日本と「米中とのFinTechの違い」--日銀がデジタル通貨を発行する可能性は - (page 3)

日本のFinTechは、これからどうなる?

 河合氏は日本の金融ビジネスについて、生活サービス全般がデジタル化されていない現状、現金を好む文化や銀行サービスの高い利便性、小売事業者向けデジタル決済導入コストの高さなどを挙げ、“現金LOVE社会”だと指摘。「これを指して日本はFinTechが遅れているという。日本銀行は仮想通貨をやらないのかという。しかし、現金には手渡しによって価値が不可逆的に移転する点などの良さがあり、現金があることにはちゃんと理由がある」と説明。FinTechを巡る日本の現状を“遅れている”と捉えるのか、“需要がない”と捉えるのかについては慎重に考える必要を提言した。

 加えて、日本の金融ビジネスを巡って河合氏は、金融機関とシステムインテグレータが強力であるという現状を指摘。FinTechベンチャーや非金融サービス事業者にとって金融機関の存在が非常に大きいことで、参入に高い壁がある現状を挙げ、金融機関のエコシステムが生み出した巨大なレガシー(システムや人材)にどう対応するかという課題があると、日本の事情を紹介した。


金融機関とSIerが強い力を持つ現在の金融エコシステム

日本におけるFinTechの現状

 その上で河合氏は「人口減少を背景に、FinTechは取り組まなければならない大きなテーマになる。金融インフラの合理化、外国人や若者層による決済の取込み、企業の生産性の向上にはテクノロジは不可欠。そういう意味でFinTechは必然であるし、日本の現状は遅れていると言えるかもしれない」と提言。そして、FinTechによる金融サービスのデジタル化は、「デジタル化ありきではなく、利用者が望むデジタル化を考えなくてはならない」と語り、画像処理や人工知能を活用した経理処理や、家計簿処理の自動化による業務効率化、データに基づく経営戦略の構築、取引データやサプライチェーンに基づく信用取引の実現、商取引・事務・金融の統合プラットフォーム化など、デジタル化による社会的価値の創出を例示した。

 「とにかく、顧客需要は何かを考えて、使えるFinTechを生み出していかなければならない。FinTechはテクノロジ・ファーストで考える人が本当に多い。“FinTechが流行っているから何かをしたい”、“仮想通貨のトレンドに対して中央銀行は対応しないのか”。そうではない。人々の将来に何が必要なのかを考えなければ、テクノロジを生かすことはできない。中国はそれを考えた結果、いまのFinTech社会を生み出している」(河合氏)。

 そして、河合氏はFinTech導入の視点として、顧客目線に立つこと、業務プロセスやシステム設計・開発の手法を抜本的に見直すこと、オープンイノベーションを推進すること、リスク管理を強化すること、ビッグデータを活用してサービス向上と管理強化を推進すること、古くからある資産への対応などを挙げた。「FinTechの面白いところは、変化が金融業界にとどまらないところ。ビッグデータを軸にして新しい金融取引の創出だけでなく、非金融分野とのデータ連携、業務効率化、海外との連携など、さまざまなものと繋がり価値を生み出していくのではないか」(河合氏)。


顧客需要からFinTechを考えることが重要

FinTechを導入するにあたって留意すべき点

 講演の最後に、河合氏は「日本銀行はデジタル通貨を発行しないのか」という世の中の疑問に対して自身の考えを述べた。「私は、現状では、日本銀行によるデジタル通貨の発行には否定的だ。なぜならば、コスト対比で考えたとき、デジタル通貨の下での決済システムの運営では、セキュリティ確保のために莫大なコストが必要になるかもしれない。しかも、そのコストの原資は国民の税金になる可能性が高い。そこまでしてでも、世の中は本当に日本銀行のデジタル通貨を欲しいのか。それを慎重に考えるべきだし、今はその段階にはないと考えている」(河合氏)。

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