サイボウズ流のメソッドを青野社長が伝授--「チームワーク経営塾」を始める狙い - (page 2)

青野氏が掲げる「労働力不足に対応する経営」

——チームワーク経営塾では「労働力不足に対応する経営」をテーマに掲げていますが、昨今の労働力不足に感じることはありますか。

 1961年に合計特殊出生率(15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)が2を切り、1993年に1.5を切っていますが、政府は少子高齢化現象に手をこまねいていました。若者の減少が労働者の減少につながるのは至極当然です。だからこそ、一人ひとりが幸せなのか、結婚や育児を望む人々に対する社会的支援として企業は何ができるのかを思案・実行すべきでしょう。このような取り組みは無駄なコストと見られがちですが、企業には大きなリターンを生む投資です。

 他方で外国人労働者問題や、AI(人工知能)が人の仕事を奪うといった課題も懸念材料として言われますが、合計特殊出生率が低い状態で移民を受け入れても、施策を講じないと単純に少子高齢化は加速します。彼らも年を重ねますし、結婚も子育てもできない環境を望みません。また、AIが一定の作業を代替する可能性は高いものの、人が楽しいと感じる仕事まで任せる必要はないでしょう。音楽の演奏も将棋も楽しいから取り組むのです。もちろん人が足りない部分を補ってもらうことになりますが、大事なのは人々が幸せであることです。

——「定着」「採用」「生産性向上」という3つの経営課題と、「売り上げ向上」の両輪は回せると思いますか。

 われわれは回せました。当初は両輪が上手に回らず売り上げにつながらなかったのも事実です。加えて、社会的背景などもあって2005年には離職率が30%近くまで増えました。そこで、2006年から「最長6年間の育児・介護休暇制度」、2007年にはライフステージの変化に合わせて働き方を選べる「選択型人事制度」を導入しました。今では当たり前となった「在宅勤務制度」は2010年から、「副業」も2012年に可能にしています。

 離職率が10%以下に改善した2008年から2012年までは売上高が横ばいだったのですが、周りからは「緩い会社」だと思われていました。社員は楽しく働けるが、企業価値は高くないと。しかし、クラウドによるビジネス転換以降は売り上げも好調で、2018年は前年度比15%以上の成長を見込んでいます。離職率も今では4%以下になりました。このように社員のモチベーションを高め、幸せに働ける選択肢を用意すれば、企業は変革します。

サイボウズの離職率と売上高の推移
サイボウズの離職率と売上高の推移

——青野社長の考える「社員の幸福」とは。

 厳密な定義はありません。人は一人ひとり異なり、その解はその人にしか分かりません。加えてその幸福は常に変化するものです。給与額に価値を置く方もいれば、金銭よりも責任が少ない業務を選択する方もいるでしょう。だからこそ僕は多様性を大事にしており、さまざまな選択肢を設けているのです。

 先の離職率を例にしても、幸せという文脈では一面的な要素です。次の目標を見つけて転職を選ぶ“良い離職”もあれば、疲弊して辞めてしまう“悪い離職”もあるでしょう。僕らは一人ひとりに向き合うため、全社員の面談記録をマネージャーと共有するなど、いくつかの方法でそれを実現しています。

——チームワーク経営塾を通じて、どのような世界を作りたいですか。

 僕は走りながら考えるタイプなので、その答えは用意できません。チームワーク経営塾は実体験を通じて育んだサイボウズ流メソッドを提供するため、外部講師を呼ぶ予定は今のところありません。しかし、より多くの企業経営者にメソッドを伝える手法として、コンテンツ化はアイデアの1つにあります。書籍や映像、ブロードキャスト配信など、弊社に足を運ばなくても学べる形を模索したいと思います。

 先日、米国の離職率が過去最高という報道を目にしました。社員定着率を重視する米国企業も増えていますが、われわれのメソッドはグローバル展開が可能だと考えています。スティーブン・R・コヴィー氏著「7つの習慣」のワークショップをイメージしていますが、新しい働き方を提案していければと思います。

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