ロボットの進化で人の仕事はどう変わるのか--オムロン サイニックエックス社長に聞く - (page 2)

人間とロボットの溝を埋める2つの方法

 不測の事態があったとき、ロボットは“不測”ということがまずわかりませんから、お前がやったことはこれこれこういうことでこうだよ、という不測をいかに簡単に教えるか。そうしたたくさんの仕事が残るのです。

 AIが人にとって代わるという話がありますが、とって代わるよりも機械が育つまでに人が育む仕事が山ほど。だから逆に人手不足になると思いますし、僕はそのほうがむしろボトルネックになるのではと思ったりします。そんな近未来を考えながらモノ作りの世界を考えます。

最新のAI技術を備えた第5世代の卓球ロボット「フォルフェウス」
最新のAI技術を備えた第5世代の卓球ロボット「フォルフェウス」

 このフォルフェウスに卓球を教えるのにも、とても時間がかかっています。また設置場所を変えると、細かいセッティングに1~2日はかかることもあるわけです。機械を置いて、人がプレイしたら終わりではない。このロボットはいずれ、何回かプロの選手がプレイすれば覚えるようになるとは思うのですが、そこにいくまでにまだ時間がかかる。ロボットの面倒は人間がまだまだたくさん見ないといけない。

 結局人に置き換わるロボットができても、ロボットを教える人の数が足りないことがボトルネックになる、そんな未来感がくるかもしれない。まだまだ人のやることがあるということです。

 人の持っている身体性と機械が持っている身体性はまったく違うので、ロボットはわれわれの動きが理解できません。われわれもロボットの動き方が理解できない。そのギャップを埋めるということが技術的な壁です。

 簡単に思いつく解決方法は、人間のアクチュエーションどおりのロボットを作ること。同じ関節同じ筋肉、同じ動きをするというのであれば、あとAIのプログラムを書けばいい。ただし思いつくのは簡単ですが、技術的な実現は極めて困難です。

 ロボットの進化の方向性は二つあります。さきほど言ったように人間そっくりのロボットをつくるか、人間とおぼつかないようなロボットでも知能を持たすことで人間の言われたことをできるようにするかです。でも当然、ロボットにできないこともあるので、できないときに大事なのは「できません」ということ。そこはまた人の仕事が残るのです。

人と機械の融和とはなにか

 人の機械の融和は、根本的に人と機械がそれぞれ得意なこと、苦手なことがオーバーラップしない部分を互いに補完することが大前提です。完全に人の身体性を持った互換ロボットを作らない限りはオーバーラップしないことは目に見えています。

 展示している機械は人間ができることの何パーセントかしかできませんが、できることに対するスピードはものすごく速い。正確性、たとえばモノをある場所に決められた時間内に何個置く、などのタスクにピン留めすれば人間は到底かないません。ただしピン留めすることが不可欠であり、そういうアンバランス感があるので、人のやるべきことというのはここでも絶対に残るでしょう。

マグネットをピッキングし、ケースにはめ込むロボット。高速・高精度 4軸パラレルロボット Quattroシリーズと、搬送/組立/精密加工/接着用 スカラロボット Cobraシリーズを使用。きれいにマグネットをピッキングする様子は見ていて飽きない
マグネットをピッキングし、ケースにはめ込むロボット。高速・高精度 4軸パラレルロボット Quattroシリーズと、搬送/組立/精密加工/接着用 スカラロボット Cobraシリーズを使用。きれいにマグネットをピッキングする様子は見ていて飽きない

 大嵐など、ワイパーで拭いても雨粒がついて見えないようなシチュエーションで人が下す運転の判断は、クルマの運転の中で身に着けたスキルではなく、ほとんど日常の経験、これまでの過去の経験、常識の判断──といったものを使っているはずなんです。

 人が知っている常識は、機械が持ち得ないものなので、そこに人と機械の融和が必要になる。そういうシチュエーションが残るので、人から機械に変わるところは増えていくのですが、その準備をしないといけない。そこは人が手助けをしないといけません。

人間とともに作業ができるアーム型協調ロボットTMシリーズ。CES 2019のオムロンブースでは、協調ロボットが「マグネット」とケースをセッティングし、人間に手渡すデモを行った
人間とともに作業ができるアーム型協調ロボットTMシリーズ。CES 2019のオムロンブースでは、協調ロボットが「マグネット」とケースをセッティングし、人間に手渡すデモを行った

メガネ、補聴器、義足--人間の能力の拡張とSFの世界のはざま

 人と機械の融和のもう一つの側面は、人間と機械が一体化していくという世界も考えています。人間の能力を拡張していくという話です。

 たとえば目が悪くなったときに、メガネをかけて矯正しますよね。そういう道具の延長が進んだときに、人間の拡張というのはどこまでいくのか?あるいはどこまで「人間の拡張」という範囲で自然に受け入れられるのか?など、まだ議論する余地がある。

 SFのような世界をイメージされるかもしれませんが、わかりやすいのはオリンピックの記録をパラリンピックが続々と更新し始めたときだと思います。

 オリンピックの男子100メートル走でパラリンピックの記録が抜くのはいつだと思いますか?僕は2028年のロサンゼルスオリンピックの頃ではないかと思っているんです。パラリンピックで義足の選手の記録がウサイン・ボルト(2009年100m世界記録:9秒58)の記録を抜いて人類が初めて8秒台の世界に突入する、なんていう話を想像したりするわけです。

 そうしたときに、身体性の拡張が非常にわかりやすい形で議論になる。目が悪いからメガネをかける、耳が悪いから補聴器をつける、足悪いから義足をつける──。こういうことの延長がどんどん進んでいくと人類の能力の拡張という点でわれわれの想像をちょっと越え出します。

 そのうち義足に超小型のモーターなどがどんどん入り始めるでしょう。私が知らないだけでもう入っているかもしれません。超小型モーターが入った瞬間にそれは道具というよりはもはや機械ですよね。SFというよりももう身近です。これも、人間と機械の融和です。それは人間と機械が一緒に作業するというような融和ではなくて、人と機械の一体という意味での融和です。

 オムロンでも血圧が測れるウェアラブルがありますが、つねに自分の身体をモニタリングしてくれる機械があると、だんだん一体化してきますよね。これは実はちょっとずつ、ちょっとずつの融和で、究極の進化はもう足元まできています。

オムロンヘルスケアが米国で販売を開始したウェアラブルの血圧計(499ドル)。FDA(Food and Drug Administration/アメリカ食料医薬局)から医療機器認証を取得している
オムロンヘルスケアが米国で販売を開始したウェアラブルの血圧計(499ドル)。FDA(Food and Drug Administration/アメリカ食料医薬局)から医療機器認証を取得している

取材協力:オムロン

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