2017年の44億ドル(日本円にして約4800億円)の巨額投資で世界を驚かせたWeWork(ウィワーク)に続き、Softbank Vision Fundが続々と不動産テックのプレイヤーへ投資をしている。WeWorkに続き、テックを活用したスマートな不動産仲介会社Compass(コンパス)に4億5千万ドル(同約500億円)、テックを活用することでシームレスな建設サプライチェーンを提供するKATERRA(カテラ)に8.65億ドル(同約950億円)、買取再販のiBuyerのプラットフォームを展開するOpendoor(オープンドア)に4億ドル(同約450億円)とマーケットを賑わせている。
一方、日本国内でも2018年に入っても不動産テックの新サービスが続々と登場すると共に、7月に上場したばかりのGA technologiesが10月にイタンジを完全子会社化するなどベンチャー界隈の動きは活発である。そうした中、不動産テック協会も設立され、筆者も初版から関わっている国内の不動産テックのカオスマップも不動産テック協会へ移管された。国内の不動産テックのカオスマップは2018年3月の第3版まで作成され、この度11月28日に第4版が発表された(図表1参照)。
第4版の更新にも関わらせて頂いた筆者が、第4版について解説させて頂く。今回の第4版の更新ポイントとしては大きく3つある。
(1)カテゴリー定義
(2)掲載ガイドライン
(3)掲載サービス数の大幅増
まず、1つ目が(1)カテゴリー定義である。今回の更新にあたって各カテゴリーの定義を明確にしている(図表2参照)。
カテゴリーの定義を理解する上で留意が必要な点が、“シェアリング”である。マップ中の「シェアリング」カテゴリーの定義は、あくまでも不動産やスペースのシェアリングであるため、ヒトのシェアリングは「マッチング」と「リフォーム・リノベーション」のカテゴリーに属している。マッチングにおけるヒトのシェアリングとは、建築関連における職人・大工・作業員のマッチングサービスである。また、リフォーム・リノベーションにおけるヒトのシェアリングとは、主にリフォーム業者のマッチングサービスである。
さらに留意が必要な点が、“民泊”である。民泊はAirbnbのようなスペースシェアのサービスはシェアリングカテゴリーに属している一方、合法的な民泊物件を集めたポータルサイトは物件情報・メディアのカテゴリーに属している。
続いて2つ目が(2)掲載ガイドラインである。掲載ガイドラインは、どのようなサービスを掲載し、どのようなサービスは掲載しないのかという基準を明確にしている(図表3、図表4参照)。今回の掲載ガイドラインに従い、第3版までは掲載していたが、今回の第4版では未掲載としたものも幾つかある。例えば、見た目がテック風のオウンドメディアサイト、Webサイトの構築を請け負うサービス、一括査定系のサービスなどが該当する。ただし、今回の第4版はカオスマップへの新たなサービス追加が主な目的であったため、積極的な未掲載化を今回は行っていない。
また、今回の掲載ガイドラインの策定にあたっては、そもそも論となる“不動産テック自体の定義”を定めている。今後はこうした定義に基づき、掲載ガイドラインの更なる明確化が期待される。
“不動産テック(Prop Tech、ReTech:Real Estate Techとも呼ぶ)とは、不動産×テクノロジーの略であり、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組みのこと。”
最後に3つ目が(3)掲載サービス数の増加である。第3版の掲載数が173だったのに対して、第4版では107増加、17減少、トータルの増減90で合計263と約1.5倍増となっている。カテゴリー別の第3版に対する第4版の純粋な増加数で見ると、IoTと物件情報・メディアが17の増加、管理業務支援が14の増加と続く。
また、第3版に対する増減で見ると、管理業務支援が17の増加、IoTが16の増加、リフォーム・リノベーションが11の増加と続く。第3版に対する増加率でみると、リフォーム・リノベーションが210%、IoTが207%、物件情報・メディアが206%、VR・ARおよびシェアリングが190%となっている(図表5参照)。こうした掲載数の増減を見る上で留意していただきたいのが、第3版から第4版の間にこれらのサービスが立ち上がってのではない点である。早速、これらの大きな動きのあったカテゴリーごとにその動向を見ていきたい。
