鈴木氏 : 正しくは選択肢を増やしていくという方向です。画質の向上や(同時視聴可能な)ユーザーの数を増やすといった“余白”を増やしていきます。まだ具体的なサービス活用には至っていませんが、必要な部分に対しては早い段階の投資が必要です。
栗田氏 : 高画質な番組の大量配信を可能にするため、回線を強化していくといった方が分かりやすいでしょう。
鈴木氏 : そのパートナーとしてご協力いただいたのが、3年ほど前からお付き合いしているソシオネクストです。弊社の内部配信システムであるDMCは、生放送時にサーバ側で何千という番組をエンコードしますが、ソフトウェアエンコードはやはり非効率。そのためハードウェアエンコードが必要になりますが、大量番組の同時エンコードに適したものは多くありません。弊社のハードウェアに明るい開発メンバーからソシオネクストにご相談させていただきました。足掛け3年の取り組みです。
脇本氏 : 弊社は放送用機器などを扱っていますが、ドワンゴが2015年ごろからハードウェアエンジニアを募集しており、われわれも注目していました。ドワンゴに弊社製品を評価していただきましたが、意識を大きく変えられたのが規格です。放送の世界では(映像フォーマット)に厳格なルールがあり、それを守らないと評価されません。しかし、インターネットの世界は乱暴な表現ですが“何でもあり”です。視聴者に受け入れられればよいと。ここが、われわれのマインドシフトにつながりました。
今回開発したデバイスは、ドワンゴの要望に応えて開発した4代目となります。最初の評価用ボードは(そのサイズから)ピザボックスと呼んでいました。そこから小型化を進めて3代目はPCIボードまでサイズダウンしましたが、ドワンゴの1Uサーバには入りません。そこで3カ月をかけてロープロファイルPCI化しました。
——これによって、ユーザー体験はどれほど変わるのでしょう。
鈴木氏 : 試験的に利用していますが、同じ画質であれば恐らくユーザーにはピンとこないと思います。体感という意味では720pの制限がなくなった時でしょう。
脇本氏 : むしろ、気づかれないのが一番いいですね。
鈴木氏 : 画質を求めるユーザーの声が大きいことは理解していますが、実際は一定量まで満たせば満足していただけると思っています。それよりもユーザー体験という文脈で見れば、映像が断線してしまうことの方が問題です。
——確かに、ニコニコ動画はユーザーコメントが画面上を流れるので、遅延が許されないサービスですよね。
鈴木氏 : ソフトウェアエンコードでも同じでしたが、画質を求めると遅延が増加します。たとえば、720pのエンコードは何秒以内という目標を設定し、低遅延で変換して目標値を上回らないようにしているため、他のサービスよりも遅延を重視していると思います。
脇本氏 : ハードウェアはリアルタイムかつ確実にエンコードするのが使命ですから、“縁の下の力持ち”でしょうか。また、ハードウェア屋としては、ドワンゴがフルHDや4K、8Kにチャレンジしていただければ本望です(笑)。
栗田氏 : 4Kぐらいは対応したいですね。
鈴木氏 : コーデックも重要です。現在はH.264が主流ですが、今後はウェブブラウザのサポート状況を踏まえて、われわれも対応を模索していきます。
——話は変わりますが、ここ数年のニコニコ動画のユーザー層の変化や利用動向についても教えてください。
栗田氏 : 直近のMAU(月間アクティブユーザー)は、約半分が20代、次いで30代、残りは10代と40代。最近はSNS経由で視聴する10代の伸びが顕著です。ニコニコ生放送でも生主さんによっては10代のファンが多く、非ログインが拡大すれば10代の視聴者は拡大するでしょう。(大規模リアルイベントの)超会議に関しても以前から10代の来場者が多く、年を重ねるごとに増加傾向が見られます。やはり若い方は行動力を供えており、アンケート結果からも若い方の満足度は高いです。
——一時は「歌ってみた」「踊ってみた」などの“生主”が人気になり、CDデビューをしたり、イベントで登壇したりするムーブメントが起きていましたが、ここにも変化は起きていますか。
栗田氏 : 現在は生主からVTuber(バーチャルYouTuber)などに注目が移ってきているところはあります。VTuberを楽しむ形は、昔のVOCALOID(ボーカロイド)に近いと感じています。他方でniconicoは動画だけではなく、生放送や静画、RPGアツマールなど何でもあり、広い趣味嗜好をニッチに集めている状態です。ゲームやアニメに強いのは当然ですが、ユーザーの集約という意味では今のほうが興味は分散しているのかもしれません。ユーザーごとにサイトに集まる動線が異なるため、非ログイン化の効果もあるのだと思います。今後も各分野に対して動線を用意し、集まっていただけるようにしたいです。
——「ニコニコ超会議2018」は過去最高の来場者数でした。
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