リカレント教育を受けられる環境は整いつつあり、労働移動も普遍的なものとなれば、仕事に対する考え方を変えざるを得なくなるだろう。これからの時代、働き続けるにあたって個人としてできること、しなければいけないこととは何だろうか。これについて伊藤氏は「備えをつくることが大事だ」と強調する。
「自分の腕に覚えがあればなんとかなる。今までは職人の世界で言われてきたが、今後はあらゆる現場でそういうことが起きてくるだろう。経済産業省としては、そのための制度の環境整備を進めていく。個人として大事なことは、1回学んだら終わりではなく、学び続けていくことだ」と述べ、備えをつくるための方策の1つがリカレント教育であると改めて述べた。
しかしながら、教育を改めて受けるにしてもそのコストの出所が問題になる。同氏は、自分・企業・国の3者がそれぞれ負担すべき、という考えだ。「日本で働く人は、いわば“自分株式会社”への投資をしていない。この意識を変えるには、キャリアは会社から与えられるものではなく、自分で切り拓くものだというキャリアオーナーシップの意識をもつ必要がある」(伊藤氏)。
他方、企業と国については、「この20年スパンで見ると、日本企業の人材投資の金額が減っている」ことが問題だと同氏。「だからイノベーションが起きないんだ、というのは実際にその通りだと思う。日本企業は人に優しいというイメージがあるが、数字で見ると全然そんなことはない。政府として、積極的に人材投資をする企業に法人税の減免を上乗せする政策を進めているので活用してほしい」と訴える。
当然ではあるが、日本でリカレント教育をさらに広げていくには、個人だけでなく企業の意識も変える必要がある。「イノベーションは異なる要素の結合から生まれるもの。今日本で求められていることは“蛸壺を壊す”こと。経済産業省も、霞ヶ関の中で蛸壺を壊したいと考え、省庁の役割にとらわれずいろいろなことを政策提案し、民間企業などともコラボレーションしようと思っている」と語る伊藤氏。企業から企業、企業から大学、企業からNPOなど、人の行き来を活発化する仕組みを模索していく方針だ。
「ある大学の社会人向けカリキュラムでは、半分以上が会社に黙って来ている」とも同氏は明かす。この裏には、従業員が学ぶことをよしとしない風潮が企業内に蔓延しがちであることがうかがえる。「転職するのかと言われたり、そんな時間があるならもっと働けと言われてしまう。学びに対してネガティブに見られる雰囲気は変えていきたい。こういう状況のなか、骨太方針の一丁目一番地で“リカレント教育”が位置付けられた意味は決して小さくない。これからは誰もが学ばなければいけない、学ぶなら支援していく、という政府からのメッセージ。企業もそれを受け止めて変えていただきたい」(伊藤氏)。
そのほか、働き方改革などの話題でセットで語られることが多いのが移民の問題だろう。しかし伊藤氏は、「誤解を恐れずに言えば、人が足りないからといって、一足飛びにすぐに外国人、というのも私は変な気がしている」と打ち明ける。人材を単純に増やすのではなく、テクノロジを活用することで生産性を高めるのが先決、との立場だ。同氏は「日本の中堅・中小企業はこの10年間、驚くほどIT投資をしていない。生産性向上のためのIT投資に取り組むのではなく、コストの低い非正規労働で目先の問題をしのいできた。本当の意味で人材不足が深刻化してくると、これもそろそろ限界」と言い切る。
的確なIT投資を行ったうえで、「それでも足りないところがあれば、外国の方にもっと来ていただく、というのは必ずやあろうと思う」と同氏。ただし、単純労働のためにではなく、ある程度スキルのある人に入ってきてもらいたいと述べ、「日本の伝統的な長時間労働、無限定正社員とも言われる働き方では外国人は入ってこないし、入ってきたところですぐに辞めてしまう。そういう意味で、今回の働き方改革は、外国の方に日本企業で活躍してもらうためにも必要なことだと思う」と付け加えた。
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