「サービス業は気持ちにゆとりがなければ接客時に笑顔がなくなる。従業員の笑顔がなければ料理も美味しくない。料理の美味しさは体験も含めて。そこを我々は最大の価値としたかった」と常盤木氏は語り、時間、余裕、人手が少ないのであれば、作り出せばいいと訴えた。
2012年に売上が1億円、経常利益200万円だったゑびやは、2018年に売上4億8000万円、経常利益が2000万円になった。業種も飲食のほか小売、卸売が加わったが、従業員は42名から44名とほとんど変わっていない。1人あたりの年間売上は396万円から1073万円に増加。坪当たり単価も67万円から350万円ほどになっている。
アルバイトの給与も近隣の時給800円に対して、950~1250円+社員旅行付きの高待遇。伊勢神宮は、式年遷宮の年に観光客が最大になり、その後は落ち込むが、ゑびやはスタッフ1日あたりの売上を伸ばしている。「22歳の社員は月給26万円+ボーナス。一般的な地方の給与より高いはず。基本残業なしで完全週休2日制。全社員に10日連続の休暇も与えている。景気が悪いからというのは言い訳にしかならないことを証明した」と常盤木氏は主張する。
次に目指しているのが、1年間のうち1カ月を休暇にすること。要望や入店を通知し迅速なおもてなしをするだけでなく、全スタッフがウェアラブルの「Fitbit」を装着し、心拍数を記録して疲労や適応度を可視化。ホールスタッフとキッチンスタッフの疲れやすさやスタッフ同士でも疲れ方に違いがあることなど、すべてをデータ化している。
これらの情報と来客予測情報を擦り合わせることで、来客数が400名以下の日が続くなら、そこに連休を割り当てられる。逆に600名を超えるとスタッフを2名追加する必要が生じる。常盤木氏は「サービス業で連休10日与えるといっても、現場のスタッフは、ほかのスタッフに迷惑を掛けると考えてしまい、絶対に休まない。これが日本の悪しき習慣。休んでも大丈夫な環境を作ってあげることが大切」と語った。
こうしたゑびやの経験が生かされたシステムは、EBILABで開発・販売している。「飲食店の人は、AIやIoTより、日々の売上を向上し、従業員に給料を払って、ビジネスを継続できることが重要。数字やデータが苦手な人も多いが、我々のツールを1~2年使えば、誰でも数字やデータに強い経営者になれる世界を作りたかった」と常盤木氏は語り、システム料もサービス業が払ってもいいと思える価格設定にしている。
EBILABが販売するツールを使えば、売上報告のためにPCに向かう時間、進捗報告などをなくせる。それらに割いていた時間を使い、今以上により良いサービスの提供が可能になる。
店舗経営ツール「TOUCH POINT BI」のほか、画像解析AIシステム、通行量調査システム、自動発注システム、オリジナル来客予測などがある
また、どういった客層をターゲットにすべきか、滞在時間や客単価から自ずと見えてくる。売上アップにつながる顧客属性を狙うことが可能となり、商品開発や店舗のスタイルも合わせやすくなる。勘に頼るのではなく、データに基づいた経営の意思判断ができるようになる。
常盤木氏は最後にイノベーションや新規事業を考えている人たちにこう訴えた。「今、AIを使い始めないことは、飲食店や小売店における経営上での大きなリスクになる。他社も同様の投資を始めれば、投資効果が低くなる。多少必要経費が高くなっても、他社がやっていないうちに始めれば、必ず利益につながる。イノベーションはデータとセット。物理的なものなのか、物の動きなのか、差別化できるデータから手法に落とし込むことがイノベーションの基本セットになる。ここを考えずに最先端の技術を取り入れるのはただのお遊び。ビジネスをやるのであればデータが必要」。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス