経産省が進める「大人の学び直し」--企業と個人が今すべきこと - (page 2)

 このため、リカレント教育の担い手とするべく大学を強化し、大学の役割を変える「大学改革」も、働き方改革を構成する要素の1つと捉えている。「AIやデータサイエンスの分野は、今後あらゆる企業、あらゆる部門の人が身に付けるにふさわしいスキル。スキルの賞味期限が短くなっているから、そのスキルをアップデートしていくための学び(の場)が必要となる」と語る。そして、そのような個人が「学ぶ内容」は、いわば、コンピューターにおける「アプリ」だと表現する。

 アプリが重要であるなら「OS」も重要だ。リカレント教育におけるOSは、企業などの「学ぶ環境」あるいは「学び続ける力(の源泉)」であり、これについては「サバティカル制度」の導入を軸に据えている。2018年6月15日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針 2018」、いわゆる「骨太方針」において、企業に勤める人材がモチベーション高く働き続けるための方法として、厚生労働省と経済産業省がサバティカル制度を導入する企業を支援することを明記している。伊藤氏は「大学では半年から1年間、教壇を離れて研究生活に入るというサバティカル制度がある。これを企業でも根付かせたい」と意気込む。


個人の職業寿命が、企業の平均寿命より長くなる

 生産性を高めるもう1つの方法である「労働の移動とその円滑化」は、人材の流動化の促進とも言い換えられる。一番わかりやすい人材の流動は、個人とっては転職、企業にとっては解雇だろう。後者の解雇については、日本の厳格な解雇ルールを緩和するよう産業界から要望があり、厚生労働省が中心となって検討が進められている。しかし、伊藤氏は「海外にならった解雇に関わる制度の前に、日本らしい人材の流動化というものがあるのでは」と問題提起する。

 「日本では、今後も米国のようにどんどん転職するというような現象は起きないのではないか。一方で、日本の企業の平均寿命が30年と言われているなか、労働者である個人は80歳くらいまで働くようになる。そうすると、個人の職業寿命の方が企業の平均寿命より長いことになる。1つの企業に勤め続けるのはもはや一般的ではなく、転職して渡り歩く、もしくは同時に複数の企業で働くことが増えてくる」(伊藤氏)。


 ただ、それでも大企業に所属している会社員にとって転職はハードルの高いアクションであることは確か。そのため経済産業省が注目しているのが「兼業・副業」だという。「一般的に副業というと給料の補填というイメージがあるが、それだけではない。大企業の人材が週に数回、会社にちゃんと届け出をしたうえで中堅・中小企業で活動するなど、顧問のような働き方が考えられる。あるいは分野ごとのプロフェッショナル・アドバイザーとしての働き方もある」と同氏。

 そのような働き方は、すでに一部で広がり始めており、大企業の人材を中堅・中小企業に斡旋するビジネスを展開するベンチャー企業も増えてきているとのこと。経済産業省としてもそうしたベンチャーを応援する取り組みをはじめている。「首都圏を中心とした大企業の人材が、今後、地方の中堅・中小、ベンチャー企業へ流れるのは不可避」と同氏は断言しつつ、「大きな引き金は、2017年にメガバンクが数万人規模で人員の配置転換を発表したこと。新卒採用もガクッと減った。新卒の人たちの行き先が変わるし、メガバンクに勤めている30〜40代の人も流動化し始めている。これらの波があいまって、2018年は日本の労働市場が変わってくる」と予測する。

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