オムロンは1月、ラスベガス市で開催された「CES 2019」で、最新のAI技術を備えた第5世代の卓球ロボット「フォルフェウス」を披露した。ロボット本体のポイントは、特別なものではなくオムロンが販売する産業機器をベースに作っていることだ。
同社のブースでは、フォルフェウスを構成する最新技術を用い、モノづくりの現場においてどのように生産性や品質を高め、作業者の安全を守り、能力の強化を支援するかを紹介した。
第二次産業のモノ作りの場において、なにかを移動させる、はめ込むといった単純作業をロボットで効率化できることは経営的にも作業をする人間にとってもハッピーなことかもしれない。しかし、さらにロボットが進化して能力がもっと高まれば、いろいろな場面で人間の仕事はなくなるのではないか、という懸念もわいてくる。
ロボットを手がけるオムロンは、人とロボットの将来の関係をどう見ているのか。近未来をデザインする研究会社、「オムロン サイニックエックス」(OSX)の代表取締役社長で技術専門職 博士(工学)の諏訪正樹氏に話を聞いた。
“機械が人間を越える”ということには範囲の問題があって、機械がすべてを越えるのは難しいと思っているのです。
なぜかといえば、人間のセンシング&コントロール──すなわち人間の五感と身体性は機械とまったく違います。オーバーラップする部分としない部分があるのは当然のことです。知能のレベルでいっても“常識”にかかわるところは機械はどうしても持ち得ない。やっぱり人の知恵がいる。機械に置き換わるところも多いのですが、モノ作りの世界では“人の得意なところと機械が得意なところは重ならない”ところがとても多いんです。
ある工場ラインをほぼ全自動でつくったものの、一箇所だけが技術的な壁があり全自動になりきらなくてボトルネックになってしまった、みたいな事例はいろいろなところでお聞きします。ロボットは人間にとって代われるのですが、ロボットになにかを教えるというときに人間が必要です。
ロボットには微妙な調整が必要で、いまは熟練の技術者が教えることが多い。一つここ10年で変わるのは、システムインテグレーターとか熟練者と言われるロボットを動かせる人が絶対的に減ってきたり、高齢化が進んで熟練者不足になったりすることです。これは間違いなく直近の近未来の課題なのです。
その間に、完全に移行するまでに初心者でもロボットに教えられるようにする。その人が熟練者になるまでロボットに教えられないという期間を短縮することが生産性を上げることにつながり、そこは人が残ります。
これは自動運転の話もそうです。いまは限られたところで完全に自動運転で走れるところはありますが、日本のありとあらゆる道路で完全に自動運転のみになる時代はまだまだ先だと思います。もちろん自動運転の車も走るけれど、人が運転する車も走る。
そのときに困るのがコミュニケーションです。たとえば、クルマを運転しているのが自動運転のクルマだとわかったら、何も考えずにスッと割り込むドライバーが増えるのでは?と時折考えたりするわけです。なぜなら、ドライバーは完全自動運転の車とは絶対にぶつからないと分かっている。そうすると、自動運転のクルマは高速になかなか入れない。間違いなくこんなことが起きるでしょう。見立てでは10年~20年は人とクルマのインタラクションという課題は残ると思っています。
そこに人のクリエイティビティがフォーカスされるのではないでしょうか。AIとかロボティクスが進化したものをどう使いこなすか。そこに人の仕事はシフトすると思います。単に、“モノをつくること”にシフトをするのではなく、“モノを作る機械をどう面倒見てどう教えるか”です。
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