世界的に大ヒットした映画シリーズ「ロード・オブ・ザ・リング」や「ホビット」などのロケ地として知られ、人気ハリウッド映画の製作会社「WETA」のスタジオもあるニュージーランド。そんな同国の首都ウェリントンに2月に設立されたのが、アートとクリエイティブについて総合的に学べる専門教育機関「Te Auaha(テ・アウハ)」だ。
Te Auahaは、ニュージーランドの工科大学・ポリテクニックであるWelTec(ウェルテック)とWhitireia(フィティレイア)が共同で立ち上げた教育機関で、日本の総合大学(知識重視)と専門学校(実践重視)の中間に位置するイメージだ。ユニークなのは、大学のように「学位(学士)」を取得できること。日本では専門学校で学位を取得できないために大学に進む人も少なくないが、Te Auahaを卒業すれば、手に職をつけながら、企業の経営にも携われるようになる可能性が高まる。
科目の種類は、グラフィックデザイン、映画製作、デジタルメディア、アニメーション、ダンス、美容など幅広く、それぞれの科目でスキルに合わせた複数のコースを用意している。カリキュラムについても、卒業生が就職後に即戦力となるような実践的なものを用意していると、Te Auahaディレクターのヴィクトリア・スパックマン氏は話す。また、現場から経営層へと進めるように、技術に加えてビジネスやセールスの教育も併せてするそうだ。
選択の幅が広いこともTe Auahaの魅力だ。たとえば、メイクアップの科目では、ファッションメイクアップ分野に進みたい人に対して、テレビや映画の特殊メイクなども経験させることで、さまざまな進路を選べるようにしているという。また、1つの科目に制限せず、やる気さえあれば音楽と一緒にライティングの科目を受けて、どちらの学位も取得することも可能だという。
ニュージーランドならではの特徴としては、ラジオのクラスの受講者が多いとのこと。山岳地帯が多く、先住民マオリをはじめとするいくつもの民族が暮らしている同国では、ローカルのラジオ局が数多く存在し、時計がわりにラジオを聞く習慣のある農家などにはいまだに根強い人気があるのだという。ただし、若者の情報収集の手段はスマートフォンなどに移っていることから、ラジオだけでなくポッドキャストやソーシャルメディアの活用方法なども教えているという。
生徒たちは、3年生になるとプロジェクトを企画し外部機関とコラボレーションしたり、企業でインターンシップをしたりしなければいけない。現場を知ることで、卒業前にその業界ならではの知識や経験を身につけるためだ。選んだ科目のプロジェクトをこなし、3年間の学生生活を終えると生徒たちに学位が与えられるという。なお、修了証(サーティフィケート)や準学士号(ディプロマ)などの資格も取得できるとのこと。
Te Auahaを共同設立したWelTecの卒業生で、現在もニュージーランドでグラフィックデザイナーとして活躍しているのが日本人の松本貢実子さんだ。30代後半だった7年前に、小学校を卒業したばかりの息子と2人で親子留学という形で同国を訪れ、WelTecに入学。3年間の学生生活を経て、グラフィックデザインの学士を取得した。
「当初は、デザインは素人で英語力も低かったため、くじけそうになってやめようかと思った」(同氏)そうだが、チューターや学生サポートによる支えもあり、これを乗り越えたという松本さん。在学中に実績を積み、卒業式ではベストスチューデントに選ばれ、生徒たちの前で表彰されたという。移民が多く、人種や年齢よりも実力が評価される同国ならではのエピソードと言えるだろう。
卒業後は、ギャラリーアシスタントや戦争ミュージアムの展示物製作、映画「攻殻機動隊」実写版の製作などに携わった後、ニュージーランド発のベビーカー企業であるphil&teds(フィルアンドテッズ)のグラフィックデザイナーとして就職。初めて同国に訪れてから6年かけて永住権を取得した。今後は、日本にいる夫を同国に呼び、ともに暮らす予定だという。
取材協力:ニュージーランド大使館 エデュケーション・ニュージーランド(ENZ)、ニュージーランド航空
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