パナソニック津賀社長が話す2030年に生き残る戦略--「くらしアップデート業」がもたらすもの(前編) - (page 2)

「アップデート」は100年企業が、次の10年、20年に向けて発展するために必要なプロセス

――くらしアップデート業を打ち出したことで、新たに課題と感じている部分はありますか。

 くらしアップデート業を打ち出したからといって、パナソニックが全面的に、一気に変わることはありません。だが、くらしアップデート業を今打ち出さないと、10年先はない。極端な言い方をすれば、すでに存在するマーケットのなかで、よりよい商品を目指したアップグレートという考え方だけでは、もはや顧客へのお役立ちが下がってしまう。

 価格競争に陥ったり、安い中国製商品に流れるといったことが起こり、それを打開するために、また、新たなヒット商品を作らなくてはならないという話になります。しかし、パナソニックの規模で、全体を引っ張っていけるような新たなヒット商品を、そう簡単に生みだせません。今まで持っている蓄積を生かしながら、大きく考え方を変えるのが、くらしアップデートであり、家電の作り方をリセットしなくてはなりません。

 そのリセットにおいては、単品思考ではなく、ソフトウェア的な横軸の導入とともに、全体のくらし環境からユニットごとに果たす役割に分解して変えていく必要があります。そして、必要に応じて、お客様の好みにあわせてアップデートできなくてはなりません。その条件で、もう一度、世の中を再定義することができる。それが目指す究極の姿です。この究極の姿が実現したら、当然、その先をどうするのかをまた考えなくてはなりませんが、「くらしアップデート」の枠組みを作るだけでも、すぐに答えは出ません。

 今、私が未来に向けてしている会話は、「それはアップデータブルですか」というものです。ここでいうアップデータブルは、「くらし」は一度横に置いてもいいから、「アップデータブルなビジネスモデルに変えることができるのか」ということに、優先して取り組んでほしいということを言っています。「くらし」に関わる部分については、「くらしアップデート」でいい。直接的な「くらしアップデート」もあるし、間接的な「くらしアップデート」もある。そして、ほとんど「くらしアップデート」に関わらないものもあるでしょう。いずれにしろ、パナソニックは、アップデータブルでなければやっていけない。

 これまでは、ヒット商品を生むために、何十年もかけて成果をあげた研究開発をベースにしてきました。今でも、全固体電池やコストが2桁安い太陽光電池の開発などに向けては、何十年かけても追い求める価値があると思って、研究開発を進めています。

 しかし、多くの技術は、今や研究開発に何十年もかけるわけにはいきません。20年かけて、できるかどうかわからないものに取り組んでも、完成したときには陳腐化しているものも多い。長年かけて研究開発ができないのであれば、アップデータブルにするしかない。しかも、コンピュータやソフトウェア、ネットワークというアップデータブルな領域が進化を遂げており、世の中全体がそれによって変わろうとしています。「くらしアップデート」に込めた意味はそこにあり、パナソニックは、それにあわせて研究開発体制も変えはじめました。パナソニックがアップデータブルでなければ、その進化には乗ることができません。

 「くらしアップデート業」を発信して以降、アップデータブルでないものを、どうやってアップデータブルにしていくかを考えるという課題が現場にはあります。今後は、ハードウェアの価格を下げなくてはならないなかで、別の価値を提供することで対価を得る仕組みにしなければ、アップデータブルにする意味はないと考えています。

 私は、2020年のCESのパナソックブースは、「アップデートで行け!」と言ってきました(笑)。それに向かって、社員は悩むことになるでしょう。だが、これは決して悪いことではなく、100年企業が、次の10年、20年に向けて発展するには必要なプロセスであると考えています。

 「くらしアップデート業」を発信して、約3カ月を経過しました。今、ヨコパナの象徴として、HomeXに取り組んでいますが、HomeXに対応すればいいと、軽く受け流すだけの意識の社員もまだいるように思います。その発想では駄目です。これからはアップデータブルにしないと生き残れないことが理解できれば、HomeXへの対応の仕方も変わってきます。

 単にネットワークにつながって制御できればいいのではなく、その家電はアップデータブルなコンセプトになっているのかを追及しなくてはなりません。もちろん、事業そのものは連続性が重要であり、すぐに「アップデータブルなものだけで事業を構成せよ」とは言いません。だが、2030年に向けた伸びしろはここにあり、いよいよその方向に行くしかない、退路が絶たれてきたという感覚を持ち始めたのが今のパナソニックの姿です。

 パナソニックは、38もの暮らしに関わる事業を持っています。それだけの規模でクロスバリューを図ることができる会社はほかにありません。たとえば、将来の電子レンジがどうなるかという回答を出せるのは、パナソニックです。

後編に続く。

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