経済産業省(経産省)は、2018年夏に「デジタル・トランスフォーメーションオフィス」を新たに設置した。デジタルを前提に行政サービスを便利・簡単にし、データに基づいた政策立案、サービスの向上を組織的に推進していく方針だ。
経産省では、「日常生活で利用するサービスがスマートフォンで完結するのが当たり前の時代に、行政手続はいまだに大量の紙の資料、窓口での対面手続、手続完了までの長い時間など、多くの負担を国民に強いている。政府は今や一番のお荷物になっていると言っても過言ではない。さらに今後の日本は、人口減や財政制約など大きな社会課題に立ち向かう中、政府にも非連続的なイノベーションが求められている」と説明。そんな状況をデジタル技術の徹底的活用により打破し自らを変えるべく、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に取り組むとしている。
DXでは具体的に、(1)行政手続きを圧倒的に簡単・便利に、(2)政策のデジタルマーケティング化、の大きく2つを進める。
まず、行政手続きの簡単・便利化については、従来のように異なる手続きによって何度も同じ情報を入力させるのではなく、一度の入力で済むようにするほか、民間サービスとも連携することで、行政手続きのためにわざわざ書類を作成しなくてもよくする。さらに、申請時の添付漏れや記載ミスなどはシステムで自動検知することで、窓口での面倒なやりとりをなくすという。
「政府全体では行政手続きは年間数億件行われており、その『電子化』はこれまでも進められてきた。しかし、多くの場合は電子化で紙からPC画面になっただけで、情報の整理、入力、確認など作業の本質は何も変わらず、行政サービスを利用・申請する企業や国民にとっても、これを受け取る職員にとっても、いわゆる“お役所手続き”によって大きな負担が強いられてきた。そのような状況を一新すべく、経産省がDXによる変革として位置づけるのは、デジタルによる『オペレーションの最適化』である」(経産省)。
2つ目が、政策のデジタルマーケティング化。企業などからの申請情報の中にはさまざまな政策立案のヒントがあるものの、紙による手続き情報はデータとして管理できておらず、“死滅”してしまっていると言っても過言ではないと経産省では説明。また、データを部署間で共有して組織内コラボレーションすれば、より付加価値の高い政策立案を実現できる可能性があるものの、そこまで踏み込めていないという。
「企業や国民を経産省の顧客とすれば、顧客ニーズをデータから分析し、それに基づいてターゲットに商品(政策)を届けるというマーケティングの基礎ができていないことになる。また、数多くの制度や支援策があっても、膨大な情報の中で自分が使えるもの、適したものがどれなのかがわからない、という声もある。あらゆるデジタル化が進む時代において、データの活用体制が整っていない中、政策立案手法が圧倒的に陳腐化していると言われても仕方がない状況にある」(経産省)。
そこで、行政手続き自体をデジタル化することで企業からの申請情報をデータとして集め、これを分析するためのデータ基盤を構築するとしている。そして、組織としてデータを統合的に共有・活用することで、企業や国民のニーズや環境の分析をもとに、行政サービスにおいてもマーケティングやパーソナライズ化を進め、これまで経産省がアプローチできていなかった潜在的な顧客も含め、政策をプッシュ型で届けるとしている。
経産省では、海外の政府の事例を挙げながら、省内の業務プロセスの見直しからユーザーフレンドリーなサービスデザイン、開発、運用、データの利活用までを省内で一貫して実現させたいと説明する。
たとえばシンガポールでは首相府の元にGovTechという組織を設置し、民間からエンジニア、デザイナーを採用し、自前で行政サービスのデジタル化を実現する組織を置いている。米国ではオバマ大統領時代に大統領府直属のタスクフォースであるUSDS(United States Digital Service)に、Googleからトップを採用した。デジタルガバメントという概念を持ち込んだ先駆けであるイギリスも、キャメロン首相時代に首相府の元にGDS(Government Digital Service)を設置し、現地新聞社ガーディアンのデジタル部門トップをヘッドとして採用した。
この夏に設置したDXオフィスでは、経産省CIOをヘッドに省内の関連部署が連携する体制を整備し、業務プロセスの見直しからシステム化、データの利活用までの仕組をトータルでデザインするとしている。加えて、民間のITシステム開発やコンサルティング経験者をチーム内に抱え、行政官とIT専門家のハイブリッド体制を取るという。
「この取り組みはまだスタートラインに立ったにすぎない。小さく始め大きく育てる、失敗から学び改善するプロセスを繰り返す、ユーザーにとって本当に使いやすいものを追求するといったカルチャーをDXオフィスから醸成し、デジタル化を実現するだけでなく、経産省のあり方自体を変革していく」(経産省)。
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