シャープ代表取締役会長兼社長の戴正呉氏は6月25日、社員向けイントラネットを通じて、社長メッセージを発信した。ほぼ毎月のように、社長メッセージを発信している戴氏だが、今回は、会長職を兼務してから初のメッセージとなり、社員に対して、「誠意と創意ある仕事を実践し、シャープならではの新たな価値を創出しよう」と呼びかけた。
冒頭で6月20日に、大阪府堺市の同社本社において、第124期定時株主総会および株主を対象とした経営説明会を開催したことについて報告。「出席した株主からは、当社の業績回復に対する温かい言葉をいただく一方で、配当の増額を求める声や、大企業病から抜け出せていないなどの厳しい意見もあった。こうした意見は、当社のさらなる成長に対する期待の裏返しだといえる。株主からの付託を受けた新経営体制の下、引き続き中期経営計画の確実な達成に向け、全社一丸となって取り組み、期待に応えていこう」とした。
最初のテーマとしたのが、「事業のトランスフォーメーションの加速」である。
中期経営計画の基本戦略として、「戦う市場」、「オペレーション」、「事業」の3つのトランスフォーメーションに取り組んでいることを示しながら、「2017年度は、ASEANや中国を中心に、海外での事業拡大が進むとともに、構造改革では、2016年度に続いて、1000億円を超える効果を上げ、効率的なオペレーションの構築が進んでいる。このように、『戦う市場』、『オペレーション』のトランスフォーメーションが着実に進展する一方で、『事業』のトランスフォーメーション、すなわち、ビジネスモデルの変革は、まだまだ満足できる水準には達していない」と指摘。
「中期経営計画では、シャープが100年続く企業になるための土台づくりが狙いだが、モノが溢れ、モノでの差別化がますます難しくなる時代にあって、シャープが、従来型の『モノづくり=ハード中心』の企業である限り、次第にブランド力が弱まり、この目標を叶えることはできない。『良いモノを創る』ことは、これからもしっかりと取り組んでいかなくてはならないが、それに加えて、COCORO+サービスやAIoTプラットフォーム、エコシステム全体を通じて、シャープならではの新たな価値や素晴らしい体験を、お客様に提供する企業へと変革する『事業のトランスフォーメーション』を成し遂げてこそ、さらに100年続く強いブランドを創ることができる」と訴えた。
ここでは、5月に発表した、世界で初めて、動画用と静止画用の2つのアウトカメラを搭載し、動画撮影中にAIが自動で静止画を撮影する機能を搭載したスマートフォンの「AQUOS R2」や、6月14日に発売した音声対話による操作や献立相談が可能な新型「ヘルシオ」など、独自のAIやIoT関連技術、IoTデバイスを活用した取り組みが始まっていることをあげながら、「このように、『良いモノを創る』だけでなく、『強いブランドを創る』という発想を、より一層強く持って業務に取り組んでもらいたい。また、こうした考えに沿って、新規事業分野に展開することも必要である」とし、「6月11日に発表したペット事業への参入は、こうした取り組みの1つであり、成長が期待できるペット分野で、まずはハードと一体になった新たなサービスやオプションビジネスを立ち上げ、将来的には、新しいエコシステムを構築していきたい」とした。
さらに、「強いブランドを創る」取り組みとして、「私たちが生み出す新たな価値を、しっかりとお客様にお伝えすることが大切。例えば、直近の事例では、ASEAN市場では節水が訴求ポイントになるにもかかわらず、当社独自の穴無し槽洗濯機の特徴を、十分に伝えられていなかった。そこで、PR動画の活用や店頭展示を見直した。商品やサービスの開発の段階から、いかにコミュニケーションするかを考えておかなければならない」と提言した。
2つめのテーマは、「投資戦略の転換」である。
戴氏は「事業のトランスフォーメーションは、当社単独のリソースだけでは限界がある。そこで『借力使力』が必要である。協業を通じて、他社の力を活用するとともに、投資戦略についても、従来の生産設備から、新たな事業や技術、人材中心の投資へと大きく転換していく」とした。
その取り組み例としてあげたのが、先頃発表した東芝クライアントソリューションの買収である。
「東芝のPC事業を行う子会社である東芝クライアントソリューションの買収は、まさにこの方針に合致した取り組みである。この買収により、『8Kエコシステム』や『人に寄り添うIoT』の実現に向けたIT人材を獲得するとともに、シャープが持つ8K+5GやAIoTなどの最先端技術と、東芝クライアントソリューションのIT技術やeコマースのノウハウなど、両社の強みを融合し、新たな価値を創出することにより、ビジネスモデルの変革を一層加速させていく」とした。
