データ解析やモバイルペイメントなどのサービスを展開するメタップスが、2019年以降に向けて積極的な動きを見せている。同社は2017年から2018年にかけ、上場企業として世界で初めて子会社においてICO(Initial Coin Offering)を実施。そこで発行した暗号資産(暗号通貨)の販売対価を、収益として認識する方針を示したことで、日本の会計基準のあり方に一石を投じたことでも話題を呼んだ。
2018年11月26日にはブロックチェーン技術を採用したゲームアプリ「DIG STAR」の配信を開始し、翌27日にはブロックチェーン事業に関連する子会社をシンガポールに設立することを発表。さらに11月29日には、それまで社長を務めていた佐藤航陽氏が会長に就任し、山﨑祐一郎氏が社長に就くトップ人事を決定するなど、ここ最近の変化は特に著しい。
そこで、新体制での舵取りや、同社がブロックチェーンにこだわる理由、2019年以降のビジョンなど、幅広いテーマについて佐藤氏と山﨑氏の2人に聞いた。
——新体制となったメタップスですが、改めて現在注力している事業領域について教えてください。また、佐藤さんと山﨑さんのそれぞれの役割はどうなるのでしょうか。
山﨑氏 : メタップスはもともとマーケティングの会社としてスタートし、アプリデータ解析などの事業を展開していました。しかし、現在はそれらの事業のほかに、決済事業やブロックチェーン技術を活用した事業、ゲーム運営開発の事業などを日中韓で展開しています。今期からホールディングス体制として各子会社で事業を運営しており、そのなかでも安定した連続的成長をさせていく会社と、非連続的な爆発力のある成長を期待できる会社に分けグルーピングしています。
社長の私が見ているのは主に前者の安定成長領域で、アプリデータ分析のメタップスリンクス、マーケティングや広告代理事業を取りまとめているメタップスワン、決済事業のメタップスペイメントの3社、それと新規で進めているブロックチェーン事業です。全てB2Bの事業がメインで、これが現在のメタップスの主力となるビジネスとなっています。
後者は将来的に革新的なサービスになることが見込めるとか、100億、1000億の売上を狙っていけるようなB2Cの会社で、会長になった佐藤が舵取りをします。
——メタップスの事業内容はここ2〜3年で大きく変わったように思います。
佐藤氏 : 以前は売上の9割がアプリのマーケティング事業でしたが、今はまったくそうではなくて、決済やFinTechが売上の7〜8割。業態がこの2〜3年でガラッと変わったなと思います。
——山﨑さんが担当されているB2B事業について現在の状況を聞かせてください。
山﨑氏 : B2B事業についてですが、メタップスリンクスは、これまでの我々の主軸事業でもあります。企業が提供するアプリの中に「Metaps Analytics(メタップスアナリティクス)」という統合管理型分析ツールを入れてもらい、1億8000万人分の情報を元にしたデータ解析を提供するサービスです。大手のゲームアプリや、最近では金融系のアプリ、メディア系のアプリにも導入いただいています。
メタップスワンは、いわゆるネット広告事業がメインで、ウェブやアプリの広告運用やメディア運営にフォーカスしています。メタップスペイメントは決済代行が主軸ですが、給料の前払いアプリ「CRIA(クリア)」やFinTech関連のさまざまなサービスを提供しています。スマートキーの「Akerun」やクラウド会計ツールの「freee」などと提携して、“決済×テクノロジー”で新しいソリューションを共同開発する取り組みも進めています。
——11月30日には、決済プラットフォーム「SPIKE」の提供を終了しました。
山﨑氏 : SPIKEは現在メタップスペイメントの一部としています。決済代行は、QR決済の登場や決済手段の乱立もあり、手数料勝負の消耗戦になってきているんです。当社は、「決済×○○」で新たな価値を創出する取り組みにフォーカスしています。今まで現金払いのみだった領域、例えば学校の受験・入学費用をオンラインで支払えるようにしたり、家賃をクレジットカードで支払えたり、結婚式のご祝儀をスマートフォンで集められるようにしたりと、決済と新しいサービスの組み合わせを提示し、広めていっています。
——ブロックチェーンを軸にしたメタップスクリプトゲートウェイ(MCG)の事業内容を教えてください。
山﨑氏 : ブロックチェーンと言えば暗号通貨をイメージされるかと思いますが、暗号通貨はブロックチェーンビジネスの一例に過ぎません。今のところ、ブロックチェーンビジネスには大きく分けて3つあると考えており、我々はその全てを押さえようとしています。
1つは「ポータル」。暗号通貨を扱う場合にはウォレットが必要です。ブロックチェーン技術を利用したゲームでも暗号通貨の入出金やトークンの出し入れにウォレットが必要で、使い勝手も良いものがまだありません。一部の人たちが「メタマスク」のようなウォレットを使いこなしていたりしますが、まだまだ一般ユーザーが使えるようなプロダクトがないのが現状です。なので、まずはそこを押さえられるウォレットを作ります。
