人とテクノロジを信じて政治家・小林史明氏が挑む「日本のアップデート」:後編

別井貴志 (編集部)2018年09月19日 08時00分

 さまざまな業界がテクノロジによってさらに大きく変革をしつつあるいま、政治家はどのようにテクノロジをとらえ、どんな未来を成そうとしているのか。「人やテクノロジの持つ可能性、そしてアイデアを自由に発揮するために、古く疲れてしまったルールを、アップデートしていこう」を標榜し、テクノロジ業界のキャリアを有して自由民主党・衆議院議員で総務大臣政務官、内閣府大臣政務官を務める小林史明氏に聞いたインタビューの後編。前編は、政治家になるまでの経験や想いを語ってもらったが、今回はいま何に注力し、今後どのような展望を描いているのか聞いた。

自由民主党・衆議院議員で総務大臣政務官、内閣府大臣政務官を務める小林史明氏
自由民主党・衆議院議員で総務大臣政務官、内閣府大臣政務官を務める小林史明氏

――政治家へのバックボーンがよくわかりました。そして、2012年に自由民主党広島県第7選挙区支部 支部長に就任し、第46回衆議院選挙で初当選、2017年第48回衆議院選挙で3期目に当選し、3期目の現在、内閣府大臣政務官と総務大臣政務官とを兼任しています。

 内閣府の政務官は、ものすごく所管が広いので、すべてをお話しするのは難しいですが、主にマイナンバーを担当しています。マイナンバー制度をきちんと社会実装することが仕事ですが、ベータ版的に世の中に投入された日本では実に珍しい国の制度なので、それを完成させることが目標です。

 現状はまだ、さまざまなご批判を受けますが、おっしゃる通りまだ不便な点も多いので、セキュリティも含めてよくしていきます。やっと裏側のさまざまな役所の情報連携、データの紐付けができつつあるところで、約850種類の手続きは合理化されました。しかし、まだ年金や戸籍はシステム改修中でつながっていませんが、これができれば行政手続きはもっと便利に大きく前進すると思います。そうなれば、たとえば引っ越しをするときに、書類は何も提出しなくてよくなるなどができるようになります。先輩の平井卓也さん(衆議院議員)がリードされた「デジタルファースト法案」はこのマイナンバー制度の次のステップで、この秋の臨時国会への提出が検討されています。行政が保有するデータを連携することで、企業や個人の行政手続きの申請を提出書類なしで、インターネットでできるようになります。

 総務大臣政務官は、総務省の3つの旧組織である旧自治省、旧総務庁、旧郵政省に分けて、3人の政務官が担当しています。私は旧郵政省の管轄である郵便、放送、通信、つまり「情報を届ける」という役割です。通信の世界は、インフラストラクチャの整備からその利活用まで幅広く、力を入れているのがテクノロジの社会実装です。これは先に述べた、「テクノロジを世の中に実装して人の意識を変える」と政治家になった理由であることのど真ん中と言えます。

 AIなどさまざまな先進テクノロジがありますが、現状一番力を入れているのは、電波、無線の環境を整備することです。無線はあまり知られていませんが、使いやすい帯域は有限です。それを有効活用するにはどうするかに注力しています。1つは、PS-LTE(Private Safety LTE)です。一般の感覚では、消防無線、警察無線、海上保安庁の無線など、すべてバラバラで、それぞれ鉄塔を建てて……こういうのは無駄じゃないかと。すべて1つのインフラストラクチャでできないのかと。こういうことから着想すると、海外ではすでにPS-LTEが始まっている国があるということで、米国に視察に行きました。NTIA(National Telecommunications and Information Administration:米国電気通信情報庁。大統領の電気通信・情報関連政策に関する諮問機関)の長官ともお会いました。

 公共性があってセキュリティも高いLTEのネットワークを使って、すべての無線システムを統合、統一化しようということで審議会を作り、その結論を出そうとしているところです。基本的には実現していく方向ですが、各組織のセキュリティポリシーやシステム更改のスケジュールがあるので、理解が得られたところから順次進めていきます。

