オーディオのプロはどんなシステムで音楽を聴き、映像を見ているのか。気になる自宅のシステムをオーディオ&ビジュアル評論家麻倉怜士氏が公開した。注目機器やジャンルについて語る連載「麻倉怜士の新デジタル時評」。今回は、ここ1~2年で大変革を遂げたという麻倉氏の自宅のオーディオ、ビジュアルシステムについて紹介する。
まずメインシステムを紹介する。真空管パワーアンプがZAIKA「845」、スピーカシステムはJBL「Project K2 S9500」、4KHDRプロジェクタがJVC「DLA-Z1」。これらは以前と変わっていない。変わったのが、DAC、プリアンプ、AVアンプ。
今回、システムを変更しようと思ったきっかけの1つはハイレゾのリアリティアップ。2011年辺りから盛り上がってきたハイレゾに対し、これまでPCとUSB DACの最先端のシステムを組んできたが、もっと圧倒的な音が聴きたいという欲求が出てきた。
ハイレゾは音はいいが、個人的には「薄味」という印象が拭えない。CDの音は、一言でいうと地に足がついている感じ。安定感があり、しっかりとしている。一方ハイレゾは、周波数帯域が広く、情報量も多いが、なかなかCDのようなどっしり感を感じにくい。これをなんとかしなければと思った。ポイントはDACだ。
CD時代から、音源機器にはその時代の「世界一」を使うのが私のモットーだ。CDプレーヤーでは、フィリップスの「LHH2000」、LINNの「CD12」を使っていた。DACも世界一のリファレンスグレードの製品を探していた。ハイエンドなDAC選びはけっこう難しい。そもそもDACチップの寿命が短いから、製品としての先端性は短時間にならざるを得ない。だから、これまでもさまざまなハイエンドDACを聴いてきたが、その点から、うちのリファレンスとして導入する意欲は、いまひとつ湧かなかった。しかし、ULTRA DACは違ったのである。自宅で試聴した瞬間に、「これに決まりだ!!」と叫んで、衝動買いしてしまった。製品寿命が短くても、いま、この時を大切に生きたい!
それほど、この音の衝撃は大きかった。メリディアンには以前から注目していた。1980年代後半の私のリスニングルームの最初のスピーカは、メリディアンのアクティブスピーカだったし、羊羹のようなCDプレーヤーも愛用していた。だからブランドは親しかったし、いまや親友のボブ・スチュワート氏が設計した最後のメリディアン製品という、ちょっと感傷的な理由もあるが、ULTRA DACの音は3点で、私の耳と心をわしづかみにした。
まず音質が抜群に良かった。「良い」とは抽象的だが、音については具体的には極めて情報量が多く、同時に極めて音楽性が高い。別の言い方をすると、極めて音の剛性が高く、グラデーション、輪郭もリジッドであるという、オーディオ的な分析ができる。同時に、ゆったりとした余裕感があり、とことんしなやかだ。つまり剛と柔を同時に持つのである。低域から登る周波数特性はまさにピラミッド型。
もう1つのきっかけは、MQAの登場だ。MQAデコード対応のDACは、ほかのブランドからも登場しているが、メリディアンは、MQAの開発者であるボブ・スチュアート氏が創業した、英国のオーディオブランド。リファレンスDACとして、これに敵うものはない。
さらにCDの音が凄くなった。今までCDは、アキュフェーズのセパレート型SA-CDトランスポート「DP-900」とDAC「DC-901」を組み合わせて使用していたが、Ultra DACの購入にあたり、トランスポートからデジタル接続に変更。聴いてみるとなんとも素晴らしい音がする。
たとえて言うと、超大型ピラミッドが建立され、低域の量感が圧倒的に増し、同時に質感も格段に上がった。音楽の体積が飛躍的に増えた。ハイレゾも素晴らしいが、CDも見直したのである。基本的にシステムアップしたオーディオよりオリジナルの組み合わせの方が、音調的な納得感があるものだが、今回に関しては、それを超越し、トランスポートからのデジタル信号を圧倒的な音楽性を加えて再生できる。とにかく感心した。
購入したのは2017年なので、MQA CDの発売についてはまだ話も出ていない段階だったが、MQA CDを聴いてみても大変素晴らしく、華麗で伸びやかな感動的な音を聴けた。MQA CDのカーペンターズ「Singles 1969-1973」を聴いてみたが、ヴォーカルであるカレン・カーペンターの声が非常に滑らかで美麗だ。ヴォーカルの粒子が細かく、表情の細やかさが表出される。楽器の質感も数段階上がる。カーペンターズが目指した音楽の世界観をより明瞭、明確な形で表現されたと聴いた。メリディアンのUltra DACは、MQAのリファレンスであると同時にMQA CDのリファレンスでもあり、MQA時代の高音質には欠かせないものだと思った。
このUltra DACが、新プリアンプの導入につながる。これまでアンバランスインターフェースの真空管プリアンプを使用していた。アンバランス接続に比べ、バランス接続は高音質に定評がある。ULTRA DACは内部がバランスで構成されており、その性能を最大限に発揮させるなら、バランス・プリアンプに限る。Ultra DACを最大限に活用するには、バランス接続が望ましい。
そこで長い時間を掛けて、数々の現代の高級プリアンプを物色した。最後に辿り着いたのがJubilee Preであった。さまざまな製品を聴いたが、Jubilee Preは圧倒的だった。
試しに聴いた瞬間に心の中で「これだ!探していた音は……」と、叫んだ。それは、音楽がまさに眼前で生まれた瞬間の、生々しい音だった。粒立ちは非常に細かい。その微粒子は単に粒でできているというより、その内部にしっかりとしたコアが存在し、その回りに二重、三重にグラテーションが囲む。そんな多層構造を持つ細かな音の粒子が、音場空間に濃密に絡み合い、整然と舞っている。一音一音の粒立ち、力強さ、縦にも横にも奥にも広がる空間感にまず感動。
もう1つは、音の命を感じることだ。Jubilee Preを聴くと、ブリアンプとは音信号に生命を与える機械ということがよく分かる。音源機器(ULTRA DAC)から来る、無色透明な信号(これは言葉の綾で、ULTRA DACの音楽性には底知れぬものがある)に、血が通い、筋肉が盛り上がり、各所の神経が敏捷に反応するよう、熱き生命力を付与する。メインアンプが、ZAIKAの通信管845のプッシュプルであることも、真空管同士で相性が良いという要素もある。
真空管アンプは、まったりとした癒やしの音というイメージが強いが、オクターブは全然違う音づくり。ハイスピードで解像度が高く、トランジスタアンプ的な音を再現する。
それに加えてトランジスタアンプにはない音の温かさや、しっかりした骨格のある表現力も持ち、表面的な肌触りに優れる。実際に内部は真空管とトランジスタのハイブリッド構造であり、両方の良いところを取った音に仕上がっている。
オクターブは、ベースモデルの「HP300SE」、ミドルレンジの「HP 700」とプリアンプのラインアップを持つが、JubileePreampはその中でもハイエンドモデル。ベースモデルもかなり良い仕上がりだが、Ultra DACに合わせることを考えると、やはりハイエンドモデルを選ぶのが正解。組み合わせて聴いてみると、ダントツの音の良さで、雲を突き抜けたような音の良さを実感できた。
Ultra DAC、JubileePreampはかなり高額な衝動買い。元々衝動買いは多いほうだが、音を聴いた瞬間に非常に感動し、導入を即決した。特にCDプレーヤーやDACなど、ソース機器は、しっかりしたものを使うべきだと常々考えている。それが、本当の音の姿を聴くことにつながる。
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