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教育現場を変えるための「チェンジマネジメント」の重要性--「BETT Asia 2019」現地レポート

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 毎年ロンドンで開催される世界最大規模の教育ITサミット「BETT(British Educational Training and Technology)」。そのアジア開催となる「BETT Asia 2019」が3月にマレーシアのクアラルンプールで開かれた。アジアを中心とした教育動向を知ることができる同サミットでは、何が語られ、何を見ることができるのか。イベントの模様をレポートする。

マレーシアのクアラルンプールで開催された教育ICTサミット「BETT Asia 2019」
マレーシアのクアラルンプールで開催された教育ITサミット「BETT Asia 2019」

教育現場よ、変化をもたらす文化をつくろう

 2019年で5回目の開催となったBETT Asia。同イベントには、アジアを中心に約40カ国2000名以上もの教育関係者が集まり、教育トレンドや最新課題などについて情報を共有し合う。2日間の期間中には、キーノートやパネルディスカッションのほか、さまざまな教育ソリューションの展示やセッションが開かれた。

 2019年のテーマは「Building a change culture to deliver 21st century learning(21世紀の学びを実現するために変化をもたらす文化をつくろう)」。教育分野におけるテクノロジーの活用をさらに前進させるためには、テクノロジーそのものにフォーカスするのではなく、教育に関わる人のマインドや文化を変えることが重要だというメッセージだ。

 確かに、日本の教育IT分野においても同様のテーマが課題であるといえる。いくら教育現場にテクノロジーが導入されても、ネガティブな意見や既成概念に阻まれて、積極的な活用や成果つながらないケースも多い。一体、どうすれば教育現場は変わり、21世紀の学びを実現することができるのか。BETT Asiaが掲げたテーマには、日本も学ぶところが多いといえる。

“人”の変化なくして、教育トランスフォーメーションは起こらない

 BETT Asia 2019のキーノートに登壇したのは、米MicrosoftのAsia Pacific部門で教育分野のDirectorを務めるDon Carlson氏だ。同氏はまず、教育はなぜ変わる必要があるのかについて切り出した。

米MicrosoftのAsia Pacific教育部門でDirectorを務めるDon Carlson氏のキーノート
米MicrosoftのAsia Pacific教育部門でDirectorを務めるDon Carlson氏のキーノート

 Don Carlson氏は冒頭で、フューチャリストのThomas Freyの言葉を引用し、「2030年までに2ビリオン(20億)もの仕事が失われる」と聴衆に投げかけた。なかでも、変化の大きい産業のひとつに“教育”があり、今後、教員の仕事は減りつつある反面、学習者を導くコーチや、学習者に合わせた学びを提供できるコースデザイナー、また学習データを分析できるアナリストの存在が重要になると述べた。これは、テクノロジーの進化によって、学習者の選択肢が広がり、教員主導の学びから学習者主導の学びへとシフトしていくことへの影響だというのだ。

 教育分野だけでなく、産業基盤を揺るがすようなドラスティックな変化は、すでに他の産業でも起きている。Don Carlson氏は、製造業における産業構造の変化などの事例を挙げて説明し、教育が変わる必要性については、もはや必然であると述べた。むしろ、「他の産業で起きる変化を支えるために教育が果たす役割は大きい」と訴え、めざす教育の実現に向けて具体的な戦略を立てて動くことが重要だと伝えた。参考として、マレーシア、タイ、インドネシア、カンボジア、ミャンマーなどの国を挙げ、これらの国は教育プランだけでなく、それをどのように実現していくのか、その戦略が描かれていると紹介した。

Don Carlson氏はマレーシアやタイ、インドネシア、カンボジアなど、それぞれの国がどのような教育の変革に取り組んで要るのか、関連するレポートやリサーチなどを紹介した。
Don Carlson氏はマレーシアやタイ、インドネシア、カンボジアなど、それぞれの国がどのような教育の変革に取り組んで要るのか、関連するレポートやリサーチなどを紹介した

 続いてDon Carlson氏は、“本当にテクノロジは教育に有効なのか”という課題について語った。OECDの調査結果では、IT教育に多大な投資をした国でさえ効果が出せていないとの報告もある。これについて同氏は、教育分野においても変革を効率よく導くための「チェンジマネジメント(変革管理)」の手法を取り入れることが重要だと主張。なかでも、教育分野はテクノロジーに対して批判的な人も多いことから、“人”にフォーカスした視点で、彼らのマインドセットを変えていくような進め方が大切だと述べた。

”Digital transformation is about people.” デジタルトランスフォーメーションはテクノロジではなく、もっと人にフォーカスした視点で進めなければならないとDon Carlson氏は伝えた。
”Digital transformation is about people.” デジタルトランスフォーメーションはテクノロジではなく、もっと人にフォーカスした視点で進めなければならないとDon Carlson氏は伝えた

