テクノロジの進歩によって、企業はもちろん消費者もITの利活用が深化してきた現在、医療や教育、農業など幅広い業界においてビジネスの変革が起こりつつある。そうした中、人が生活をしていくうえで欠かせない要素「衣食住」の“住”、つまり不動産業界においても「Real Estate Tech」と呼ばれるようにテクノロジの利活用が日進月歩で進んでいる。11月7日、ベルサール御成門駅前にて開催されたカンファレンス「テクノロジで変革する不動産業界の最前線 ~Real Estate Tech 2018~」では、業界のトップランナーらによる最新テクノロジを活用した不動産ビジネスの現況やそれらがどのような恩恵をもたらすのかが語られた。
「オールドエコノミーから見たオンライン化の流れ 本当に使われている不動産テックと最前線の電子契約とは?」と題された講演では、賃貸住宅管理業の東急住宅リースより執行役員 事業戦略本部長兼戦略企画部長の佐瀬篤史氏と、不動産賃貸業向け電子契約サービス「IMAoS」を提供するソフトバンク コマース&サービスのIMAoS開発責任者の小野誠人氏が登壇。不動産賃貸業を取り巻く環境やオンライン化が業界にどのようなインパクトをもたらすか、電子契約によって関係各者にどのような恩恵がもたらされるのかが語られた。
講演冒頭で登壇した佐瀬氏は、賃貸業を取り巻く環境の中でも雇用動向やテクノロジ拡散のスピード、好調な賃貸市場に着目しているという。リーマンショック以降、雇用動向については改善が見られているが、こと不動産業界においては売り手市場の雇用環境等が影響し、人手に頼っていては収益の悪化は免れないのではないかと強い危機感を抱いているといい「IT化が必須だと感じている」と述べた。
また、テクノロジ拡散のスピードについては、ラジオやテレビ、インターネットなどのサービスが5000万ユーザーを獲得するまでの期間を例に挙げ、「Pokemon GO」がわずか19日という短期間で拡散した現実から「ITの利活用が遅れていると言われる我々不動産業界も、もしかしたら2~3年の間で大きく変化が起こるのではないか」と語った。
そして、好調な賃貸市場に関してだが、景気が悪くなると首都圏から人口が流出し景気が回復すると流入が見られる人口動態を示し、近年3年間においては流入が増加し賃貸物件稼働率が向上しているという。しかし、直近の数値を見ると流入数は横ばい傾向にあり、今後どのように推移していくのかを注視するとともにIT投資をするのであれば好景気な今こそがそのタイミングではないかと述べた。
引き続き佐瀬氏は、テナント入居者、オーナー、仲介業者、修繕業者、そして管理業者の関係性を図で指し示し、関係各者との接点において現在でも書類を郵送する、FAXするなどの手間が発生しており、この各接点での手間を軽減できればという思いを強く抱いたという。この現状を打破するため、東急住宅リースではITベンチャー企業とのオープンイノベーションの場を設け、賃貸ビジネスに関わる各プレーヤーの関係性をITの利活用で変革を起こすべく活動しているという。その結果、テナント入居者向けのアプリケーションや、仲介業者向けのオンライン内見やVR内覧、そして電子契約システム等を利活用することでIT化に邁進。業務の効率化を図っているそうだ。
オープンイノベーション、共創のなかで、ITベンチャーが求めるものがわかってきたとは佐瀬氏の言葉だが、資金、実験・検証の場、販売力・販売ネットワーク、業界ノウハウ・業界ネットワークのなかで、作ったサービスを試す場が無いこと、販売力が不足していることにより立ち行かなくなってしまっていると分析。ゆえに東急住宅リースでは、実験・検証の場やネットワークを提供することを心掛けたそうだ。また、既存業界側にも「最初から完璧を求めず、アジャイル的思考を持つ」という心構えや自ら変わらなければという意識改革が必要だと佐瀬氏は述べた。
さまざまなITベンチャーとの共創を経て、佐瀬氏は不動産テックベンチャーの差別化のキモとして、優れたUI・UXなどを提供するサービス・システムそのものの力、ほかにはない特徴的なサービス、5フォースやバリューチェーンをまたぐエコシステム化の3つの要素を挙げた。なかでも「エコシステム化は何よりもの差別化戦略につながる」と述べ、売り手・買い手・業界関係者等を結び付けプラットフォーム化・エコシステム化を推進することが肝要で、不動産テックベンチャーと既存業界の協業が早道だと語った。
そして、話題はリアルエステートテック発展の方向性について移る。佐瀬氏は不動産テック企業を分類すると、駐車場マッチングサービスの「akippa」などのマッチングプラットフォーム系、ビッグデータなどを利活用し価格を査定するデータ活用系、既存のプレーヤーや業界を効率化する業務支援系の3つに分けられていると述べるとともに、業界の発展には業務支援系の発展こそ重要になるのではと語った。
管理会社から見て現場で本当に使われている業務支援系不動産テックのカオスマップを示し、広告調査、引合対応、内見、申込、契約、入居サービス、解約工事、オーナー報告といった一連の流れの中で、提供されているサービスは実業に関するものが少ないのだが、ここ数年大手ポータルも実業に関するサービスを提供する動きを見せているそうだ。実業に則したサービスが増え、業界のオンライン化が進めば、各プレーヤー間でやり取りされていた情報を共有することで業務を効率化できることはもちろん、一歩進んでデータ活用系の不動産テックが活躍できる場が登場するのではないかと述べた。
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