院内では、服薬に関する課題もあった。患者に合った正しい服薬、量、指定の時間帯で服薬するため、バーコードで管理されている。従来は、ワークステーションに接続されたバーコードリーダをワゴンに乗せ、看護師が患者の部屋を回っていたという。
それが、iPhoneとアプリ「Epic Rover(エピック・ローバー)」により、PCやバーコードリーダを使わずに、iPhoneのカメラで患者が身に着けているバーコードをスキャン撮影することが可能になった。コストも下がる上、看護師の労力も少なくて済むメリットもある。
また興味深いのは、博士の病院では入院患者全員にiPadを渡していることだ。
患者向けに用意されているアプリ「Epic bedside(ベッドサイド)」では、担当医や看護師の情報、検査などその日のスケジュールが得られるほか、患者が患っている疾患に関する情報や飲んでいる薬についての詳しい情報なども学べるようになっている。さらには検査結果なども全て知ることが可能。さらには、担当医との会話内容などを録音できるようになっているため、口頭で言われたことなどをいちいち覚えたり、メモをとったりする必要がない。説明を録音しておくことで回診時間に来られなかった家族にも説明を聞かせられるというわけだ。
また、自身の疾患の理解度を高めることで患者の精神面も安定し、医師や看護師とメッセージでやりとりしたりできることで、高い満足度が得られたという。
入院中だけでなく、退院後のケアも重要だ。米国のデータでは退院後3週間の間に2割の患者は何らかの形でトラブルを経験するという。つまり退院後も連続的にケアが必要なのだ。そこで重要になってくるのが、外来のデジタルソリューションだ。たとえば、処方された薬をしっかりと飲むということ。日々の生活や食事の状況。そして高齢者に多く見られる、一人暮らしによるストレスなどに対し、コミュニケーションをとることで、ケアしていく仕組みだ。
たとえば、食生活で塩分を控える必要がある患者の場合、食事を作っている人に食事に関するアドバイスの動画リンクなどをメールで送ると、再入院確率は43%低減したという。
「iPadにはさまざまなアプリを導入できる。たとえば食事やダイエット、睡眠に関するアプリなどがあり、これらを利用することで患者の健康への意識が変わる。医療従事者がアプリを選択し、患者に紹介していく形で提供することが重要になる。さらにコネクテッドデバイスを医療トラッカーとして利用することで、さまざまな情報を医師に送れるほか、その情報をもとに健康状態を把握し、『病院に来てください』と伝えることもできる」と語った。
さらに死亡率の高い慢性疾患を抱えた患者からは、毎週あるいは毎日データを集めることが大切になるという。アップルヘルスケアから得たデータなどを解析することで、この人は問題ない、この人は注意が必要、そしてこの人には今すぐ電話をかける必要がある、といった判断ができるとした。
また、トレーニングなどによって血圧をしっかりとコントロールしている患者に対しては、iPhoneやアプローチに対して、励ましのテキストを送ることも可能だ。薬を飲む時間になるとアラートを出し、飲むべき薬を知らせるといったことも可能だ。
オシュナー・ヘルスシステムは、こうして医療システムを大きく変革している。入院患者だけでなく外来患者に関しても新しいアプローチを始めており、このような変革をするためには、強いリーダーシップをもって紙ベースからデジタルに移行していく必要があると説明する。
オシュナー・ヘルスシステムでは2年で完全なデジタル化を実現したという。一定期間に進めなければ助成金がでなかったことが、早期の導入を後押ししたという背景もある。しかし、デジタル化していくことで、収益性も上がっていったという。「最初は収益の2.5%をデジタルに投資した。1~2年で収益率が上がってくる。時期が経てば投資に見合った額が戻ってくる」と語った。
一方で、医療システムの導入には障壁もあった。変化を拒む医師もいたからだ。30年、40年と長らく紙のカルテで仕事をしてきた医師もいる。そうした医師らの意識を変えるには、導入に向けて「2~3カ月かけて適切なトレーニングをすること。トレーニングを受けたあと自信を持たせること」という。
そうすることで、「また紙に戻ることはない」と医師らがいうほどに意識が変わったという。なぜデジタル化するのか。「医師や患者に辛い思いをさせるためにやっているわけではなく、私たちは患者のケアの品質と安全性を高めたいから。医療システムの現役モデルを改善するためにやっていること」と説明する。
iPhoneやiPad、Apple Watch、そしてAIやサーバ、それらをつなぐ新しいシステムとアプリの数々。これらによって病院の仕組みは大きく変わり始めているのだ。
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