 教育の変革について語るとき、参考となるリソースがあるとDon Carlson氏はひとつの調査を紹介した。同調査は、Microsoftがエコノミストインテリジェントユニット(EIU)と15カ国以上762名の教育者と協力して実施したものだ。AI時代を生きる子どもたちにとって、どのような教育が感情やスキルの育成に良い影響を与えるのかを教育者に聞いてまとめている。

 その調査結果によると、教育者が実感できる子どもの感情やスキルが伸びる教育は、子ども同士がつながりを持てるソーシャルな学び、教室外で行う特別活動、克服可能なチャレンジに対峙できる学習などだという。一方で、教育者の64%はそうした学習をサポートできるリソースや時間がないと答えていたことも分かった。ゆえに、こうした課題解決にテクノロジーが有効であり、具体的なツールとして「学習を補完し、さらに学びを広げるアプリやソリューション」「ソーシャルに学べるコラボレーションツール」「学習者の感情を可視化できるデータ分析ツール」という3つのテクノロジに対して、教育者の関心が高かったことも報告された。

 
どのような教育が子供の感情やスキルの育成に良いのかを教育者に聞いてまとめた報告。
どのような教育が子供の感情やスキルの育成に良いのかを教育者に聞いてまとめた報告

 Don Carlson氏はこうした調査報告を紹介しつつ、「AI時代を生きる子どもたちには、コラボレーションや共感性、創造性などのソーシャル・エモーショナルスキルがますます重要視される」と述べた。それにともない、学校現場においても学習者主体で取り組む「個別学習(Personalized Learning)」や、感情や対人能力の育成を目的とした教育的アプローチ「Social Emotional Learning(ソーシャル・エモーショナル・ラーニング)」のニーズが高まっているという。つまり、これからのテクノロジー活用については、「個」にフォーカスし、人間力の形成につながるような活用が求められるというのだ。

マイクロソフトが取り組む教育の変革プログラム「Education Transformation Framework」
Microsoftが取り組む教育の変革プログラム「Education Transformation Framework」

 最後に同氏は、Microsoftが取り組む教育の変革プログラム「Education Transformation Framework」を紹介した。同プログラムは、教育システムを変えるために教育関係者や行政担当者らが何に取り組むべきか内容を明確にし、その戦略的な手法をサポートするものだ。現場に根付く教育トランスフォーメーションをめざし、人のマインドセットを変えることを重視していることが特徴である。

 現場レベルでは、教育に関わるステークホルダーを集めてワークショップなどを実施。すでにフィンランドやマレーシア、また日本国内では渋谷区や和歌山県などで同プログラムを用いた教育改革が行われているという。Don Carlson氏は「世界が変わり、我々が教育を前進させなければならない今、もっと“人”と“文化”を変える話をしていこう」と講演を締めくくった。

マレーシアは「STEM教育」から「STREAM教育」をめざす

 BETT Asia 2019では、ほかにもさまざまなセッションが開かれた。BETT Asiaの開催国であるマレーシアの教育大臣Dr. Maszlee bin Malikが登壇し、マレーシアの教育政策について語った。

マレーシアの教育大臣Dr. Maszlee bin Malik
マレーシアの教育大臣Dr. Maszlee bin Malik

 マレーシアは現在、教育政策に力を入れているが、もっとも課題であるのはSTEM教育の普及だと同氏は述べた。同国ではSTEM分野の仕事が、2017年はGDPのわずか7%だったのに対し、2021年にはその割合が45%まで増加する。にもかかわらず、STEM分野に進む学生は全体の4割程度で、長期的にみても減少傾向にあるというのだ。

 Dr. Maszleeはこうした現状について、「約70%の子どもたちがSTEM分野の学習を“難しい”と捉えており、子どもの時からSTEM分野に興味を持てないことが原因ではないか」との見方を示した。そのためマレーシアでは、子どもたちが特別活動などを通してSTEM分野の学習を体験をできるよう、さまざまな学習機会を創出していくという。具体的には、「F1 in school」「STEM for All」「STEM carnival」など、STEM教育を楽しめるイベントを取り入れ、子どもたちの興味・関心を喚起したいというのだ。

 一方で、Dr. Maszleeは国がめざす教育としては、STEM教育に「Reading」と「Art」を加えた「STREAM」であると主張した。どんなにテクノロジーが普及しても、何かを学び、何かを達成する際は言語力と人間的な感性が重要であるとの考えがベースにある。マレーシアでは、こうした教育の実現をめざして今後は教員研修にも力を入れていく方針だ。

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