の市場向けに企画したコンテンツの多言語化というのをしばらく前から積極的に進めている。細分化したニッチ市場をグローバルに切り取って作品の企画を成立させる取り組み、といっていいかもしれない。下記の米CNET記事には「通常の作品で10言語、子供向け番組の場合は26言語も字幕をつくって流すことがある」といった記述もある。
まず懸念のほうから。
「NetflixがApple「AirPlay」のサポートを打ち切った」というニュースが米国時間6日に流れていた。
NetflixはAppleのピンハネに嫌気がさして、しばらく前にiOS端末からの購読申し込みを停止していた経緯もあるので、この「AirPlayサポート打ち切り」というニュース自体はとくに意外でもない。ただ、AppleのTV関連サービスがうまくいけばいくほど競合他者との軋轢は増えるはずで、たとえばいまのところは協力体制を築きつつあるようにみえるAmazonとApple(対Google/YouTubeで呉越同舟しようとなったか)との間でも、似たような事態にならないとは言い切れない。そのあたりは事業者間の問題ということで、ふつうはユーザーには知らされないから、実際に問題が発生してあたふたするというのはすでにFire TVのYouTubeアプリで経験済みある。
それとは別に、市場に参入するプレーヤーが増えることでコンテンツの権利関係の問題が複雑になるという懸念もある。たとえば、いま英語圏のメディアでは4月14日から始まるHBOの大作ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のシーズン8(最終シーズン)の話題で持ちきりだが、このシリーズなどは権利関係の面倒さがユーザーの使い勝手を損なっているわかりやすい例だと思う。私はこのドラマのシーズン6までをAmazonのPrime Videoで(もともとPrime会員だったから追加料金なしで)観た。シーズン7についてはhulu(主にFire TV向けのhuluアプリ経由)でなんとか途中まで見終わった(新シリーズスタートまでには見終われそうもないがそれはどうでもいい)。ただ、おかしなことに、Fire TVのメニューから「ゲーム・オブ・スローンズ」へ進んでも、シーズン7に限っては通常のレンタルまたは購入メニューとそして「スターチャンネルの14日間無料体験」の選択肢しか表示されず、huluのことは出てこない。そして最悪なのはこの「14日間無料体験」画面に進むと次の文言が表示されて行き止まり、というところ。
「www.amazon.co.jp/video/starch にてPrime VideoチャンネルのスターチャンネルEX-DRAMA&CLASSICS-に登録してください」(「戻る」)
このスターチャンネルのアプリというのがまた最悪で……という話は長くなるので触れない。いずれにしても、Netflixアプリの使い勝手とは天と地の差を感じる。
後発のAppleに期待したいのは、こうした使い勝手の悪さを取り除き、さらに(Netflixがすでにやっているような)多言語化と全世界同時リリースをサードパーティーのものまで含めてなるべく多く実現してもらう、ということで、もしそれが実現したらさぞかしフラストレーションが減るに違いないと期待する次第である。
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