 電波の有効活用という分野では、もう1つ衛星放送に注力しています。ネット社会と言われて久しいですが、テレビメディアは依然重要な役割を果たしており、視聴者が選択できるようにいろいろなコンテンツがあることが大切です。衛星放送は年間3億4000万円支払うと大容量で高画質の動画コンテンツを全国約4000万世帯に遅延なく配信できる仕組みです。インフラストラクチャとしては、すごくコストパフォーマンスがいいのではないでしょうか。これをいろんなスタートアップ企業に話すと、「そんなの参入できるとは考えたことがなかったです」という反応が返ってきます。じゃあ、具体的にどうすれば新規参入できるのかという審議会を作り、今回成長戦略の中にも組み込まれました。

 さらに、これは規制改革会議の答申にも盛り込まれましたのですが、東京五輪の後に、放送大学が使っている周波数帯が空きます。この帯域を使えば、ある意味地上波でも新規参入ができるようになります。これまで通りの地上波をやるのか、新しいビジネスモデルをやるのかは決まってませんが、さまざまな試み、挑戦はできるでしょう。

――電波オークションについては?

 これには、少し誤解があると思うのですが、「電波オークションを地上波に」という人たちは、どちらかというと地上波のコンテンツ内容に想いがある人だと思います。オークションにかけると、これを取り上げられるんじゃないかと考えているようですが、世界において既存の放送事業者に「いま持っている電波を返してもらって、もう一度オークションする」ということはさすがにやっていません。新規参入の際に、今後オークションを導入する、というのはあり得ますし、この制度も盛り込もうとしています。これは地上波だけではなくて、新しい周波数帯を使う場合も当てはまります。いままでだと過去の実績や将来の計画に対して認定するという方式でしたが、このほかに値段提示も考慮するようにします。いわゆる総合入札方式、広義のオークションになるでしょう。最初の5G帯域はすでに割り当てられましたが、次の電波割り当てからこうした入札方式に変わります。

――このほかに注力していることはなんでしょうか。

 まずは西日本を中心とした豪雨(2018年7月豪雨)で、私の地元の広島県福山市も大きな被害を受けました。明確になった課題について、同じことが繰り返されないよう、制度と運用の見直しに取り掛かります。安心して暮らせる国をつくることは国会議員の基本の仕事。日本の災害関連制度を一気にアップデートすべく頑張ります。

 それにも関連しますが、ずっと取り組んできた「標準化」。行政のシステムはバックエンドもユーザーインターフェイスの部分も地方自治体ごとに整理されていて、非常に効率の悪いものになっています。先の災害対応、国民の皆さんの日頃の行政手続き、企業の皆さんの申請手続きなど、自治体や省庁ごとにフォーマットがバラバラです。これは「中央集権」と「地方分権」のどちらがいいかという議論において、分権ということですべての議論の結論が出されてきたわけですが、しかし、システムに関しては話が違います。システムは分権/集権ということではなく、標準的にすることが大事なのです。

 そして「ネット投票」。先日、まずは在外邦人のネット投票を実現していくことが決まりました。同時に、視覚障害の方にも投票しやすいよう選挙公報も改革していきます。テクノロジでフェアな社会をつくるべく、投票環境も改革を進めます。システムの検討自体は、国内の投票も見据えています。昨年2017年の衆院選選挙以降、18歳から投票できるようになりました。幅広い世代が政治に参加しやすくなるように、ネット投票は可能な限り早く実現したいと考えています。

 あと今後の「水産政策」にはぜひご注目ください。私、水産政策も並行して非常に注力していまして、昨今、お茶の間でもうなぎや鮪の大量廃棄や漁獲制限など話題になっているので、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、日本の漁業は過剰漁獲が主な原因となり、魚(水産資源)が減少し、漁業者の所得も減少し続けています。消費者にとっても漁業に関わる人にとっても大きな問題で、資源管理型の漁業への転換が必要です。先日、いわゆる「骨太の方針2018」(毎年政府として発表している成長戦略)に初めて水産改革が盛り込まれて、今年は水産改革元年とも言えます。漁業へのテクノロジの活用は始まったばかりでまだまだのびしろがある、まさにブルーオーシャンです。テクノロジ業界の皆さんのお力もぜひ貸してください。

小林氏は注力していることとして「災害関連制度」「標準化」「ネット投票」「水産政策」を挙げた。
小林氏は注力していることとして「災害関連制度」「標準化」「ネット投票」「水産政策」を挙げた。

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