旅先でコインロッカーが見つからず、途方に暮れる“コインロッカー難民”を1人でも減らしたいーー。そんな思いからちょうど2年前の2017年1月に生まれた、荷物預かりシェアリングサービス「ecbo cloak(エクボ クローク)」が躍進を続けている。
ecbo cloakは、荷物を預けたい人と、荷物を預かるスペースを持つカフェや美容院などの店舗をつなぐサービス。ユーザーは、スマートフォンで荷物を預けたい場所を選び、日時と荷物の個数を指定して預け入れスペースを予約。当日店舗に行って荷物を預け、観光を終えて店舗で証明メールを提示して荷物を受け取ると、事前登録しておいたクレジットカードでオンライン決済が発生する仕組みとなっている(料金はバッグサイズが300円、スーツケースサイズが600円)。
荷物を預けるスペースまでの最短距離を地図上に表示するほか、リアルタイムでスペースの空き状況を確認できる。これにより、「どこにあるのか分からない」「空いていない」「大型の荷物が入らない」といった、既存のコインロッカーの課題を解決できる。ユーザーと店舗間のトラブルを減らすために、UberやAirbnbのように、双方が評価し合える機能を搭載しているほか、チャットでのサポートもしている。
ecbo cloakは、ローンチしたばかりの2017年に、早くも日本郵便のオープンイノベーションプログラム 「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」に採択され、「JR東日本スタートアッププログラム」の審査員特別賞も受賞。さらに、国内最大級のITカンファレンス「IVS 2017 Fall Kanazawa」のピッチコンテスト「LaunchPad」では見事優勝を果たした。
2018年はこの勢いがさらに加速。一部の郵便局やJR東西・JR九州の駅構内などでも荷物が預けられるようになったほか、美容室チェーン「Hair&Make EARTH」、カラオケルーム「ビッグエコー」、CDショップ「タワーレコード」などとも提携し、これらの店舗の一部で荷物を預けられるようになった。このほか、プロサッカー選手の本田圭佑氏やメルカリなどから資金を調達している。
サービス開始からわずか2年でこれだけの実績を積み上げたecbo cloakだが、意外にもecbo代表取締役社長の工藤慎一氏は、”歯がゆい思い”と心境を明かす。「もっと店舗数を増やせたはず。僕らのセールスのノウハウが未熟だったり、リソースが足りなかった。ソリューションはあるのに、やれるはずのことをやりきれていないせいで、まだ街中にはスーツケースをもって困っている人がいる。これは僕たちの責任だ」(工藤氏)。
その一方で、手応えも感じられる2年間だったと振り返る。ecbo cloakはユーザー数を公開していないが、利用者の約7割が海外からの旅行者などで、認知度も海外の方が高いという。また、8割がスーツケースサイズの荷物を預けているそうだ。日本のコインロッカーは過半数が小型なため、ecbo cloakによって大きなスーツケースを預けたい旅行者のニーズを満たせていると工藤氏は話す。「既存のコインロッカー市場を奪っているわけではなく、新しい市場を作っている」(工藤氏)。当初懸念していたトラブルなどもこれまで起きていないという。
サービスを利用する観光客が、全国各地の飲食店やショップに荷物を預けることで、ガイドブックには載っていないその地域のユニークな体験や情報が手に入るきっかけを得られることもサービスの特徴だ。たとえば、日本の文化を味わいたい外国人は、美容院で荷物を預けるついでに、日本の美容師に髪をカットしてもらい観光に出かけている。
日本人ユーザーの行動変容も見られたという。最近はカラオケルームがママ会などに使われることも増えているが、ビッグエコーがecbo cloakに対応したことで、たとえばママ会のあとにそのまま店内にベビーカーを預けて街に出かける人もいるそうだ。また、楽器の練習後にコントラバスなどの大きな楽器を預けて、メンバーで飲み会に行く人もいるという。単に荷物を預けられるだけでなく、人々に新しい習慣を与えられる存在になりつつあると工藤氏は話す。
ecbo cloakはすでに47都道府県でサービスを提供しており、この2年間で知見やデータも蓄えたことから、国内にはライバル事業者はいないと同社では考えている。そこで次に見据えているのは海外だ。国内での導入件数を着実に増やしながら、海外にこのビジネスモデルを広げていく計画だという。
「2019年はプロダクトをアップデートしながら、日本で受け入れられたカルチャーをいかに世界に広げていくかのチャレンジの年になる。世界中どこでもボタンひとつで自分の荷物を自由自在に管理できるプラットフォームを作りたいし、そこに一番近いのがecbo cloakだと思っている。グローバル展開の第一歩になる1年にするために、使命感を持ってやりきたい」(工藤氏)。
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