「ムーアの法則」よ、安らかに眠れ。お疲れ様。
少なくとも、NVIDIAの最高経営責任者(CEO)、Jensen Huang氏はそう考えている。グラフィックスチップメーカーのNVIDIAを共同創設した同氏は米国時間1月9日、「ムーアの法則はもはや成り立たない」と断言した。
半導体製造で重要なのは、トランジスタと呼ばれる部品の小型化だ。トランジスタは、電子レンジからスマートフォンで稼働する人工知能(AI)アルゴリズムまで、あらゆるデータ処理を担う超小型の電子スイッチだ。
Intelの共同創業者、Gordon Moore氏が1965年、継続的なチップの改良により、プロセッサ性能は2年ごとに倍増すると予測した。このムーアの法則は、コンピュータプロセッサ製造のガイドラインにとどまらず、定期的なイノベーションの定義へと進化し、テクノロジ業界を推進する自己達成的な予言になった。Appleの「iPhone」やサムスンの「Galaxy」シリーズなどのスマートフォンの定期的な進化はムーアの法則のおかげだ。
だが、チップの部品が原子レベルの小ささに近づくにつれ、ムーアの法則のペースを保つのは困難になってきた。2年ごとにトランジスタの数を倍増させ、処理能力を2倍にするには、コストが以前より掛かるようになり、技術的にも難しくなってきている。
Huang氏はCES 2019で、少数の記者やアナリストが参加したパネルディスカッションの質疑応答で、「ムーアの法則はかつて、5年ごとに10倍、10年ごとに100倍だったが、いまでは毎年数%だ。10年単位でおそらくせいぜい2倍だろう。ムーアの法則は終わったのだ」と語った。
Huang氏がムーアの法則の終えんを主張するのはこれが初めてではない。同氏は同様のコメントを過去数年の間に何度か行っている。
IntelおよびMoore氏本人にコメントを求めたが、すぐには回答を得られなかった。
テクノロジ業界は、半導体の進化のペースが遅くなれば、エレクトロニクス全体の改革も遅くなると懸念する。プロセッサの小型化がバッテリ持続時間の延長や端末製造のコスト削減、性能向上を担っているのだ。
半導体業界のリーダー的地位を長年保ってきたIntelは、サムスンなどの競合が7nmプロセスのプロセッサを出荷する中、10nmプロセスへの移行を何度も延期した。だが、Huang氏などはムーアの法則が終わったと主張しているが、材料科学者は、代替手段を追求することで半導体技術を進化させる方法を発見し続けている(代替手段としては、例えば極薄炭素シート「グラフェン」などがある)。
Moor Insights & Strategyのアナリスト、Patrick Moorhead氏は「2年ごとにチップの密度を倍増させるという厳密な定義のムーアの法則はもう成り立たない。チップの小型化をやめれば、テクノロジ産業全体に壊滅的な影響を与えるだろう」と語った。
だが、Moorhead氏は、テクノロジ業界が(NVIDIAが製造するような)GPU、高度なソフトウェアフレームワークやツール、回路設計の改善などによる別のコンピューティング方法を採用していると指摘した。
一方、台湾のモバイルチップメーカーであるMediaTekの最高財務責任者(CFO)であるDavid Ku氏は、ムーアの法則が死んだとは言わないが、ペースが落ちていることは認めると語った。Ku氏によると、MediaTekは現在、7nmプロセスのプロセッサを製造しており、間もなく5nmプロセスに取り掛かると語った。
Ku氏はCESでのインタビューで次のように語った。「低電力消費のメリットは大きい。だが、おそらくこれまで実現してきたようにはコスト削減できないだろう」。今後の製造プロセスではEUVリソグラフィ用の機器のような、より複雑な装置が必要になるため、チップの製造コストが上がる可能性があると指摘した。
「(ムーアの法則は)スローダウンするが、終わるわけではない」(Ku氏)
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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