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クックパッドマート事業責任者が語った舞台裏--新規事業における組織づくりの手法 - (page 2)

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クックパッドマート事業が経た4つの時期

 福崎氏は、新規事業には4つの時期があるという。ひとつめは1~3名程度で行う「シーズ・価値検証期」。小さなプロダクトを作り、ユーザーに当てていく時期で「もっとも楽しい時期」(福崎氏)。次は、3~10名程度に拡大したMVP(Minimun Valuable Product)開発期。熱狂的なユーザーを作り、サービスを使ってもらう。そして10名を超えたら収益化するPMF(product Market Fit)期。グロース期は30名を超えた程度と定義している。

新規事業開発における4つの時期
新規事業開発における4つの時期

 「私は小さな組織で新規事業を作ることが多い。30人ぐらいのベンチャーでうまくいっていると、社内で次の主力事業としてフォーカスしようという話になる。目安として30名程度が大きな投資に向かっていける重要なフェーズだと感じている」(福崎氏)。

 福崎氏は、クックパッドマートを立ち上げた1年前を振り返る。「小さなビジネスだとやる価値はないし、シナジーが少ないとクックパッドでやる意味がないといった突っ込みが入る。いろいろと考え、最初は企画書1枚で、上長にこういうことがやりたいと持っていった。伝えたかったアイディアは、”使い方はECアプリ、動いているのは買い物代行”というサービスECモデルだった」(福崎氏)。

「クックパッドマート」最初の企画書
「クックパッドマート」最初の企画書

 福崎氏は「買い物はイノベーションが起きていない分野だ」と語る。「タクシー配車アプリもあるし、出前も呼べば来る時代なのに、買い物に関してはみんなレジに10分並んで、買い物袋を持って帰る。時代が変わっているのに、買い物だけは古いやり方のままだ。そこを変えたいという思いが強かった。また、生産地域に行けば安くて美味しい食べ物はいっぱいあるのに、普段はそこまで出かけられない。こうしたものを買い物上手な人に買いに行ってもらえれば、自分が買うよりも良いものが手に入るかもしれないと感じていた」(福崎氏)。

 福崎氏は、アイディア自体に固執していたわけではないという。「とにかく新規事業の最初は、マーケット選択と誰が何をやるかがすべて」だと述べる。「マーケット選択では、1億円ぐらいしかないマーケットを挑戦しても儲からない。儲からないと人を雇えないし、誰の協力も得られない。マーケットが大きく、事業規模が取れるかどうか、今やるべきなのかということは非常に重要だ。また、事業のテーマ設定では経営陣や投資家がまずはやってみたいと思える事業を作ることが大切。儲かるか、実現できるか、勝算はあるかがポイントだ」(福崎氏)。

 次は仮説検証の開始だ。「やる価値があるか」を「投資を続ける価値があるか」に変換する時期だと福崎氏は語る。どの程度の期間やリソースで事業として収益化することができるかを検証する。「仮説検証していくにあたり、3人のチームを作った。デザイナーとエンジニアを1名ずつ誘って話し合い、提供したい価値は1日で合意できた。ファーストリリースまで11日で開発できた。」(福崎氏)。

11日で開発した買い物代行サービス
11日で開発した買い物代行サービス

 11日で開発したものは、スプレッドシート入力で頼める買い物代行サービスだ。「当初の企画書のアイディアを実現するには数カ月かかる。人間は数カ月もモチベーションが続かない。そこでユーザーに使ってもらいながら議論していくことが重要だ。スプレッドシートでの買い物代行サービスを社内で告知し、2日間実施した。車を借りて近くの商店街を周り、スーパーよりも安く品質の高いものを購入した。すぐリリースした理由は、ガワはECで裏側は買い物代行というモデルが成立するかを検証するためだった。実際には便利さを感じてくれる人が多く、成立すると感じた。また、買い出しには負荷が大きいことも判明した」(福崎氏)。

 福崎氏は翌週に「デザインスプリント」というメソッドを使って、サービスの価値を経営陣と共有した。デザインスプリントとは、Googleのサービス開発などでよく使われるメソッドとのことで、マップ、スケッチ、ディサイド、プロトタイプ、テストの5段階で検証する思考だ。「デザインスプリントは1日8時間かけて5日間行う。すごくハードで体力を使うが、社内テストで得た知見を共有しながらやっていった」(福崎氏)。

