「技術のサイバーエージェントを創る」と同社代表取締役社長の藤田晋氏が宣言したのは2006年。それから12年が経ち、いまではインターネットテレビ局「AbemaTV」や、定額音楽配信サービス「AWA」、スマートフォンゲーム「グランブルーファンタジー」など、グループ各社から技術力を強みにした数多くの独自サービスを生み出している。
これまでも技術に投資してきたサイバーエージェントだが、2018年は「技術のサイバーエージェントを加速させる」フェーズへと移り、1月に「技術政策室」を新設。さらに10月には、同社の取締役に技術政策室室長の長瀬慶重氏を抜擢した。長瀬氏の起用は、同社初の技術畑出身の役員登用となる。なぜ、同社はこのタイミングで技術への投資を加速させるのか、藤田氏と長瀬氏に狙いを聞いた。
ーー創業以来初めて、技術畑出身の役員を選んだ理由を教えてください。
藤田氏 : ずっと前から、役員に技術者がいないということを現場から言われていました。こちらも出したかったのですが、サイバーエージェントは業務分野が広く、技術者の価値観が多様化していて、(技術者から)トップを出すことは非常に難しいところがありました。また、技術力で尊敬されている人ほど、マネージメントに行きたがらないという課題もありました。よく考えてみると、長瀬は全社の技術を見るマネージメントのトップをずっとやっていて、技術政策室の室長も務めています。そこで、長瀬にお願いすることにしました。
ーー長瀬さんはこれまでサイバーエージェントでどのようなことをされてきたのでしょうか。
長瀬氏 : 私は2005年にサイバーエージェントに入社しました。2006年に藤田が「技術のサイバーエージェントを創る」と発表して、2008年にエンジニアの新卒採用をスタートしたのですが、現在は有期雇用を含めるとグループで2000人くらいエンジニアがいます。全社員は約7000人(有期雇用含む)なので、約3分の1がエンジニアということになります。その中で私は、「アメーバブログ」「AbemaTV」などのメディア事業において、サービスの開発や組織作りをしてきました。
ーー長瀬さんの起用は、サイバーエージェントがこれまで以上に技術分野へ力を入れていく意思表明も込めているのでしょうか。
藤田氏 : 社員の割合でいくとエンジニアがもっとも多いため、技術者の役員がいることで実態にようやく追いついたと考えています。弊社はAbemaTVをテレビ朝日と、AWAはエイベックスと、そして他にも協業プロジェクトをいくつか動かしています。サイバーエージェントに何を求められているかといえば、基本的には技術力です。デザインやインターフェースも含めてプロダクトのクオリティが高いことが明確な強みになっています。つまり、より企業としての強みを強化していくということです。
ーー「技術のサイバーエージェントを創る」宣言から12年が経ちましたが、進化の具合は。
藤田氏 : 2006年に宣言したときは営業の会社だったんですが、宣言以降はハレーションを起こしながらもエンジニアを集めていきました。僕も退路を断って取り組んだことで、今は技術力の会社になっています。さらに、2011年にスマホシフトを発表して以降は、クリエイティブで勝負できる会社にもなりました。2017年に引き続き、2018年も「Google Play ベストオブ2018」を受賞しましたし、かなりクオリティの高いものを作れるようになったという自負はあります。
ーー長瀬さんはその辺りの変化をどう感じていますか。
長瀬氏 : 旧来の物作りはどちらかといえば受託のイメージが強かったのですが、今は内製化にシフトしました。エンジニア全員が自分の子どものようにプロダクトに対して愛情を注いでモノを作っていくカルチャーが浸透しています。一人一人のクリエイティビティを発揮できる会社になったと思います。
ーー営業の会社から技術の会社への転換にはハレーションも起きたそうですが、どの点でもっとも苦労しましたか。
藤田氏 : 企業文化ごと変えなければいけないので、簡単ではありませんでした。新聞にしてもテレビにしても出版社にしても、往来のメディア企業がネットビジネスをやると、うまくいかないことが多いのです。Amazonはネット企業でテクノロジーが強いから成功していますが、ウォルマートのネットビジネスは厳しい。Netflixもネット企業なので技術力がありますが、同じことをテレビ局がやっても難しい現状があります。
技術力を強みにするには、文化ごと変えなければならないんです。エンジニアを揃えればいいというものではありません。弊社は特に受託の会社だったので、自分の子どものようにプロダクトを愛している状態に変えるのは相当大変でした。社内で何回話しても、BtoBからBtoCへの意識がなかなか変わらず、上からの注文通りに納期までに応えようとしてしまっていました。残念ながら、そういうことではないのです。
ーーそうした企業文化を変えるためにどのような施策を実施したのでしょうか。
藤田氏 : 社長がしつこく言うしかありません。だいたいの会社がダメなのは、技術が大事だと言いながら、技術がわからないからと社長が現場に出てこないことです。僕はエンジニアたちの顔を見て地道にこうしてくれと言い続けました。エンジニアとは直接打ち合わせもしますし、業務で関わりが少ないエンジニアとも「shacho_niku」と題してお肉を食べる会などを開催して、定期的に会う機会を設けています。
ーーサイバーエージェントのエンジニアはどのようなタイプが多いのでしょう。独特のカルチャーはありますか。
長瀬氏 : 多くの国内のネット企業はワンカンパニーでワンブランドで物作りをしていますが、サイバーエージェントは150くらいのプロジェクトが各管轄子会社で自由闊達に進められています。技術カルチャーも数十ほど存在しています。それ自体がサイバーエージェントの文化そのものではないかと考えています。また、エンジニアには高い目標を掲げ、そこに向かって頑張っていくカルチャーが浸透しています。
ーー150ものプロジェクトで細分化されているエンジニアの技術やノウハウは共有されているのでしょうか。
藤田氏 : その話がすごくエンジニアたちから出るんですよ。ナレッジをどこかに1つにまとめようという案は出るのですが、動きが速すぎてプラットフォームを作っているうちに状況が変わってしまうので、まだ実現には至っていません。サイバーエージェントは、社内で異動すると転職と同じと言ってもいいほど部署が分かれていて、「キャリアエージェント」と呼ばれる部署が社内でヘッドハンティングをするほどです。他社に取られるくらいなら社内で転職させた方がいいと。そろそろキャリアを変えたいという人がいれば、話を聞いてグループ内で異動させることにしています。
長瀬氏 : ナレッジの共有に関しては、2月に初めて社内で大きな勉強会を開きました。1日でセッション数が50〜60ほどの大規模なものになりました。
藤田氏 : 社内でカンファレンスをやると技術内容が多岐に渡っているので、すごい活気づくんですよね。社内だけでやりましたが、あまりにも内容が充実しているので、外部向けにカンファレンスとして開催しようかと考えています。
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