不動産不正融資の発覚や、Softbank Vision Fund(ソフトバンク ビジョン ファンド)によるWeWorkへの巨額投資など、前編では、2018年の不動産業界について触れた。では2019年の不動産テックにはどんな動きが起こると予想されるのか。後編では、2019年以降のトレンドについて解説する。
2019年以降の不動産テックが向かうトレンドについて予想してみたい。予想するトレンドは、2019年の単年というよりも数年先の今後を見据えて考察したい。
(1)ハードからソフトへ
(2)賃料モデルからサブスクリプションモデルへ
(3)日本版MLSの登場
(4)スマート仲介
「建物はもはやコモディディ化している」。数年前より不動産関係者はみな口々に、テクノロジーによるイノベーションを模索している。一方、WeWorkが急速に広がった理由の1つが、コミュニティマネージャーによる交流イベントや専用のSNSによるコミュニティづくりを重視した点である。
昨今、海外ではオフィスビルにおいて、District(ディストリクト)やEquiem(エクイエム)といったオフィス統合アプリが広がり始めている。オフィス統合アプリは、オフィスビルで働くワーカーが、オフィスを効率的に利用できるサービスや働きやすくなるサービスを統合した新たな概念のアプリサービスである。
例えば、建物施設や会議室の予約、ビル内のイベント予約、ビルに入っているワーカー同士のSNS、コンシェルジュの派遣などが同アプリから簡単に利用できる。また、オフィス清掃、設備の修理点検、スタッフ派遣、ITサポート、引越し支援などオフィス庶務のオンデマンドサービスを専用タブレット端末から簡単に利用できるプレイヤーも登場している。類似サービスとして国内では、コクヨ&パートナーズが提供するオフィス関連の総務アウトソーシングサービスのオフィスコンシェルジュも好調だ。このように、人々は建物や設備といったハードウェアの部分は、一定レベルのクオリティを当たり前のように求めた上で、加えてソフトウェアの部分に価値を感じるようになってきている。
オフィスビルだけではなく、他業界に目を向けても「ハードからソフトへ」のトレンドが起きている。例えば、住宅と同様に高額商品である自動車は、燃費といったエンジンを中心とするハード面の競争から、自動運転やコネクテッド、ライドシェアなどCASE時代の到来によってソフト面の競争へと突入している。他にも音楽はCDやDVDのハードからストリーミングのソフトへ、携帯電話もガラケーのスペック競争からスマホ上のアプリやバンドルサービスの競争へとシフトしてきている。
背景にあるのは、ミレニアル世代による“所有”から“利用”への価値観の変化である。1980年以降に生まれたミレニアル世代は、モノを持たず利用や体験を重視し、インターネットやスマホが当たり前のデジタルネイティブ世代である。こうしたミレニアル世代が今後さらに経済のボリュームゾーンを担っていく大きな流れがある以上、ハードからソフトの流れが加速していくことだろう(図表2)。
前述の「ハードからソフトへ」というトレンドにも通じるところがあるが、住宅やオフィスそして物流施設などにおける収益モデルが従来の賃料ビジネスに加え、オンデマンドサービス等の利用料ビジネス、即ちサブスクリプションへと多様化していくことが予想される。
すでに住宅シーンにおいて、その萌芽は現れ始めている。例えば、2017年10月にアマゾンが「Amazon key(アマゾンキー)」(1月7日、Key by Amazonに改称)を発表した。Amazon Keyは、不在時でも配達員が玄関ドアを解錠して家の中に荷物を届けるサービスであり、自宅清掃サービスやペットシッターサービスなどのオンデマンドのホームサービスAmazon Home Services(アマゾンホームサービス)にも対応する。
現在、デジタルビジネスの最先端を行く米国では、ホームサービス領域がホットだ(図表3)。ホームサービスとは、ホームクリーニング、料理、ベビーシッター、荷物の運搬、引越し作業、家具の移動・取り付け、庭掃除、小さなリフォームなどのあらゆる日常的な作業を代行するサービスである。日本で言う家事代行サービスに近い。