社内で経営陣や意思決定者と行ったデザインスプリント
社内で経営陣や意思決定者と行ったデザインスプリント

 次はMVP開発期へと移る。「このモデルを本当にスケールさせられるのかを実証していく時期だ。オペレーション負荷の軽減が最重要課題とわかっていた。メンバーを3名から8名へ増やした。社内テストを週2日定期運用することにした。ウェブサイトで注文できるようにし、より良い商品の提供を目指した。オペレーション負荷軽減に関しては、買い出しを外部にしてオペレーションを検証、運送業者に運搬を委託した。1カ月強でサービスをリニューアルし、最初のイメージに近づくことができた」と福崎氏は語る。

 ここでプロダクトのイメージが固まってきたので、福崎氏は目標設定を行った。「最初の段階で目標設定してもモデルが変わってしまうので、意味がない。この時期に設定すべき」(福崎氏)。そして、その目標(KPI)に近い数字を出すことができたという。

 この段階で気づいたことは「保冷」の難しさだった。「生鮮食品は保冷が大切だが、想像以上に難しかった」と福崎氏は振り返る。「クール便でも10度以下だが、我々はそれよりも厳しい基準でやっている。それは、魚も肉もこだわりを持っている販売者なので、きちんと温度管理してほしいという思いも強いからだ」(福崎氏)。

 こうしたリスク管理も行うようになると、サービスを外に出すという気持ちに変わってくると福崎氏は言う。外部サービス展開に向けた整備として、アプリ制作、使い続けられるモデルの検証、流通管理の開発、保冷や衛生基準の確立などを行った。この段階で運用は4つのチームに任せ、福崎氏はリーダーシップ人材の採用活動に着手した。

 MVPの開発期はメンバーになるべく任せ、責任者はメンバーの先回りをして事業リスクの解決を最優先にすることが大切だという。「採用活動も事業責任者が死守すべき領域だ。立ち上げ人材から専門領域の人材を採用していき、熱量が高くなるチームの状態を作る。年1000~2000人の応募をさばいていく」と福崎氏は述べた。

サービスリリース後はメンバーのキャリア形成も

 こうしてクックパッドマートは2018年9月20日にサービスをリリースした。ここからはPMF期・グロース期だと福崎氏は語る。小さなユーザー手段での成功からスケールに向けたリソースを整えていく段階で、事業作りで一番苦しい期間だという。

 「この段階までくる事業は20~30%、さらにここから半分以下になる。この時期にはスピードが一気に落ちる。専門人材が入ってくると他の人に渡さない、ディテールに凝る人もいる。労務や人事トラブルなども発生してくる。そこで、自分自身も含めて進むべき道を整理し、ゴールを設定する。大型の予算・資金調達を前提とした課題設定をし、達成可能なギリギリの目標値にする」(福崎氏)。

 また、「ビッグイシューの認識と打ち手の整理も必要」だと福崎氏は述べる。イシューは数時間から数週間で解決すべき課題で、ビックイシューとは本質的に解決しなければならない課題集団だという。ビッグイシューにはチームの半分以上のリソースを投下する決断が重要で、必ずPM(プロダクトマネージャ)を決めて責任と権限を与えるべきだと福崎氏は語った。

 そして、福崎氏はこの時期、組織運営に巻き込むメンバーを増やす段階でもあるという。キャリアや労務関連などをスピーディに対応できる体制を作り、さらにメンバーのキャリア形成についても考える。クックパッドマートでは、PM、GM(グループマネージャ)、プロフェッショナルのいずれかをチームメンバーが目指せる状態を作っているという。

 「私自身は次の大胆な一手を考える時期だ。大ジャンプの準備を仕掛ける。資金調達や大型採用、重要な事業提携などにフォーカスし、3~5年の事業計画を行う。ここまで来たら、あとは突っ走ってやっていくだけだ」と事業開発のグロース期について語った。

 最後に福崎氏は、「事業責任者は多重人格者でないといけないといつも感じている。最初は自分自身がやりたいことを突っ走っていって、その次はチームへ思いを伝える。そのあとは、みんなが自分がまいた種を大きくしていくところを見ながら、自分は違う動きをしていくのだ」と、これまでの新規事業開発の経験から責任者の思いを述べた。

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