リフォーム・リノベーションのカテゴリーは、市場規模が巨大であるにもかかわらず、まだ絶対的な不動産テックのサービスが存在しない未開の地であると言える。矢野経済研究所によると、住宅リフォームの2017年の市場規模は約6.3兆円としており非常に大きく有望である。第4版では、主にリフォーム業者のマッチングサービスが追加された。例えば、ホームプロの「ホームプロ」、セカイエの「リノコ」、アイアンドシー・クルーズの「リショップナビ」、ローカルワークスの「リフォマ」、そしてあのAmazonの「amazonリフォームストア」などである。こうしたリフォーム業者のマッチングサービスが多いのは、「適切なリフォーム業者を選びたいが、業者を評価する術や情報がなく選べない」や「リフォームやリノベーションの見積書の妥当性(単価・数量)や適正価格がわからない」といった業界で昔からある悩み・課題を捉えているためである。
また、Speeeの「ヌリカエ」やドアーズの「外壁塗装の窓口」のように外壁塗装という一部の部位に特化した業者のマッチングサービスも第4版で追加された。外壁塗装はニッチな市場のイメージだが、その市場規模はリフォーム市場約6.3兆円のうち約1.2兆円と想像以上に大きく興味深い。
リフォーム・リノベーションのカテゴリーは、第4版で多く追加されたリフォーム業者のマッチングサービスと、リノベ物件情報のポータルサイトの大きく2種類に大別される。後者の具体例としては、コスモスイニシアの「RENONAVI(リノナビ)」、じげんの「menoreno(ミノリノ)」、ツクルバの「COWCAMO(カウカモ)」などが挙げられる。
このように巨大な市場規模、今後更なる中古住宅の流通拡大、多くの業界課題≒多くのニーズなどを鑑みると、まだまだ色々な不動産テックのサービスが登場する可能性のある“未開の地”と言えよう。
IoTのカテゴリーは、各種センサー等の連携によりリアルタイムで部屋の状況を確認したり、部屋の照明や家電を操作できるシステム・サービス、スマートロックを用いた入退室管理システムが代表例である。
第4版では、スマートホーム関連のサービスが大幅に追加された。スマートホーム関連は大きく3つに大別される。1つ目は、スマートコントローラーやIoTゲートウェイである。例えば、リンクジャパンの「eRemote」など、Nature Japanの「Nature Remo」、IIJの「Cube J1」、Livesmartの「LSmini」、マウスコンピューターの「mouse スマートホーム」などの製品である。2つ目は、実際にスマートホーム機器を実装した製品である。例えば、大崎電気の「ホームウォッチ」、大和ハウス工業の「Daiwa Connect」、ミサワホームの「LinkGates」、東急・イッツコムの「インテリジェント・ホーム」、KDDIの「au HOME」などである。3つ目は、セキュリティ等の周辺デバイスやサービスである。例えば、セーフィーの「Safie」、Stroboの「leafee」などである。
物件情報・メディアのカテゴリーは、物件情報を集約して掲載するサービスやプラットフォーム、もしくは不動産に関連するメディア全般のサービスが掲載されている。第4版で追加された中で一番多いサービスが、合法の民泊物件の情報ポータルサイトである。具体例としては、スリーアローズの「部屋バル」、MINCOLLEの「MINCOLLE(ミンコレ)」、楽天LIFULL STAYの「Vacation STAY」、スペースエージェントの「booken.jp」などが挙げられる。
ほかには、海外物件を購入したい日本人・日本の物件を購入したい外国人向けの物件情報ポータルサイトでビヨンドボーダーズの「SEKAI property」、コワーキングスペースの情報ポータルサイトでエッグレイの「Coworking JAPAN(コワーキング ジャパン)」、賃貸オフィス物件の情報ポータルサイトで47の「Officee(オフィシー)」、収益物件を中心とした投資用の物件情報サイトでファーストロジックの「楽待」などのように従来の物件情報ポータルサイトとは異なり、特徴的な物件情報ポータルサイトが登場してきている印象である。
VR・ARのカテゴリーは、3DモデリングのVR技術を活用した物件の擬似内見などで提供するサービスが代表例であり、第4版でもこのようなサービスが多数追加された。3DモデリングのVRを活用した物件の擬似内見は、不動産会社のウェブページなどでの活用が一般化してきているが、まだ収益に大きく寄与しているとは言い難く、現時点でも新規性のあるプロモーションの意味合いが強いように感じられる。