次に「アプリケーション」。ブロックチェーンベースのアプリケーションは、ゲームやオフライン決済などの分野でさまざまな企業がチャレンジしているところですが、これといったキラーアプリはまだ出てきていません。メタップスでは、11月26日にリリースした「DIG STAR(ディグスター)」というブロックチェーンゲームや、様々なブロックチェーンゲームのアイテム交換が可能なプラットフォームやマーケットを作っています。
DIG STARの紹介ビデオ
スマートフォンアプリにおいてはGoogle PlayやApp Storeといったプラットフォームがメジャーですが、ブロックチェーンゲームなどの新しいテクノロジーを利用したコンテンツのプラットフォームはまだスタンダードなものができていません。我々はその領域に投資をしているところです。
3つめは「トレーディング」です。2018年まで暗号通貨の取引所は投機目的で利用するユーザーが多かったわけですが、今後はユーザーのお財布として、換金や決済の面で取引所の役割が増してくると思っています。メタップスでは現金を暗号通貨に変える入口として取引所も押さえていきます。ポータル、アプリケーション、決済というブロックチェーンビジネスの3つの部分に“全張り”して、「メタップスクリプトエコシステム」という経済圏を作りたいと考えています。
——11月にリリースしたブロックチェーンゲーム「DIG STAR」は、技術的にはどういったところがポイントとなるのでしょうか。
山﨑氏 : ブロックチェーン技術をゲーム全体の何%使っているかがポイントになるかと思います。今はオフチェーンの部分が多い、つまり従来のゲームエンジンで作られていて、一部がブロックチェーンというものです。そうじゃないと処理スピードが遅くなるなど、ゲームとして魅力的なものになりくにいんです。
なので、100%ブロックチェーンで作っているゲームでうまくいっているところはほとんどありません。我々がリリースした「DIG STAR」も一部、アイテムのところに使っているだけなんです。年明けにアイテム売買プラットフォーム「TEMX(テメックス)」もリリースする予定で、少しずつブロックチェーンの比率を高めていきたいとは思っています。
——ゲームにブロックチェーンを使用するメリットを教えてください。
山﨑氏 : 「DIG STAR」はイーサリアムのトークン規格であるNFTトークン(Non-Fungible Token:代替不可能トークン)という技術を活用しています。これによって、アイテム1つ1つに価値がある状態になるんです。これまでだと、ソーシャルゲームなどでアイテムを手に入れても、正しい意味で自分のものにはなりませんでした。サーバー上で自分が所有していると表現されるだけです。
それがNFTトークンだと、アイテムを購入した場合に本当の意味で所有者になります。売買時には完全にユーザーからユーザーへアイテムを移管できるのです。ゲームの提供がもし終了してしまっても、NFTトークンとしては残っているので、ウォレット上で永遠に所有することができるというわけです。
——ブロックチェーン技術でメタップスは何を目指しているのでしょうか。
山﨑氏 : インターネットでいうとWeb2.0と呼ばれていた時代に、Facebook、Google、Amazonが伸びてきました。それに対してブロックチェーンはWeb3.0と言う人もいるほどインターネットの根本的な概念を覆すようなテクノロジーです。そのWeb3.0の領域で、まだ勝っている企業はまだ1つもありません。我々がその分野においてグローバルでプレゼンスを高めていきたいと考えています。ゲームなのか送金や決済なのかはわかりませんが、コアとなるサービスを早々に1つ作りたいですね。
——海外における事業展開についても進捗を教えてください。
山﨑氏 : 中華圏では、Metaps Entertainmentを立ち上げました。2018年まで、ゲームの運営やマーケティングなどを行っているMetaps ShanghaiとKOL、台湾でデジタルサイネージ事業を展開しているLUMINOUS、広告代行事業のMetaps Pte Ltd(シンガポール)などがありましたが、これらを統合する持ち株会社がMetaps Entertainmentとなります。より独立性を増し、中華圏で大きく成長させていく考えです。
9月には中国でパートナー企業と組んで独自のアプリマーケットもスタートしました。グローバルではゲーム会社自身がプラットフォームを作って利益率を高める動きがあります。中国では企業の運営するアプリマーケットが300もあって、ここまでGoogle PlayとApp Storeが強いのは日本くらいなんですよ。我々のプラットフォームはその2つより収益の開発者への還元率を高く設定していて、さらにユーザーにも還元する仕組みにしています。例えば100円の課金があったら8割をデベロッパーに、1割をユーザーに分配して、我々は残りの1割を受け取るという形。これは今後、中華圏における主軸事業の一つになると思っています。
韓国のMetaps Plusは、完全にブロックチェーン、暗号通貨に振り切っています。直近では、Crypto Cardという、オフライン決済で使える暗号通貨カードの販売を開始しました。日本のコンビニで販売されているゲームのプリペイドカードやECサイトのギフトカードと同じようなものですね。
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