朝日インタラクティブは10月4日、都内で最新テクノロジを活用した不動産ビジネスや、都市開発ビジネスの変貌をつまびらかにする「CNET Japan Conference 不動産テックカンファレンス2018~加速する業界変革~」を開催した。同イベントは今年で3回目を数える。本稿では、LIFULL 代表取締役社長 井上高志氏の講演「グローバルプラットフォームの構築で新たな価値創造を~LIFULLグループの描く未来」を紹介する。
国内有数の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」を運営するLIFULLは、1995年7月にNEXTとして創業した。2017年4月には現在の名称に変更しているが、その理由はグローバル化にある。「NEXT」「HOME」いずれも一般的な英単語のため、企業名やブランド名として主要国では使えない場合があり、「ナショナルも(グローバル化に伴い)パナソニックに名称変更したが我々も同じ」(井上氏)だという。創業当初から井上氏の中にある思いが「不動産ビジネスにおける情報の非対称性を解消」(井上氏)だ。そのため同社は物件に関する情報の豊富さや正確さ、管理会社や仲介、販売会社の信用性、中古物件なら性能の可視化にこだわってきた。
多くの不動産情報サービスを展開するLIFULLだが、現在「世界一のライフデータベース&ソリューションカンパニー」を目指して、多角的な展開を行っている。住宅購入や住み替えといった日々の情報をユーザーIDにひも付けてデータベースに格納し、AI(人工知能)などを用いて新たな価値創出を目指す。同社はこの取り組みについて、「ビッグデータを活用して、あらゆる人生を満たすAIソリューションを提供する」(井上氏)と説明する。
2020年9月期までの定量目標として、売り上げ収益500億円台、EBITDA(償却前利益)20%前後で100億円程度の利益を生み出す企業グループを目指すLIFULLだが、中長期戦略としてグローバルプラットフォーム構築を掲げている。「推定ですが、全世界の不動産市場資産はおよそ7京円。株市場が約7000兆円であることを踏まえると、不動産市場の大きさが分かる」(井上氏)。
LIFULLではグローバルでの不動産市場を見据え、3D間取りの自動生成やVR(仮想現実)/AR(拡張現実)を活用したオンライン内見、自動翻訳といった「実需領域」と、世界中の不動産ビッグデータを活用したプライスインデックスやブロックチェーン、スマートコントラクト、トークンエコノミーを組み合わせた、新たな不動産情報の取り扱い、さらにAIロボアドバイザーによる自動売買といった「投資領域」の2つのプラットフォーム構築を目指す。
井上氏は「売買手数料を1%としても70兆円の市場が生まれる。我々はこうした世界規模の市場の仕組みを作る」と具体的な展望を示した。
具体的な施策としてLIFULLは企業合併・買収を続けてきた。2014年11月には世界規模のアグリゲーションサイトを運営するTrovit Search、2017年1月にはクラウドファンディングプラットフォームを運営するJGマーケティング、同年4月にはソフトウェア開発事業を営むVietnam Creative Consultingを子会社化している。「さらにグローバルにおける不動産アグリゲーションサイト2位のMitulaもLIFULLグループ入りする予定だ。3位のnestoriaは2015年5月にMitulaのグループに加わっているため、これでトップ3がLIFULLグループとなる」(井上氏)。
不動産アグリゲーションサイトの主要プレーヤーは、nestoria、Trovit、Mitulaとなっており、4位以下はほぼ存在しない。Mitulaの買収を終えれば、展開国は63カ国へと拡大、掲載情報量は4億件以上、サイト利用数も月間ユニークビューで1億7000万を超え、不動産領域における圧倒的No.1となる。「M&A戦略を進めながらビッグデータとトラフィックを獲得し、多言語サービスを展開する」(井上氏)と、今後の展開を説明した。
日本国内においては、人口減少に伴う空き家の増加という課題がある。LIFULLでは、空き家情報をまとめた地図「全国版空き家・空き地バンク」を、国土交通省から採択を受け、モデル事業として運営している。「進捗はまだまだ。現在300万戸の空き家があると言われているが、現在サイトに掲載しているのは数千件」(井上氏)だという。
一方、LIFULLでは民泊施設やカフェとしての再利用や、空き家再生を実現するためのクラウドファンディングの提案など、空き家の利活用にも積極的に取り組んでいる。2017年3月には楽天とのジョイントベンチャー企業である楽天LIFULL STAYを立ち上げ、民泊に関するプラットフォーム事業を開始。井上氏は「1人10万円程度の投資で民泊オーナーになれるという投資スタイルも可能になる」とした。
先進技術活用に向けた投資として、社長直下にAI技術の活用を推進する専門部署の設置や、ブロックチェーンを活用した不動産情報共有コンソーシアムの設立、ビッグデータの活用に向けて、セブン&アイ・データラボへの参加など多角的に活動を広げている。ブロックチェーンという文脈では、「エストニアのベンチャー企業であるBit of Propertyへの出資も行った。ブロックチェーンを活用した不動産投資プラットフォームを提供するベンチャーでは、1口10万円程度で投資が可能。共同開発を推進して市場開拓を目指す」(井上氏)という。
また、不動産取り引きのオンライン化では、物件検索や内見、相談、重説(重要事項説明)までをオンラインで行う「LIFULL HOME'S LIVE」と、不動産会社向けの電子契約サービスである「オンライン契約プラットフォーム」を提供中。「これまで重説は宅地建物取引士が直接行う必要があったものの、賃貸物件に関してはオンラインでの実施が解禁された」(井上氏)このようにLIFULLは、既存の課題を解消するための取り組みも進めている。井上氏は「各分野に投資を続けて、少しずつパーツがそろいつつある。オンライン取り引きするプラットフォームの世界を目指し続けるので、展開に期待してほしい」と強い意気込みを見せた。
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