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アニメ制作のデジタル推進と作画報酬新制度で“働き方改革”--スタジオ雲雀に聞く - (page 3)

佐藤和也 (編集部)2018年07月13日 12時00分
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光延氏:最初はかなりドキドキしていたんです。旗を振る立場なので、周りには「これが絶対にいい」と言っていましたが、誰もやらないであろうことに手を付けたわけですから、猛反発がでたらどうしようと思っていました。仲のいいフリーランスの方を通じて、さりげなく反応を聞いてもらっていたぐらい、内心はビクビクしていたのも事実です。

 実際に提示したところ、多少質問など問い合わせはありましたが、反発というものはなかったです。作画をされている方は、今まで大変なものでも簡単なものでも一律の報酬だったことに納得いっていなかったと捉えています。それが、今までよりは正しい方向で考えられているとして、受け入れられている感覚はあります。

宮崎氏:基本的には報酬が上がっている場合の方が多いですし、単価として下がっているものについても、ほぼ手のかからないカットだと説明すると理解していただくことができました。

光延氏:ただ、現状の制作費から原画に対する工数で報酬を割り出すと、描き手側がうまみを感じにくい金額になってしまうので、その部分は5割増しにしました。そもそも工数をCG制作のように人月で計算すると、正直倍ぐらいの制作費が必要だと思えるぐらいなんです。なので、今の費用にあてはめてしまうと違和感が出てくるだろうと。現在、動いている作品については、すでに制作費に関する契約も済ませているため、増額分は持ち出しにしていますが、今後は制作費全体を底上げしたうえで配分していきたいと思っています。

 そのために、過去の作品におけるカットの難易度や工数についても精査しています。実際に調べてみると、工数が1.5倍ぐらい違う作品もあったんです。今後は正しい工数を割り出し、きちんとクライアント側に説明したうえで、見積もりを提示し、制作費に関する予算の交渉をしていきたいと考えています。

 今回は原画ですが、将来的には絵コンテなども含めてすべての工程における工数を割り出し、それにあわせた見積もりに切り替えたいとも考えています。それによって、50年ぐらい前から続いてきた各行程の予算配分を一度整理するのが狙いです。ほかの産業ではおそらく当たり前のことであるかと思うのですけど、アニメの制作でもそうしていきましょうと。

 基本的に、ひとりの人がきちん仕事したら、適切な収入となる人月ベースの報酬に基づく単価を設定すれば、みなさんがちゃんとした給料がもらえて、他の業界から見ても当たり前のように生活ができる状態になるはずですし、報道されているような低収入で苦しむという状況にはならないはずです。

宮崎裕司氏
宮崎裕司氏

――この取り組みがうまく定着して、仮にほかの制作会社にも波及すると、アニメ制作の環境はどのように変わるでしょうか。

光延氏:間違いなく、劇的に変化すると思います。

宮崎氏:現代では色々な形のエンタメがありますが、アニメについては予算と作業量との対価がマッチしていないと感じています。クリエーターの方々が“好きだから”という気持ちで我慢している状態が続いていたと思うんです。でも、疲労や他業界の待遇の良さを感じて離れていってしまう方も少なくありません。待遇改善を行っていければ、そのようなことも防げると思います。このままでは国内産業としてシュリンクしてしまうという危機感もありますが、今回の取り組みが広がれば変わる可能性があると思います。

光延氏 :今までは予算ありきで、その範囲で収めようとして、セル画の時代から韓国や中国や東南アジアの国々に外注して制作費を抑えていました。その影響で、国内の制作会社でも同じような予算になってしまっている状態です。そして、韓国や中国はどんどんアニメ制作の力を付けてきています。

 日本人が持つアニメ好きのアイデンティティというのは、なかなか他の国には真似できない文化や感覚、センスにつながっていると思います。一方で、実際に専門学校や各種学校で学ぶ方は多いのですが、将来性を考えてアニメ業界に入らない方もいます。この先、少子化が続く状態になっても、アニメ業界を目指してもらって、ちゃんと制作現場に入ってこられる環境にしていかないと未来はないでしょう。今回の取り組みをうまく定着させていくことが、数十年先も続けていくためのターニングポイントになる。そのぐらい大きなものだと考えています。

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