イベント「CNET Japan Live 2018 AI時代の新ビジネスコミュニケーション」では、弁護士で知的財産権問題に詳しい福井健策氏(骨董通り法律事務所 代表パートナー)が講演。「AI・ビッグデータの知的財産権」と題し、人ではなくAI自体が直接コンテンツを生成する時代とどう向き合っていくべきか、さまざまな視点で解説した。
福井氏は、「AIの進化は進んでいるが、創作や発明といった分野は人間の最後の砦。人工知能では簡単に代替できない。ほんの数年前まではそう言われてきた。だが現実は予想をはるかに超える。AIが自動で創出したコンテンツはどんどん増え、普及してきている」 ──こう切り出し、AIによるコンテンツ生成はすでに珍しくないと説明した。
創作の分野は多岐に渡る。福井氏が「一次創作系」に分類したものの中では著名なのは、公立はこだて未来大学の松原仁教授らが進める「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」。作家の星新一(故人)のショートショート作品を分析し、あたかも彼の新作のような作品をAIに作らせる。
音楽分野では、ソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)がビートルズ風の楽曲をAIで作曲した「Daddy's Car」のような例がある。また画像分野では、画家のレンブラントの作風をAIで再現するプロジェクトなどが知られる。
「加工・二次創作系」も充実している。NHKの自動手話システムのほかにも、会社や商品のロゴを生成してくれる「Tailor Brands」などのサービスがある。また、女子高生AIとして知られる「りんな」のように「対話・サポート系」のAIも存在する。
日本経済新聞の「決算サマリー」は、実用化されたAIの代表例だ。企業の決算情報が発表されると、即座にそれを元にした記事をAIがわずか数分で書き上げる。実際に読むと定型的な側面はあるものの、福井氏は「いくら手練れの記者といえど、それだけの時間で間違いのない記事は配信できない。相当なコストダウンになるし、記事を『量産』できる。これまで採算がとれなかった記事、例えば中小企業の決算発表も記事にできるだろう。AIは『知の豊富化』につながる」と評する。
こうやってAIが自動生成した文書は、文脈にゆらぎがないため、自動翻訳との相性も良い。AIが生成した日本語文書を精度良く英語に翻訳できれば、さらにその他言語へ容易に翻訳できる。「つまり、AIで低コストで作った記事は、数十カ国語で簡単に配信できる。これは相当なインパクト。これだと確かに、新人記者の仕事がAIによって代替される可能性はあるかもしれない」(福井氏)
自動作曲の分野では、作曲家にしてプログラマーというデビット・コープ氏が作り上げた「Emmy」が有名だ。Emmyはバッハの楽曲を学習済みで、バッハ風の楽曲を次々と作ってくれる。真偽不明ながら「ランチを食べている間に5000曲」というエピソードも知られており、その作曲スピードは人間をはるかに超える。
ネット上で自由に使える自動作曲システムとしては、明治大学の嵯峨山茂樹教授らが開発した「Orpheus」がある。余談ながら、福井氏の人生初の作曲はこのOrpheusを使ったもので、曲名は『著作権の歌』だという。
海外では「Jukedeck」というサービスがよく知られている。作成された楽曲は50万曲、Jukedeckで作成した楽曲をBGMとするYouTube動画は再生回数3000万回を超えるという。「AIの強みはこの物量。30秒に1曲作れ、コンピューターは疲れを知らない。フル稼働すれば1年で105万曲作れる計算だ。JASRACが管理している全世界のプロの楽曲の3割にあたる曲が、1台のサーバーを1年動かすだけで作れてしまう」(福井氏)
「AI創作」と聞くと、多くの人が「素晴らしい作品ができるかどうか」を考えてしまう。しかし福井氏は「ゴッホのような絵画、宮澤賢治のような小説といったハイエンドな領域ではなく、恐らくはミドルレンジくらいのところ(前述のサービスで作れるレベルのコンテンツ)からAIは広がっていくはずだ」という。
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