ブロックチェーンは不動産業界に何を引き起こすのか--LIFULL×協会事務局長が語る情報のあり方 - (page 2)

現在のブロックチェーンはインターネットでいうブロードバンド以前

ーー実証実験は多いが実運用は少ない。時期的な問題なのでしょうか。

樋田氏: 今のブロックチェーンの状態をインターネットに例えると、インターネット以前のパソコン通信の段階なのだと思います。規格が固まっていないため、実証実験もプロジェクトごとに独自のものを使っています。これらのプロジェクトを共通化することが第一歩で、それができると、個々のプロジェクトが相互につながり、実使用に近づくはずです。

 ただ、ブロックチェーンの規格化には4~5年はかかるでしょうし、きちんとした定義をもたせるまでには10年くらい必要だと見ています。

松坂氏: 樋田さんは、ブロードバンドの普及にも関わられていたので、まさにそこは重なる部分ですね。インターネットもブロードバンドが普及して、みんなが使えるようになりました。そう考えるとブロックチェーンは、まだほんのごく一部の世界でしか使われていません。

 現時点でブロックチェーンのサービスに、普通の人がお金を払えるかといったらハードルは結構高いと思います。

日本ブロックチェーン協会 事務局長の樋田桂一氏
日本ブロックチェーン協会 事務局長の樋田桂一氏

樋田氏: そうですね。今インターネットはみなさん何も意識せずに使っていますよね。ブロックチェーンも行く行くは、そういった当たり前の技術になると思っていますが、そこまで行くには時間がかかる。ただ、インターネットは20~30年かけてここまできましたが、ブロックチェーンはもっと早く進化するはずです。

 PCやブロードバンドなどハードウェアやインフラが必要だったインターネットに対し、ブロックチェーンはソフトウェアのみの技術なので、加速度的に進化するはずです。30年もかからずに、日常的に使われる技術を構築できる可能性は十分にあります。

松坂氏:ビジネスモデルの決定版みたいなものが生まれると早く進むかもしれないですね。例えば、インターネットはネット通販としてアマゾンや楽天のような物販ができあがり、同様のモデルを不動産で推進したのが「LIFULL HOME'S」です。ネット通販というお手本ができあがり、それを横展開することで、インターネットは広く普及しました。こうしたお手本が1つできあがると既存モデルのブロックチェーン化が加速度的に広がると思います。

登記簿をブロックチェーンに載せ替えることで生まれるメリット

ーーそのきっかけの1つが不動産になるのでしょうか。

松坂氏: そうしたいと思っています。仮想通貨が成功モデルの1つで、最近はその領域に「セキュリティトークン」など、新しいサービスや商品が生まれてきつつあります。こうした兆しはブロックチェーンの普及の足がかりだと見ています。

ーー不動産とブロックチェーンの相性はかなり良いと思いますか。

松坂氏:仮想通貨の次に来るのは不動産と言われているだけに、かなり相性は良いと思います。不動産は、それ自体に価値や所有者が書いてあるわけではなく、単なる土地、建物ですよね。そこにいろいろな情報を紐づけてそのものの価値を示し、所有者を特定しています。

 そこで大切なのは、土地や建物の価値をみんながきちんと合意することなんですね。土地に坪数は書いてありませんが、みんなが合意することでこの土地は何坪あると認識して、合意しているからこそ取引が成立する。そうした情報はいわゆる台帳に書いてあるので、情報の持ち方はブロックチェーンの分散型台帳技術に大変近いものだと思っています。

 現在の日本では、登記簿がその台帳の役割を果たしていて、登記簿とブロックチェーンの考え方は大変似ている。登記簿は所有者の変更など、これまでのやりとりの履歴ですよね。この履歴がきちんと現在までつながっていることで正しさを証明できる。これはブロックチェーンとまったく同じ考え方です。登記簿のつながりをブロックチェーンが引き継げば、より安心して、今まで通りに使えるはずです。

ーーこうした考え方は日本以外の国でも有効なのでしょうか。

樋田氏: 日本は登記簿の仕組みが戦後しっかりと根付いていますが、登記簿自体が存在しない国もありますから、海外では一気にブロックチェーン化が進む可能性があります。海外では、所有者がはっきりしない土地が結構あるんですね。誰の土地なのかを透明化するためにブロックチェーンを用いるケースはかなり出てきているようです。

 ジョージアやケニアでは、実運用として土地登記にブロックチェーンを使うケースも出てきているようです。安心してと土地の売買ができる点では、かなり貢献しているのではないでしょうか。

松坂氏: 日本では、登記簿によって所有者のわからない不動産はごく一部なのですが、登記簿に書いていない情報を補うという点でも、ブロックチェーンは期待できると思っています。

 登記簿から住所や坪数はわかりますが、駅からの近さや周辺環境、学校までの距離といった情報まではわかりません。実際の不動産売買では、周辺情報を不動産会社などが集めてきて、その情報を開示した上で売り主と買い主が合意し、取引が成立します。

 登記情報以外の情報をブロックチェーン上に残すことで、より取引がしやくなると思っています。情報の幅が広がると、安心感が増しますよね。今ネットショッピングは誰もが安心して使っていますが、その背景には価格や製造会社、使い方などの情報が掲載されていて、さらに使った人のレビューまで載っている。こうした情報の裏付けが、安心感につながっています。不動産でも正確な情報を数多く提供することで、安心して購入できるというメリットをもたらすはずです。

ーーLIFULLでは、2017年にすでに不動産情報の共有におけるブロックチェーン技術の活用について実証実験を実施されたそうですが。

松坂氏: ブロックチェーン上で不動産情報を扱う事に関する実証実験を行いました。それを経て、データベース的に使うのはやや違うかもしれないという結果が得られました。情報をすべて載せると動かなくなってしまったんですね。ですから、ハッシュ化した情報のみを載せるなどのやり方が必要だと感じました。

 ただ、1社でやってもあまり意味がなくて、なぜなら既存のデータベースをそのまま使ったほうがパフォーマンスは優れているからです。業界全体で取り組むことに大きな意義があると思っています。

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