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「いい授業とは何か」は生徒のデータが教えてくれる--高校2000校が導入する「スタディサプリ」

藤井涼 (編集部) 井口裕右2018年05月10日 08時00分
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 教育サービスにとって最も重要な価値は、教育効果を生み出すことだ。受講者に学力や学習意欲の向上を生み出し、志望大学への合格などの自己実現を達成することである。それは、一般消費者向けのサービスが顧客満足度を生み出すこととは全く異なる難しさを孕んでいるといえるだろう。オンラインサービスであれば、その難しさはさらに高まる。

 こうした課題に対して、小学生から高校生までの児童・生徒が年間50万人以上利用するオンライン学習サービス「スタディサプリ」はどのように挑んでいるのか。サービスを運営するリクルートマーケティングパートナーズまなび事業本部事業開発部の部長である西山亮介氏と、同事業開発部スタディサプリEnglishグループのグループマネジャーである笹部和幸氏に話を聞いた。


「スタディサプリ」を担当する西山亮介氏(右)と、「スタディサプリEnglish」を担当する笹部和幸氏(左)

全学齢の教材を開放して学習意欲に応える

――まずは、現在のスタディサプリの全体像について教えてください。

西山氏:スタディサプリは現在、小学校4年生から高校3年生までを対象に学校のカリキュラムに準拠したプログラムを提供しています。月額980円で小学校4年生から高校3年生までの約4万本の動画コンテンツや学習ドリルを利用できる「スタディサプリ」と、日常英会話やTOEIC対策のプログラム、そしてTOEIC対策のパーソナルコーチプランを提供する「スタディサプリEnglish」に大きく分かれています。

 スタディサプリでは、好きなだけ勉強できるだけの十分なコンテンツを用意できていると考えていますが、すべての生徒が自発的に学習できるかというと難しい部分もあります。そこで、大学受験に向けて生徒に伴走してモチベーションを高めるために、生徒にあわせて学習プランを考えて担当コーチがサポートをする「合格特訓コース」をリリースしました。

 また、スタディサプリは“いつでもどこでも教材に取り組める”サービスですが、それは裏を返すと“いつでもいいならやらない”となりがちです。そこで、時間とコンテンツを絞ってライブストリーミングを行うコースを大学受験向けに新設し、勉強する習慣を醸成したり先生と生徒のインタラクティブなコミュニケーションを生み出したりしながら生徒のモチベーション向上をはかっています。


「スタディサプリ」では約4万本の動画コンテンツを視聴できる

 一方、スタディサプリEnglishでも同様に、月額980円で日常英会話が学べるコース、月額2980円でTOEIC対策ができるコース、そして自分ではなかなか勉強を続けられない人に向けてモチベーションを伴走するパーソナルコーチプラン(3カ月プログラム:6万8000円/6カ月プログラム:9万8000円)を用意しています。

 スタディサプリもスタディサプリEnglishも、安価で豊富な学習コンテンツを提供するというベースとなるサービスと、受講者に寄り添ってモチベーションの維持をサポートするパーソナルコーチングを提供するサービスという、2つの軸で提供しています。

――生徒向けの通信講座では、学齢ごとに講座を分けて他の年次の教材は閲覧できない場合も多いですが、小学校4年生から高校3年生までのすべてのコンテンツを全受講者に開放しているのには、何か狙いがあるのでしょうか。

西山氏:たとえば、高校3年生が高校3年のコンテンツだけを学習すればいいのかというと、決してそうではないと思うのです。中には、中学の学習内容を復習する必要があったり、小学の内容にもさかのぼって学習し直す場合もあるのではないでしょうか。いつ、生徒たちの中に学習意欲の火が灯るかは、わかりません。その中で私たちは、どんな人でも学びたいという意欲が生まれたときに(自分の学びたいことを)学べる環境を提供したいという考えから、すべてのコンテンツをすべての受講者に提供しています。

 一方、逆もまた然り。高校1年生がどんどん学習を進めて、高校3年の内容を学びたいという意欲があってもいいと思います。そのような生徒の意欲にも、スタディサプリの仕組みは応えられるのではないかと考えています。

――生徒の意欲に応えるという点は、学習サービスにおいて重要なポイントですね。

西山氏:そうですね。つい先日、スタディサプリで学んで大学進学が決まった生徒を集めて教材コンテンツに登場している先生と交流できる祝賀会を行ったのですが、そこに来場したある工業高校の生徒が印象的でした。その生徒は、元々スポーツ推薦での大学進学を目指していたのですが、身体を壊してしまいその道が絶たれてしまった。工業高校ということもあり周囲には就職する人も多かったのですが、それでもその生徒は学びたいと考えていた。ただ、普通の予備校では高校の内容がベースに授業が行われるので、なかなかついていくのが大変です。そこで、スタディサプリを使って自分の戻りたい学年まで戻って1年間必死に勉強したそうです。

 この例にあるように、大学で学びたいと思った瞬間にすべての生徒がその学年に相応の学力を身につけているとは限りません。生徒の学力に応じて、中学まで戻る必要がある人も、小学まで戻る必要がある人もいるわけです。今後、このような活用シーンがどんどん増えればと願っています。

――スタディサプリの前身となるサービスに大学受験向けの「受験サプリ」があったと思いますが、なぜ対象を拡大してサービスを統合したのでしょうか。

西山氏:確かに、受験サプリは大学進学を目指す受験生向けにサービスを展開してきましたが、実際にはユーザーは必ずしも受験生だけではないという実態がわかってきました。であれば、「受験」に特化せずに「学ぶ」こと全般を支援するサービスという形にリブランドするべきではないかという考えになりました。

