政府も後押しするEdTech--国内最大級イベント「Edvation x Summit 2018」レポート - (page 2)

学校教育の現場で求められるクリエイティブな学び

 もうひとつ、同カンファレンスで開催されたセッションを紹介しよう。「創造的問題解決能力を育む教育実践」と題したパネルディスカッションで、教育現場ではどのように創造性を育成しているのかを語り合う。基調講演に登壇したRosenbaum氏も、ロボットや人工知能にはない創造性や感情知性などの人間的スキルの重要性を言及していたが、現場ではどのような取り組みが行われているのか。

 同パネルディスカッションには、アドビシステムズ マーケティング本部教育市場部グループリーダーの小池晴子氏、品川女子学院 情報科主任の竹内啓悟氏、学校法人角川ドワンゴ学園 教材制作部 副部長の中根祐氏が登壇した。

「創造的問題解決能力を育む教育実践」と題したパネルディスカッションは、千代田区立麹町中学校の合同教室で開催された
「創造的問題解決能力を育む教育実践」と題したパネルディスカッションは、千代田区立麹町中学校の合同教室で開催された

 パネルディスカッション冒頭では、アドビシステムズの小池氏が「創造性・クリエイティビティ」をキーワードにひとつの問題を提起した。アドビシステムズが2016年に実施した調査によると、「日本のZ世代は、自分をクリエイティブだと思う」と答える人が他の国に比べて圧倒的に少なく、その一方で、海外の同世代は日本が一番クリエイティブな国だと答えている。

 小池氏は、「クリエイティブという言葉の受け止め方に違いがあることと、日本の場合はクリエイティブな実体験も少ないことが、こうした結果の原因ではないか」と指摘した。そこで、クリエイター向けのクラウドサービス「Adobe Creative Cloud」を導入する教育機関に登壇してもらい、クリエイティブな活動の実践例を聞いた。

キャプション
アドビシステムズが2016年に5カ国5000人、Z世代とX世代を対象に実施したクリエイティビティ関する調査「State of Create Survey」の結果
アドビシステムズが2016年に5カ国5000人、Z世代とX世代を対象に実施したクリエイティビティ関する調査「State of Create Survey」の結果

 通信制高校「N高等学校」を運営する学校法人角川ドワンゴ学園は、開校2年目に全国8キャンパスに通学コースを設けた。そこでは、生徒全員がMacBookを所持し、創造的な活動や表現活動に主眼を置く「プロジェクト型学習」を実践している。同校ではプロジェクト型学習のアウトプットを高めるツールとしてAdobe Creative Cloudを導入し、生徒の表現力の向上をめざすという。

 同学園の中根氏は「実際に社会で使われているソフトを使うことで、“通用する”と思ってほしい。今の生徒たちは操作の習得も早く、教室では教師よりも生徒が前に出てきて教える姿も見られる。そうした時に生徒主体で任せすぎるのではなく、教師も一緒に学ぶことが重要であると考えている」と述べた。生徒が表現ツールを使いこなして終わりではなく、生徒がやろうとしていること、やっていることを教師も理解できるようになることが重要だというのだ。

 生徒全員がiPadを所持する品川女子学院は、企業とコラボしながらひとつのビジネスを立ち上げる起業体験プログラムを実施している。このプログラムを通して、企業とやり取りをする中で、高校生が作成したデータを受け取ってもらえない事例が発生し、Adobe Creative Cloudの導入に至ったという。同校の竹内氏は「生徒が卒業してからも社会で使えるようにという考えから、Adobeに限らず、他のITサービスも教育に特化したものは使用していない。Adobeを選んだ理由も社会で実際に使われているからだ」と述べた。

左から、アドビシステムズの小池晴子氏、品川女子学院の竹内啓悟氏、学校法人角川ドワンゴ学園の中根祐氏
左から、アドビシステムズの小池晴子氏、品川女子学院の竹内啓悟氏、学校法人角川ドワンゴ学園の中根祐氏

 その結果、企業へ打ち合わせに行っても、高校生が見せたデータに直接アドバイスをもらえるなどコミュニケーションも変わったという。またIllustratorで作成するLINEスタンプ作成の講座は大評判で、応募数が100名を超えた。竹内氏は創造的活動について、「ポスターなどのアウトプットを行うときは、最初から生徒のアイデアに任せるのではなく、“何を伝えたいのか”などの目標設定が重要になる」と語った。

 アドビシステムズの小池氏は、両校の取り組みを振り返り、「創造的な教育活動を行っていくためには、社会で通用する、必要とされるという目標を持つことが大切だと考える。アウトプットに向けて、教師が“どんどんやってごらん”と言える環境であることが生徒の創造性育成には欠かせない」と語った。

 一般的に、教育ソリューションやサービスは、子どもが使うことを前提に機能を盛り込んでいることが多い。しかし、それらは必ずしも、子どもたちが創作意欲を持てるツールであるとは限らず、むしろ、これだけデバイスが普及した今となっては、大人と同じものを使う方が、“やってみたい”という気持ちも引き出せる。子どもたちを本気にさせるものは何か。創造性を考えるうえでは、こうした視点が欠かせないだろう。

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