ジョルダンは3月26日、全国の自治体、観光施設、交通事業者などを対象に、5月から新種の電子チケットの提供を始めると発表した。同社が提供しているスマートフォン向けアプリ「乗換案内」の機能を拡張し、ユーザーが購入した電子チケットを管理する機能を付け加える。
ユーザーは、乗換案内アプリでチケットを画面に表示させ、専用読取機にかざしたり、係員に提示することで、交通機関や観光施設、宿泊施設を利用でき、買い物や飲食なども可能になるという。
5月のサービス開始時は、交通機関による移動だけでなく、食事や観光施設の利用も合わせた「観光ツアー」の企画切符の販売から始める予定としている。交通機関の切符に合わせて、観光施設の切符、食事券などをセットにして、電子チケットの形で提供する。ジョルダンは新たに提供を始める電子チケットを、1年以内に10以上の自治体や交通事業者などに導入することを目指しているという。
利用者は乗換案内アプリから企画切符を購入し、交通機関利用時など切符の提示が必要なときは、アプリの画面に電子チケットを表示して提示する。担当者が目視で確認し、画面の一部をスライドすると、そのチケットは使用済みとなる。同じように観光施設や飲食店でも電子チケットを利用できる。電子チケットは、多言語対応となっており、近年急増している訪日外国人も利用しやすい。
ただし、企画切符購入時の決済方法についてはまだ正式には決定していないようだ。ジョルダンは「さまざまな方法に幅広く対応する」というコメントにとどめた。
今回提供を始める電子チケットには、英Masabiの技術「Justride(ジャストライド)」を利用している。Justrideは、専用の読み取り機に向けた2次元コードのチケットと、人間が目視で確認するチケットの2種類を発行する。目視で確認するチケットも発行することで、読み取り機の設備が整っていないところでも使い始められるという利点がある。
Justrideの電子チケットには、目視で確認するチケットも発行することで、読み取り機の設備が整っていないところでも使い始められるという利点がある。Masabiも、目視による確認から、スマートフォンのカメラと専用アプリを使用した2次元コードの読み取り、専用読取機と利用者数の増加に応じて段階を踏みながら、設備を導入していける点を大きなメリットとして強調している。
Justrideは、英国の鉄道事業者やバス事業者のほか、オランダ、フランス、スペインの交通事業者なども採用している。米国ではボストンで地下鉄を運営するマサチューセッツ湾交通局(MBTA:Massachusetts Bay Transportation Authority)や、カリフォルニア州の南カリフォルニア地域を走る鉄道であるMetrolink、ニューヨーク市地下鉄を運営するMTA(Metropolitan Transportation Authority)が同社の技術を採用している。ちなみにジョルダンは、2019年1月にMasabiと総代理店契約を締結している。
日本の鉄道では、SuicaやPASMOなどの非接触型ICカードの読み取りに対応する自動改札が広く普及している。ジョルダンの代表取締役社長である佐藤俊和氏は「既存の自動改札にJustrideの専用読取機を追加してもらおうと考えている」という。しかし、世界一の規模を誇る日本の鉄道網すべてがJustrideの専用読取機を導入するには、かなり長い時間がかかるだろう。後発の他業者との競争になる可能性もある。
そして現時点でもSuicaやPASMOは電車やバス、タクシーなどの運賃支払いだけでなく、物品の購入にも対応している。スマートフォンにSUICAやPASMOを登録することで、自動改札機にスマートフォンをかざすだけで通過できるようにもなっている。ジョルダンが描く構想を、既存のSuicaやPasmoの仕組みを利用して実現しようとする業者も現れるかもしれない。
佐藤氏は、日本の公共交通ネットワークは規模も正確さも世界一だが、近年増加している外国人観光客に向けた案内が完全には行き届いていないため、外国人には日本の公共交通ネットワークがあまりに複雑で分かりにくいものになっていると指摘。そして、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、20205年の大阪万博と、多くの外国人が日本を訪れるイベントを前にして、このままで良いのかと疑問を投げかけた。
さらに、フィンランドMaaS Globalが提供している「Whim」というサービスを紹介した。Whimではスマートフォンで目的地までの経路を検索すると、目的地までに利用する交通機関の予約と決済まで済んでしまうというサービスだ。電車、バス、タクシー、レンタカー、レンタサイクルなどを利用できる。さらに、月額定額で電車やバス、レンタカーなどが乗り放題になる料金プランも用意している。一般に言うMaaS(Mobility as a Service)を実現した例だ。佐藤氏はこのような世界の動きに触れて、「移動時にはスマートフォンさえあれば良い、世界はこの方向に向けて動いている」と指摘した。
ジョルダンは2018年7月に、MaaS事業への参入を狙って全額出資の子会社「J MaaS」を設立している。J MaaSの代表取締役社長も務める佐藤氏は、今回提供を始める電子チケット発行の事業を推進しながら、Masabiの技術を活用して構築した、電子チケット発行サービスを共通基盤として他社にも提供する構想を明かした。
具体的には、乗換案内や観光案内のアプリなどを開発する企業にAPIの開示や、SDKの提供という形で、簡単に共通基盤を利用できるようにする。APIやSDKを利用して共通基盤を利用すると、基盤に登録している鉄道やバス、タクシー、宿泊施設、飲食店など、さまざまな業者に向けた電子チケット発行機能を利用できる。
日本ではまだ、MaaS GlobalのWhimまで機能が行き届いたMaaSは登場していないが、ジョルダンの今回の発表により、他社もMaaS事業に参入してくる可能性は高いだろう。スマートフォンで目的地を検索するだけで、途上で利用する交通機関のチケット購入、決済まですぐに済んでしまうようになる日は近いのかもしれない。
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