インヴァランスが仕掛ける不動産新時代の中身--「AIマンション」4月に分譲スタート

 「CNET Japan Live 2018 AI時代の新ビジネスコミュニケーション」の2日目、インヴァランス 代表取締役の小暮学氏による講演が開催された。「“AI×住宅”が実現するスマートホームのその先--住民の行動を学ぶ家」と題し、分譲物件としては世界初という「AIマンション」のあらましと、その魅力を解説した。

不動産投資は「ハードウェア」から「ソフトウェア」へ

インヴァランス 代表取締役 小暮学氏
インヴァランス 代表取締役 小暮学氏

 インヴァランスは2004年設立。投資用不動産物件の開発を主な事業としている。一般的に不動産と言えば、その価値を最大化するため、ハードウェアへの投資が行われてきた。玄関前に立派な石を置く、キッチンを豪華にするといった具合だ。

 ただ小暮氏は、こういったハードウェアの充実を大前提としながらも、居住者に対してさらなる付加価値を提供できる不動産が今後求められるのではないか、と展望する。「その家に住むだけで、楽しかったり、健康になったり、高齢者でも安心できる。そういった『住むことによる経験・体験』を意識することが、新しい不動産開発の在り方だと考えている」(小暮氏)

 人生において家での生活は60%を占めるとされ、その比重は極めて高い、一方で、間取り・家族構成・気候条件は各世帯によって違う。1つとして同じ家がないとも言える現状にも関わらず、果たしてハードウェアの質向上だけを目指すのか。スマートフォンが人々の生活を変えたように、不動産にもパラダイムシフト──つまりソフトウェアを重視する時代がくると小暮氏は語る。

「IoTマンション」の先の「AIマンション」

 インヴァランスではその手始めとして、2016年12月からIoTサービス「alyssa.(アリッサ)」を開始した。いわゆるスマートホーム的なサービスとなっており、外出先からのエアコン、照明の管理などを実現。取扱物件の一部にてすでに導入されている。

IoTサービス「alyssa.(アリッサ)」の概要
IoTサービス「alyssa.(アリッサ)」の概要

 不動産物件の開発にあたっては、建築基準法や消防法、区ごとの条例など遵守すべき項目が多く、IoTのような社会的に新しい機能・サービスを導入するハードルは高い。「例えばガス給湯器。日本の法律上、ガス機器は無線での制御が原則としてできない。そこで日本独自のJEM-A端子を使うことになるのだが、JEM-A端末機器とインターフェースの接続距離は、1.9mと規定されている。そういった諸条件をきちんとクリアして、alyssa.をローンチできた」(小暮氏)

 alyssa.は開始から約1年が経ち、約600世帯で利用されているが、専用アプリのMAU(Monthly Active Users)率は92%と非常に高く、小暮氏も手応えを感じているという。

 こうして「家のスイッチをスマホのアプリにまとめる」ことは成功したわけだが、インヴァランスではさらに「スイッチを自動にできないか」と考えるに至った。

 ただし考慮すべき事は多い。一口に「室温が20度」と言っても、それは真夏、真冬でまったく意味が異なる。また、部屋を明るくするには、照明をオンにするだけでなく、カーテンを開ける方法もある。部屋を涼しくする、明るくするという簡単な行為にみえても、それを実現するには複雑なパターンを組み合わせなければならない。そこでAIの出番となる訳だ。

IoTを自動制御するために「AI」が求められるように
IoTを自動制御するために「AI」が求められるように

米Brain of Thingsの「CASPAR」を日本でも

 AI導入にあたって外部企業との連携を模索する中、最終的に選んだのが米ベンチャー企業「Brain of Things(BoT)」への出資だ。「恐らく現状では世界で唯一、住宅用AIをプロダクトとして世の中にリリースしている企業」(小暮氏)という。同社の設立メンバーには、世界的な富豪のデビッド・チェリトン氏が名を連ねる。氏はスタンフォード大学の教授でもあり、教え子で後にGoogleの創業者となるラリー・ペイジ氏、セルゲイ・ブリン氏を最初に見出した人物とされる。

米国のBrain of Thingsに出資。同社のサービス「CASPAR」の日本展開を図る
米国のBrain of Thingsに出資。同社のサービス「CASPAR」の日本展開を図る

 このBoTが手がけるのが、AIスマートハウスの「CASPAR」だ。米国ではすでに約300の賃貸物件に導入されているという。インヴァランスは、このCASPARの日本展開を目指しており、都内5カ所で実証実験中である。

 CASPARではまずセンサで居住者や部屋の状態を検知する。使われるセンサはビジュアル、紫外線、音(マイク)、振動、温度、湿度、照度、モーションなどで、さらに室内にあるスイッチの利用状況などもモニタリングする。「部屋の大きさにもよるが、約80個のセンサを室内につけている」(小暮氏)

 センサから集められるデータは、1日だけでも約2Tバイトに上る。これには「風でカーテンが動いた」といったデータも含まれるため、ノイズ的な要素を除いた全体の約5%をディープラーニングに活用する。

 家の中で人間が実際にとる行動はおよそ100種類とされる。対してその行動をとりまく周辺環境は、晴れなのか雨なのか、夏なのか冬なのか、朝なのか夜なのかといった要因を積み重ねると3200万種類にも上るという。「つまりCASPARは、100×3200万=32億種類のアクションの中から、最適なものを1つ選んでくれる」(小暮氏)

 さらにCASPARは、居住者の好みやクセを学習する機能も備える。「CASPARおはよう」と話しかけた際、最初の段階ではカーテンを自動で全開にし、照明は最も明るい設定になる。しかし、その挙動に対して居住者側が手動でカーテンを半開、照明を25%にするなどの操作をとると、3~4日で「CASPARおはよう」の発話時の設定が調整されるという。

ユーザーの好みもAIが自動学習してくれる
ユーザーの好みもAIが自動学習してくれる

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]