盛り上がる「レンディング」の今

貸金業の変遷からオンラインレンディングの可能性を探る - (page 2)

内山誓一郎(クレジットエンジン)2018年07月02日 13時00分

オンラインレンディングに金融機関も熱視線

 また、インターネット系のプレーヤーだけでなく、既存金融機関がオンランレンディングに注目する流れも来ている。これは主に、融資事業の収益性の悪化に起因する。長引くゼロ金利政策などの影響により、銀行の貸出金利は非常に小さい。中小企業等金融円滑化法により、中小企業向けの融資残高を減らすことができない上に、業況が悪くなった融資先へは条件変更対応などのコンサルティングが求められる。一方で、金利は全く上がらないというジレンマの中におり、貸金というサービス自体が収益性の見込めない事業になってしまっている。

 この点、オンラインレンディングの可能性として、新たな形の融資であるため個別の貸出より高い金利を設定でき、人手をかけない資金提供であるためコスト削減が見込める。また、先述の通り若い世代の経営者で、銀行と直接のやり取りを嫌うようなケースも増えて来ており、非対面のチャネルを拡充するニーズが増えているとも言われている。

今後の発展に向けた法的な側面

 ただし、オンラインレンディングの発展にはまだ多くの阻害要因が存在する。テクノロジやサービスの発展に、規制や既存金融の対応が追いついていないというのが現状である。

 まず一つの大きな問題としては、KYCと呼ばれる本人確認の分野、具体的には、犯罪者収益移転防止法に関わる本人確認手続きの煩雑さである。現状の、犯収法では、非対面取引のサービスの拡大を前提に構築された法律ではないため、オンライン取引を行おうとすると多くの手間がかかる。具体的には、運転免許証などの本人確認資料を提出した上で、住所確認のための本人限定郵便の送付による住所確認が必要となる。このオフラインでのオペレーションが発生するため、即時取引は難しく、郵送物受け取りまでの日数を要してしまう。サインアップからコンバージョンまでのユーザーの熱が重要なオンラインサービスにおいて、このタイムラグは非常に大きい。

 海外では新しいテクノロジーによりKYCが改善されている。インドの例では、モバイル端末による指紋認証を利用した本人確認が認められている。これであれば一度登録すれば、サービス提供者に対して即時に本人確認できる。日本でも、本人確認を完了した金融機関の口座情報を提供することによってKYCを完了させるなどの施策が検討されているが、まだ実用化には至っていない。

 もう一つ、既存金融の対応として必要となるであろうことが、APIの利用拡大だ。金融庁の大方針としてこれまで、スクレイピングが広く利用されて来た銀行口座データの取得を、よりセキュリティの高いAPI方式にするというものである。銀行入出金データはビックデータによる与信判断には欠かせないデータのピースである。しかしながら、既存金融機関には、データを渡すことのメリットを十分に把握できておらず、金融庁の方針に従い、APIの利用の制限を考えているところもあるようだ。与信取引に広くAPI経由で取得されたデータが利用されることで、顧客利便性が高められる環境を目指したい。

◇ライタープロフィール
内山誓一郎(クレジットエンジン)
株式会社クレジットエンジン 代表取締役社⻑。
慶應義塾大学経済学部卒。2007年より株式会社新生銀行において、不動産業を中心にコーポレートローン、ストラクチャードローン業務に従事。その後、仙台市に転居し、東日本大震災後の復興支援事業の立ち上げを行う。2012年より米国UCLA Anderson School of Businessに留学し、在学時には現地のベンチャーキャピタルでのインターンや、仮想現実(AR)関連技術のスタートアップに参画。帰国後株式会社マネーフォワードに入社し、業務支援サービスの営業や事業開発、家計簿サービスの事業提携などに従事。2016年に株式会社クレジットエンジンを創業。2017年1月より、オンラインレンディングサービス「LENDY」を提供。

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