イーオンら、英語発音を評価するAIシステム開発--KDDI傘下で「10年かかることが10カ月でできた」

 イーオンとKDDI総合研究所は11月22日、日本人英語話者の発音をAIで評価する「日本人英語話者向け発音自動評価システム」を共同で開発したと発表した。2019年1月からイーオンの一部の生徒に向けて、生徒専用の自宅学習支援サイト「イーオン・ネット・キャンパス」で先行提供を始める。

 このシステムは、日本人英語話者による英文の発音をAIで解析し評価する。画面に現れる一連の会話文の中から任意の文を選択してダブルクリックすると、ネイティブ話者によるお手本となる発音例の音声が流れる。利用者がそれを聞いて真似るようにマイクに向かって発音すると、クラウド上のAIシステムがその発音データを解析して評価する。

英語学習者が「日本人英語話者向け発音自動評価システム」を使用しているところ。お手本となる発音を聞いてそれを真似て発音すると、AIが学習者の発音を評価する
英語学習者が「日本人英語話者向け発音自動評価システム」を使用しているところ。お手本となる発音を聞いてそれを真似て発音すると、AIが学習者の発音を評価する

 語学学習法の一種に、お手本となる発音を聞いて、すぐにそれを学習者が真似てみる「シャドーイング」というものがある。それを自宅でも可能にし、AIによる評価も受けられるようにしたのが、イーオンとKDDI総合研究所が今回開発したシステムだ。イーオンは教室で学ぶ生徒に、自宅でも英語の発音を練習するように推奨しているが、練習の評価を受けられないままでは長続きしないという課題があったという。今回開発したシステムで、その課題を解消し、より良い自習環境を提供することを目指す。

イーオンだけでは10年かかることが10カ月でできた

 2017年11月、KDDIが成長拡大が見込める教育市場への参入を狙って、イーオンホールディングスの発行済み株式を100%取得すると発表した。その後、2018年1月22日にKDDIによる株式取得が完了し、、イーオンホールディングスはKDDIの子会社となった。

 KDDIは株式取得を発行した際に、「AI技術を活用した学習者向けのカリキュラム最適化」や、「VR技術を活用したバーチャル英会話プログラム」などを共同で提供していく意向を明らかにしていたが、今回の日本人英語話者向け発音自動評価システムはイーオンホールディングスがKDDIグループに入った直後から開発を始めたもので、イーオンとKDDIグループが共同で開発した初の成果となる。

 KDDIグループとの共同作業についてイーオン代表取締役社長の三宅義和氏は「イーオンだけで取り組んでいたら10年ほどかかることが10カ月で達成できた」と、高く評価し、KDDIグループ入りによる相乗効果の大きさをアピールした。

イーオン代表取締役社長の三宅義和氏
イーオン代表取締役社長の三宅義和氏

 KDDIグループとイーオンは現在でも、英語教育にITを組み合わせた新しいシステムやサービスの開発に取り組んでおり、「第2弾、第3弾の成果も引き続き発表できるだろう」(三宅氏)と、共同作業の成果を続々と提供していく意向を示している。

完璧にネイティブを真似る必要はない、相手に伝われば良い

 日本人英語話者向け発音自動評価システムは、その名の通り日本人向けに開発したものだ。この点についてKDDI総合研究所の教育・医療ICTグループでグループリーダーを務める米山暁夫氏は「完璧なアメリカ英語の発音ができなくても良い、日本人臭さが残る発音でも、相手に無理なく伝わる発音なら高く評価する」設計にしたと語っている。

KDDI総合研究所の教育・医療ICTグループでグループリーダーを務める米山暁夫氏
KDDI総合研究所の教育・医療ICTグループでグループリーダーを務める米山暁夫氏

 さらに米山氏は「近年の機械学習では、学習用データの量よりも質が重要になりつつある」と語る。実際、今回開発したシステムでは30の場面を想定した204のフレーズをイーオンの生徒250人に発音してもらった音声データを学習に使用している。機械学習の学習用データとしては多いとは言えない量だ。ただし、すべての音声データはイーオンの教師による評価が付随する「教師ありデータ」となっている。

 システムの開発が決まり、最初に取り組んだことは、生徒に発音してもらう学習用データの評価指標を確立することだったという。評価指標は、早稲田大学教育学部英語英文学科の松坂ヒロシ教授の監修を受けながら、イーオンの教師陣と教材開発陣が共同で作成した。

 指標は4つの軸で成り立っており、1つ目が単語レベルでの発音の正確さとアクセントを評価する「音素と語強勢」、2つ目が連続する2つの単語が連結することで発音が変化する「リンキング」とリズム、スピードを合わせた流暢さ、3つ目が文レベルでの評価である「イントネーションと文強勢」、そして4つ目が総合的な発音の分かりやすさを評価する「総合評価」となっている。学習用データを収集する際には、教師陣全員で評価指標に対する認識を合わせ、共通の指標で生徒の発音を評価できるようにした。

日本人英語話者向け発音自動評価システムの開発の流れ、特に良質な教師ありデータを蓄積することに力を入れたという
日本人英語話者向け発音自動評価システムの開発の流れ、特に良質な教師ありデータを蓄積することに力を入れたという

 教師ありデータを収集したら、GPUを利用した機械学習の手法で学習モデルを構築した。イーオンが確立した評価指標に基づいて利用者の発音を評価する学習モデルだ。評価結果は100点満点の「総合評価」と5点満点のイントネーション、リズム、発音の正確さの4項目で提示する。総合評価だけでは良しあししか分からないが、発音で気をつけるべき点についての評価も提示するので、利用者は自分の発音の良いところ、改善すべきところを容易に把握できる。

評価結果の例、総合評価に合わせて、イントネーション、リズム、発音の正確さの評価も提示する
評価結果の例、総合評価に合わせて、イントネーション、リズム、発音の正確さの評価も提示する

 2019年1月からは、このシステムを一部の学習レベルを想定して先行導入するが、イーオンは今後、システムをさまざまな学習レベルに対応させ、提供対象を広げていく。さらに、利用者の発音も学習用データとして利用し、適宜再学習を実施して、AIの判定精度を上げていくとしている。

 またイーオンとKDDI総合研究所は今後も、英語教育とITを組み合わせた研究に引き続き取り組み、新たなシステムなどの開発を目指すとしている。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]