2016年12月、Eコマース大手のAmazonは、人見知りにとって究極の食料品店を発表した。レジなしの店舗をシアトルで開店したのである。利用客は、店に入って必要なものを手に取り、出ていくだけで、代金は自動的にAmazonアカウントに請求される。人工知能(AI)などを活用したこの店舗「Amazon Go」は、日用品を買いに店に走るという行為の意味を根本から変えてしまった。
Amazon Goは2018年1月に一般向けにオープンし、レジがないので列で待つ必要もなく、ショッピング体験が合理化されるとうたわれた。Amazonの店内システムは「Just Walk Out」と呼ばれている。コンピュータビジョンやセンサフュージョン、ディープラーニングといったテクノロジを駆使して、客が何を手に取ったか判断し、店を出るときAmazonアカウントに正しい代金を請求する。
Amazon Goは、人間の労働者をテクノロジによって置き換えるものだとして物議を醸していることは否定できない。McDonald’sが、自動化したセルフサービス型キオスク端末で注文をとるようになったときと同じだ。そして、これが続くのかどうか、他の小売業者にも広がるのかということは、さらに大きな問題だろう。
Amazon Goのレジなしショッピングは、小売りの未来の姿なのだろうか。その答えは単純ではないようだ。
デジタル技術はこれまでに小売業のほぼあらゆる側面を変革してきており、それによって顧客の立場や期待することも変化してきた。そう語るのは、Forrester Researchのプリンシパルアナリスト、George Lawrie氏だ。Lawrie氏によると、Amazonは差別化された独自のカスタマーエクスペリエンスを、オンラインで作り出すことに力を注いできたが、今やそれを実店舗にまで拡大しつつあるという。
非接触型決済(「Apple Pay」など)と同じく、Amazon Goの利点はシンプルだ。スピードと利便性である。「理想的なショッピング体験とは、煩わしさが一切ないことだ」(Lawrie氏)
そして、そのスピードと利便性は、利用客にとっても重要なことである。451 Researchのデータによると、米国では過去1年で、レジの長い行列を見て買い物を諦め、別の店で買ったり、買うのをやめたりした買い物客が86%もいたという。「これは、およそ377億ドル(約4兆2000億円)の機会損失にあたる」と、451 Researchのリサーチディレクターを務めるJordan McKee氏は述べている。
しかも、デジタル技術のアーリーアダプター(451 Researchでは「spendsetter(消費先導者)」と呼んでいる)になると、その75%が、AmazonのJust Walk Outのような支払いシステムがある店舗を利用したいと答えている。
簡単に言えば、確かにAmazon Goのモデルは多くの小売業の未来像ではあるが、すべてにとっての未来像ではない。特定の小売セグメントには有効だが、すべてに有効なわけではない。何もかも、その体験の状況次第だろう。
Constellation Researchの創業者でありプリンシパルアナリストでもあるRay Wang氏は、このように話している。「Amazonというのは、効率性を非常に重視するブランドだ。Amazonの(Eコマース)事業が反映されているので、Amazon Goの形態はとても理にかなっている。だが高級品を扱うブランドだったら、両面展開したいと思うだろう。高級品を買うとなったら、顧客は完全自動式の支払いでは満足しない場合もあるからだ」
例えばホテルなら、コンシェルジュと言葉を交わさないモバイルチェックインを望む顧客もいるだろう。だが、それが5つ星ホテルとなれば、顧客を個別に出迎えるスタッフや会話を伴うサービスが期待されるだろう、とWang氏は言う。
地域による文化の違いという問題もある、とLawrie氏は指摘する。例えば、北欧の一部の地域では、消費者がクレジットカードよりも現金払いを望む傾向にある。「スウェーデンやオランダでは、Eコマースの買い物でも多くの人が代金引換を希望する」(Lawrie氏)
しかし、レジなしという形態の店舗について考える上で、顧客は一方の要素にすぎない。
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