それから、Micaはテーブルの上にある空の額縁を指さしながら、うなずいて、それを壁のフックに掛けるよう示した。指示どおり壁に掛けると、額縁の中に木のパイプの絵が現れた。シュルレアリスム画家ルネ・マグリットの有名な絵だ。端から見れば、筆者が空の額縁を見つめながら、空の椅子から、言葉のない指示を受けているように見えるだろう。
パイプの下には、有名な例の言葉が書かれている。「Ceci n'est pas une pipe」、つまり「これはパイプではない」という意味のフランス語で、その真意は、パイプの絵は本物のパイプではないということだ。Micaのように、ただの表現にすぎない。ここでは、デジタルの人間は、どんなにリアルだろうと本物の人間ではない、という比喩なのは明らかだが、それでも評価には値する。
技術のデモだというのに、シュルレアリスムの作品に、哲学的なもじりとは。なかなか、筆者の好みである。
それはそうと、Micaは筆者の心を試して遊ぶためだけにそこにいるわけではない。Micaは、Magic Leapが「Aya」と呼ぶ、AIアシスタントの未来を覗かせるプロジェクトの一部でもある。Amazonの「Alexa」や「Googleアシスタント」、Appleの「Siri」のように、ただタスクを実行するだけではなく、もっと自己意識と知覚を備えたうえで文化的なコンテキストを理解できるようMicaは意図されている。
例えば、ユーザーが暗い部屋に入ると、Micaはそれを検知し、指示がなくても照明をつけることができる。また、ユーザーの表情を読み取るようにも見えるが、これはMagic Leap Oneヘッドセットに内蔵されたカメラの機能だ。現実世界で何かうれしいもの、例えば親しい人を目にすると、Micaはその状況を学習して記憶し、今後のやりとりに備える。AlexaとSiriが同じことをできるか見てみたいものだ。
Magic Leapの創業者で最高経営責任者(CEO)のRony Abovitz氏によると、Micaは最終的に、セラピストや教師、ソーシャルワーカーにもなる可能性があるという。例えば、帰宅して悩みを伝えれば、何をすべきかMicaが提案してくれるかもしれない。
「Micaに、われわれは特に意欲を傾けている。Micaのインテリジェンス機能は拡張できるが、Micaもユーザーについて学習する」、とAbovitz氏は言う。
Micaを見ていると、「ブレードランナー2049」のキャラクターJoiが思い出される。レプリカントハンターである主人公Kに従う、ホログラフでできた人間型のコンパニオンだ。Abovitz氏にそう言うと、あの映画では2049年までに起きることが過小評価されているという答えが返ってきた。あのホログラフのような技術だったら、実現はもっとずっと早いだろうというのだ。
今後どんな可能性があるかを考えると、Magic Leapのカンファレンスで筆者が体験した中では、Micaが最も期待できそうなものだったと言える。私たちがいま置かれているテクノロジの状況と、小説や映画、マンガなどで描かれてきた想像の世界とを長い点線で結ぶとすれば、Micaはその最初の点となる存在だ。Abovitz氏と、彼のもとに集まったストーリーテラーたちの型破りな会社がそれを実現してくれるのを、楽しみに待つことにしよう。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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