――松橋さんは役員の立場ですが、その立場で「アクセラレータだ」とおっしゃるのが素晴らしいと思っています。ただ、大企業には多いことですが、やはり経営陣の理解が得られないと、何も進まないのではないでしょうか。
よく聞くのが、意見を上げても潰されるということですよね。なので、一部のプロジェクトでは、全てのプロセスをオープンにせず、あるところまでは熟成させながら、部活動のような自由活動という形態で進めているものもあります。
――社内ベンチャーの推進や社内ハッカソンの開催をすると、そのためだけにアイデアをひねり出す場合があります。一方で、アイデアはいつでも出てこないといけないという考えの人もいます。
セブン銀行では、アイデアソンやコンテスト、学生とのディスカッションなど、ありとあらゆることを全方位でやっています。リソースは限られているので、セブン・ラボというチームで戦隊を組むことによって、ナレッジを溜め込みます。ハッカソンだけ、だと運営のみで終わってしまいます。それを事業化することが目的なので、それを少人数でたくさんの仕組みを実行し、なるべくビジネスに昇華させやすい運営方法を探りながら工夫し続けています。
――テクニカルな話になるのですが、ナレッジを溜めていくというときに、何かツールを使ったりとかデータベース化するということはありますか?
私は先日のCNET Japan Liveのような講演で使用する資料を過去のものを更新しながら用意しているのですが、これはある意味ナレッジを溜め込んで集約しているものですね。やっていることはそれくらいです。私は可視化能力が高いと思っているので、メンバーが進めている活動をまとめています。奇抜なアイデアを出すのが得意な人材もいたり、それぞれ持ってるものが違いますので、チーム内のスキルを補完するようにしています。
――絶えずナレッジがあって、アイデアも全方位で活動する中で出てくると思います。そのような中、「お、これは!」というのはどういう時に出てくるのでしょうか。
担当しているメンバーの熱量ですね。メンバーの本気度で、これはやれるなと感じますので、そこから盛り上げて肉付けしていきます。
――メンバーについてですが、共に事業を進める人を決める際には、どのようなポイントを見ているのでしょうか。
ある程度こういうスキルがある、というのは見ています。また、スキルを持つ社員が来るのでプロジェクトを立ち上げた、ということもありますね。セブン・ラボは、創設当時はもともと有志でやっていたメンバーでした。いまは、オープンイノベーションに積極的に対応した人も加わっています。
――プロジェクトを事業計画に記載すると、収益面で槍玉に挙げられて潰されるケースも多いと思います。この点については、どのように判断しているのでしょうか。
最近は、「やってみないとわからない」という考え方が社内に定着してきています。われわれの活動と同期したわけではないのですが、とにかくPoC(概念実証)で確認してみようというプロジェクトが社内にできました。マーケットサイズや適合性も作ってみないとわからないですし、アイデアを具現化しないで課題探しをするのも時代遅れだと。社内ではビジネスIT PoCというプロジェクトを作って、そこにアイデアを投稿するようにしています。作って出してを繰り返していく感じですね。その成果の一つが、Alexaのスキルです。また、現時点では未公開のプロジェクトもいくつか進めています。そのまま現業部に入れてしまうと上手くいかなさそうなプロジェクトなどを形が見えるまで進めて、それから判断しようとしています。
――なぜそのチームができたのでしょうか。
具現化する必要があったからだと思います。技術進化が速く、作ってみないとわからない時代なので。社内にアジャイルチームを作ったことも一因です。一定の小さい規模なら自社開発ができる環境を整えたので、より包括的に社内に浸透させて、よりアジャイルな会社に、可能な限りトライしようと考えています。これは、経営会議で公式に議論して決めたことでもあります。
――そうすると失敗できないジレンマというのはもうないんですか?
失敗しないと経験にならない、というのは、だいぶ共通の価値観になってきました。
――それは、松橋さんが社内でアクセラレータとして何度も提言した結果なのでしょうか。
それは関係ないのですが、われわれのせいで失敗した案件もいくつかありますので(笑)。始めるのも、終わるのもイノベーション部隊が引き受けるのがよいかと思います。なので、アクセラレータは謝る能力も必要かなと。実際にやってみることに失敗はつきものなので、失敗したら失敗したと言えと言われますし、言うべきだという風潮もあります。
――アイデアが出て、推進しようとなり企画したものの、上司がゴーサインを出さないというケースもあると思います。ここを通過させるためには何をすればいいのでしょうか。
一般的なところでは、企画者本人の熱意を、なるべく経営陣にフラットに聞いてもらえる場を作るというのが1つあります。それ以外では、経営陣とは別の、採算性とは別の判断をする場所を作ることです。さきほどのPoCプロジェクトでは、経営陣より下の層で、技術の確認を含めて、議論の上、着手判断します。
――プロジェクトが成立した後は、技術部や営業部と協業する必要がありますが、この協力が得られないこともあるかと思います。
セブン銀行ではあまりないですね。PoCプロジェクトは社内全体で動いているものですし、そこでも議論がボード上に明確になっていて、興味のある人は何がどのように進んでいるか見てくれています。プロジェクトへの理解が得やすくなっているので、協力関係も構築しやすくなっています。このPoCプロジェクトを推進しているのは主にIT部隊なんです。IT主導で実現性を持たせるということだと思います。
――外部の企業などとも共に動くこともあると思います。協業する企業を選定する際のポイントは。
われわれと同じく、社会課題を解決することを目指すところに強く共感します。ですので、シナジーを描いてみて、いけると判断したらですね。
――他社と協業する際は、スピード感も異なると思います。
先方が立ち上がるまで待つケースや、逆に先方からすぐ進めたいと言われるケースなど、ケースバイケースです。やると決めたらやりきる、ここを超えたら絶対にやる、というポイントを私たちは持っていますが。
――パートナー企業とは、外部であっても共有して進めていかないといけませんね。
そうですね。パートナー企業とはもともとセブン‐イレブンが提唱してるチームマーチャンダイジングという概念があります。共に作るという概念で、発注者と受注者という考え方ではなく、共に新たなものを創るパートナーシップという考えで進めています。
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