さらに「両社の商材や販路の相互活用、間接業務や拠点の集約をはじめとしたリソースの統合、経営管理のノウハウ共有などにより、シャープ、東芝クライアントソリューションの双方の売上げ、利益の最大化に取り組み、中期経営計画の達成をより確かなものにしていきたいと考えている」と述べた。
3つめのテーマが「グローバル事業の拡大」である。
「戦う市場のトランスフォーメーションは順調だとしたが、これからも決して手を緩めず、一段と強化していく」と戴氏は宣言。「ASEAN事業の拡大については、かつてのシャープの社長とは異なり、私自身が陣頭指揮を取っており、先日も一週間にわたって出張 をしてきた。4月にインドネシアの販売会社P. T. Sharp Electronics Indonesia(SEID) が20ヵ月ぶりに計画を達成したことに続き、5月には過去最高の業績を達成したことから、現地で社員の労を労い、喜びを分かち合うことが、今回の出張の最も重要な目的だった」とした。
一方、現地大手企業トップとのハイレベルミーティングを実施したことに言及。6月11日には、インドネシアで工業大臣と、12日にはタイで政府観光庁総裁と、13日には同じくタイで副首相と、さらに15日にはベトナムのホーチミンで投資・貿易促進センター所長と面談したことも報告。「政府要人と、各国における事業拡大や協力関係構築に向けた意見交換ができるようになったことは、これまでの取り組みを通じて、当社のASEANにおけるポジショニングが確実に高まっている証でもある」とした。
また、「海外には、空白市場や空白カテゴリなど、成長のチャンスは無限にある。今後も、ASEANだけでなく、中国、欧州、さらには米州へと事業拡大の流れを波及させ、近い将来、海外事業比率80%の達成を目指していきたい」と、海外事業の拡大に意欲をみせた。
4つめのテーマが「One SHARP」である。
ビジネスソリューション社(SBS)、ホームソリューション社(SEMC)、カスタマーサービス社(SEK)の3つの会社を統合したシャープマーケティングジャパン(SMJ)では、旧会社ごとの事業運営体制を見直し、各地域で最適な事業活動ができるように、地域ごとの体制に再編したことに触れ、One SHARPの方針に沿った取り組みを進めているとしたものの、「依然として、One SHARPをおろそかにした事例も散見される」と指摘した。
「例えば、先日、社内のある戦略ミーティングでは、AIoT事業を拡大していく上で重要となる部品を、各本部が、個別にベンダーから購入していたことがわかった。早急に、購買担当者の教育を実施するとともに、部品の商流を見直すなど、One SHARPの購買を進めるよう指示した。また、ペット事業参入の記者発表では、当初、猫用ペットケアモニターと、犬向けバイタル計測サービスのそれぞれの担当本部が、個別に記者発表を予定していたため、私が一本化を指示した」と、具体的な事例を示しながら、改善を促した。
「シャープが、8KエコシステムやAIoTの取り組みを進めるにあたり、One SHARPの実践は極めて重要である。いま一度、すべての業務で、One SHARPを実践できているか、各職場で再確認し、改善すべき点があれば、即座に対応してほしい」と呼びかけた。
最後に戴氏は、6月20日に堺事業所に新たに建設した社員寮の「堺匠寮 誠意館」の開所式を行ったことを紹介。「この寮名には、当社の経営信条である『誠意と創意』をつけ、私たち一人ひとりが今後も大切にしていくという思いを込めた。2019年中頃には、誠意館の隣に、創意館も竣工する予定である」とし、「誠意ある仕事とは、業績への貢献、ルールの遵守、報連相の徹底、有言実行の実践など、物事に真摯に向き合うことであり、創意ある仕事とは、新しいアイデアの発案、工夫、挑戦的な目標設定など、常により高い成果を追い求めることである」とした。
だが、その一方で、「誠意と創意ある仕事に取り組む上で、私は、まだまだ指示待ちの社員が多いことを心配している。今後、私たちは、サービスやソリューションへと事業領域を拡大していくが、常日頃から、社員一人ひとりが、お客様に限らず、サービスを提供する先の立場に立って、『自ら考え、自ら動く』、そして『自ら価値を生み出す』といった積極的な行動習慣を身につける必要がある。このような仕事を通じて、当社が提供する価値をお客様に実感してもらってこそ、本当の意味での『誠意と創意』、『Be Original.』な仕事を実践できたと言える。社員全員がこれを肝に銘じて、業務に邁進していただきたい」と締めくくった。
株主総会では、社員のサービスに対する意識や認識が低いことなどが、株主から指摘されたが、それを改善することを、社員に改めて訴える内容になった。
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