一方で、NURVEの「VR内見」のように不動産店舗における御客様との対面接客に活用することで、内見現場へ行く前の擬似内見が可能となり、内見する物件の取捨選別の確度向上や業務効率化につながっている。NURVEの場合、見逃せないのが室内画像の取り込みである。動画データとして誰でも簡単にスマートフォンで取り込むことができ、さまざまな視点からの室内画像のスナップショットを作り出すことができるため、容易に物件広告用の室内画像が作成可能となる。このように、アウトプットの側面が注目されがちなVRの、インプットの側面の有用性が評価されるのは、物件の室内画像の撮影業務という業者側の業務課題に起因している。
シェアリングのカテゴリーは、短〜中長期で空き不動産や空きスペースを貸し出したり、マッチングを行うサービスである。第4版では従来から良くあるオフィスや会議室など空きスペースをシェア・マッチングするサービスが追加された。例えば、軒先の「軒先ビジネス」、エイチの「eichiii」、アベンチャーズの「hOur Office」などである。また、軒先の「軒先パーキング」や第3版で掲載されたAkippaの「Akippa(アキッパ)」のような駐車場のシェアも「シェアリング」カテゴリーの代表例である。
面白いところでは、ecbo(エクボ)の「echo cloak」やモノオクの「monooQ」。ecboのecho cloakは、カフェや店舗のちょっとした空いているスペースにコインロッカーと同料金で荷物を預けられるサービスである。モノオクのmonooQは、荷物の置き場所に困っている人と自宅の余ったスペースを活用したい人をつなぐ物置きシェアサービスである。このように小さな空きスペースを有効利用して荷物を預けられるサービスの登場は、シェアするスペースの縮小化と私有化の傾向を表している。
マッチングのカテゴリーおよび管理業務支援のカテゴリーにおいて第4版で追加された主なサービスは“建築・建設”という点で関連性がある。マッチングのカテゴリーにおいて、第4版で追加された中で一番多いサービスが、職人・大工・作業員のマッチングサービスである。例えば、助太刀の「助太刀」、ブラニューの「CAREECON」、ユニオンテックの「CraftBank」、メディオテックの「請負市場」などである。
一方、管理業務支援のカテゴリーにおいて、第4版で追加された中で一番多いサービスが、建築現場管理や施工管理のサービスである。例えば、穴吹カレッジサービスの「かん助」、オクトの「ANDPAD」、コムテックスの「Kizuku」、MetaMoJiの「eYACHO」、メディオテックの「イエール(ieell.jp)」、ダイテックの「現場情報共有クラウド」などである。
職人・大工・作業員のマッチングサービスも建築現場管理や施工管理のサービスも、建築・建設に近い領域のサービスである。これは近年、熟練工や職人などの人手不足に起因しているところが大きいと推察され、今後も伸びていく領域と思われる。
このように日本国内の不動産テックは大きな盛り上がりを見せている。米国がZillowやTrulia、Redfin、Movotoといった不動産情報ポータル、CoStar、Reonomy、Compstak、VTSといった商業用不動産データベース、OpendoorやOfferPadといったiBuyerプレイヤーのようにビッグデータを軸としたサービスが多く盛り上がっている印象がある。
これに対して、日本国内では価格可視化・査定や不動産情報、物件情報・メディアといったビッグデータを軸としたカテゴリーは一巡しており、落ち着いた感がある。これは米国と日本における不動産情報環境の違い(例えば、米国のMLSと日本のREINSの違いやオープンデータの普及状況の違い等)や商習慣などに起因している。すなわち、本来は必要不可欠な不動産情報環境の整備が海外よりも遅れている日本国内において、昨今の不動産テックは海外とは異なる日本独自の進化・日本独自の生態系が育ちつつあると言えよう。
大手システムインテグレーターを経て、2008年より現職。経営学修士(専門職)。IT業界の経験に裏打ちされた視点と、経営の視点の両面から、ITやテクロノジーを軸とした中長期の成長戦略立案・事業戦略立案や新規ビジネス開発、アライアンス支援を得意とする。金融・通信・不動産・物流・エネルギー・ホテルなどの幅広い業界を守備範囲とし、近年は特に不動産テック等のTech系ビジネスやビッグデータ、AI、ロボットなど最新テクノロジー分野に関わるテーマを中心に手掛ける。2018年より一般社団法人不動産テック協会の顧問も務める。
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