米国では、ホームサービス業者をウェブやアプリ上から簡単に検索、依頼することができる。ホームサービス業界のツートップの一角であるAngie‘s List(アンジーリスト)はホームサービス業界の市場規模を4000億ドル (約40兆円)とも推定しており、このホームサービス領域に小売大手が参入してきている。TaskRabbit(タスクラビット)は2017年に家具大手のイケアに買収され、Handy(ハンディ)は2018年にウォルマートと提携した。
こうした動きを受け、ホームサービス業界のツートップであるHomeAdvisor(ホームアドバイザー)とAngie’s listは2017年に合併している。アマゾン、イケア、ウォルマートtなど小売がホームサービスとつながることで、自社の商品をよりシームレスにより高頻度に購入してもらうことが可能となりシナジーが期待できる。
例えば、イケアは家具の組み立てや取り付けをホームサービスによって行うことができるだろう。また、ウォルマートは掃除や料理の代行をするホームサービス業者がウォルマートで洗剤や掃除道具、食材を購入してもらうことが期待できるだろう。前置きが長くなったが、Key by Amazonはこうしたチャネルを広げる役割を果たすことが期待される。
国内でもスマートロックを提供するライナフが、不在時にも荷物の宅配や家事代行などの各種サービスが家の中に入ってくることができる「サービスが入ってくる家」プロジェクトを開始している。プロジェクトには、宅配サービスの生活協同組合パルシステム東京、宅配クリーニングのホワイトプラス、買い物代行サービスのhonestbee(オネストビー)、家事代行マッチングサービスのタスカジ、家事代行サービスのベアーズと、クラウド録画型映像プラットフォームを提供するセーフィーの計5社が参加しており、スマートロックなどの初期導入費は不動産デベロッパーや管理会社が負担する。賃貸マンションからのスタートとなるが今後は分譲マンションへの導入も目指している。
賃貸仲介のエイブルも面白い取り組みをしている。エイブルは、賃貸で暮らす独身女性の生活を応援するため、お得な割引クーポンやオンデマンドサービスを利用できる女性向け会員クラブ「Maison Able Club(メゾン エイブル クラブ)」を展開。例えば、ヨガスタジオやスポーツクラブ、オンデマンド倉庫のminikura(ミニクラ)やファッションレンタルサービスのairCloset(エアークローゼット)などが無料または割引で利用することが可能である。開始2年間で約3万5000人の会員に達しており、独り暮らしの女性の大変好評だ。
住宅の世界だけでなく物流の世界においても賃料モデルからサブスクリプションモデルへとシフトする動向が見られる。その先頭を切るのが大和ハウス工業だ。近年、ECの爆発的な普及と共に宅配ドライバーや倉庫作業者の人手不足が大きな課題となっている。その解決策としてロボットやマテリアルハンドリング(マテハン)、ITソリューションの導入を検討するものの、ノウハウや実績がなく物量の波動もネックとなるため自前で大きな投資を行うのはリスクを伴う。
そこで大和ハウスは、倉庫や設備の初期費用、オペレーションコストの全てを賃料などと同様に利用料として請求する従量課金制の実現を目指している。従量課金もサブスクリプションの一種だ。このように所有や占有の対価が賃料モデルであるのに対して、利用することの対価がサブスクリプションモデルである。今後は住宅もオフィスも物流施設もサブスクリプションモデルが増えていくであろう。
このように住宅の付加価値としてホームサービスやオンデマンドサービスが当たり前のように利用する時代が目の前まで来ている。今後は従来の賃料モデルに加え、オンデマンドサービスのサブスクリプションモデルへと多様化していくことが予想される。盛り上がりを見せるオンデマンドサービスの普及拡大の鍵が決済だ。
オンデマンドサービスの決済はクレジットカード決済が多いため、シニア層の利用拡大のハードルとなっている。日本ではシニア層のクレジットカードの利用率が欧米と比べまだまだ低い。特にネット決済は顕著だ。そこでサブスクリプションの料金を賃料に上乗せして徴収することで、シニア層向けのオンデマンドサービスが利用拡大し、シニア層を一気に取り込むことも可能だろう。そういう意味で住宅におけるオンデマンドサービスの制空権は、賃料の収納代行にあるとも言える。
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