スタディサプリはなぜ、学校から支持されているのか

――これまでの利用実績を教えてください。

西山氏:スタディサプリとスタディサプリEnglishを合わせた累計ユーザー数は、2015年度で約25万人、2016年度で約42万人、2017年度で約64万人と堅調に増加しています。スタディサプリは学校単位の契約でもサービスを提供していますが、現在は約2000校の高校で導入されています。公立高校の場合は、自治体の教育委員会が導入の意思決定をしますので、中には自治体単位で導入いただいているケースもあります。ユーザー数に占める個人利用と学校利用の割合は半々という状況です。

 私たちとしては、さらに多くの生徒に利用してほしいと考えていますが、コンテンツに登場する先生たちからは、この短期間でこれだけの規模の受講者を集めている教育サービスは過去にないという評価をいただいていますね。

 ユーザーの中には通塾しながらスタディサプリを使っている方もいますが、そのような方は教科によって塾をメインにするかスタディサプリをメインにするかを決めていたり、特定の先生の授業だけをスタディサプリで学んでいたりするというケースもあります。予備校の講座をひとつだけ受講して、空き時間に予備校の自習室でスタディサプリを学ぶ人もいます。個人の勉強法にあわせてどんどん活用法をカスタマイズしているのが印象的ですね。


――他のEラーニング事業者の中からは、学校へのサービス提供はハードルが高いという意見も聞かれます。なぜ、スタディサプリは学校単位でのサービス利用を拡大できているのでしょうか。

西山氏:ひとつは、導入コストの安さが挙げられると思います。受験サプリのサービスを開始した際に、テレビCMを展開したのですが、その結果10校ほどから「このサービスは学校で使えないのか」という問合せをいただきました。当初は学校が契約することは全く想定しておらず、むしろ「リクルートは教育をナメているのか」と怒られるのではという不安さえ持っていました。

 しかし、実際に学校の声を聞いてみると、その学校は偏差値が中程度で生徒の進路が多様なケースが多い。有名大学への進学を目指す生徒もいれば、専門学校を目指す生徒も多く、基礎学力にも大きな差があるわけです。こうした状況で、学校側は“誰を基準に授業を展開すべきか”という難しい判断を迫られていました。すべての生徒が今までの学習範囲をすべて理解しているわけではないという中で、生徒のレベルにあわせて過去に振り返って自分に合った学習ができるスタディサプリに注目していただいたのです。その後、さまざまな学校の問合せに対してご意見を伺ったり、こちらから学校に提案したりする中で、学校からのサービスへの期待が高いということがわかり、学校への展開に力を入れるようになりました。

――学校では具体的にどのように活用されているのでしょうか。

西山氏:学校によってさまざまな活用がされていますが、中でも最も多いケースが学校向けに提供している「学力到達度テスト」を軸に学力向上をはかるという活用ですね。この学力到達度テストは、一般的な模試や実力テストのように偏差値を出すものではなく、出題された学習範囲の中で生徒がつまずいているポイントを把握するためのものです。生徒ごとに苦手なポイントは違いますよね。その生徒一人ひとりの苦手なポイントにあわせてスタディサプリのコンテンツを個別に提供して、生徒の苦手を潰していくのです。これを夏休みのような長期休暇の学び直しや、日常的な宿題のひとつとして活用していただいています。中には授業の中で活用している学校もありますが、多くの場合は校外学習の教材として利用しています。

――導入している高校は都市部が多いのでしょうか。

西山氏:全国各地の高校に導入いただいていますね。たとえば、高知県にある離島や山間部では先生による学習サポートが十分にできないという課題に対して、スタディサプリを導入して学習支援をしていくという取り組みを県が主導して行っています。もともとスタディサプリには地域格差、経済格差という教育をめぐる格差を是正しようというビジョンがありましたので、そのビジョンを実現するような導入事例は多いと思います。

――動画コンテンツは、通信への負荷も大きいと思います。離島や山間部では受信が難しい地域もあると思いますが、どのようなチューニングを行っているのでしょうか。

西山氏:最近では離島や山間部でもネット環境はかなり整ってきたと思います。それでも十分な転送速度が確保できないような視聴環境の場合には、こちら側でコンテンツのデータ容量を減らすなど技術的に可能な最適化を行っています。ただ、Twitterなどで受講生の声を聞くと「サプリやりすぎてパケ死した(=通信会社のデータ通信制限が掛かった)」といった声はよく聞かれますね。受講生のデータ通信量を増やさないように、技術的にできる工夫はこれからもしていきたいと考えています。

――月額980円という価格設定ですが、これは保護者にとってはどのように受け止められているのでしょうか。

西山氏:保護者にとっては非常に安価だと思います。たとえば、お子さんを予備校に通わせようとすると、一般的に年間50万円から100万円の教育費が掛かると言われています。しかし、スタディサプリのベーシックなサービスであれば年間1万2000円、パーソナルコーチがつく合格特訓コースでも年間10万円程度です。サービスの認知が高まったことや、有料のネットサービスがさまざまな分野で普及したことなどを背景に、保護者がオンラインサービスにコストを掛けることに対するハードルも下がってきていると思います。

――ビジネスとしては、この価格で十分な利益が生み出せているのでしょうか。

西山氏:収益面ではまだまだという部分はありますが、ビジネスとしてスケールするという勝算があってこのサービスを運営しています。ユーザー数は着実に増えているので、これからビジネスとしても成長していきたいですね。

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