選ばれし企業はわずか2.5%--世界最大の起業家支援ネットワーク「エンデバー」

 ビジネスの成功やテクノロジの発展を目指し、世界中で日々生まれているスタートアップ企業。主にIT分野においては、そうした起業家の最初の一歩、あるいは事業拡大の下支えを、これまでエンジェル投資家やベンチャーキャピタルなどが担ってきた一面がある。起業家側も、そうした支援を目標の1つに置いている部分があったと言えるかもしれない。

 しかし、今後はそれとは全く異なる支援の受け方が、起業家の目標に加わりそうだ。「世界最大の起業家支援ネットワーク」を持つという非営利組織のEndeavor Global。その日本法人として、2017年3月から国内で活動しているエンデバー・ジャパンが、いよいよ起業家へのサポートを本格化する。この1年は、ある意味“種まき”の時期だったが、次のステップへと動き始めた。


一般財団法人エンデバー・ジャパン Managing Directorの眞鍋亮子氏

わずか2.5%の狭き門--過酷な選考会

 日本ではあまり聞き慣れないエンデバーだが、Endeavor Globalは21年前の1997年、ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)を支援する世界的組織アショカ出身のリンダ・ロッテンバーグ氏によって設立された。発展途上国などでは、優れた発想や技術があり、起業家精神もありながら、必要となる資金も情報も、そのためのヘルプも得られない環境にいるがために、起業に至らない例が少なくない。そのことに気付いた同氏が、起業家を支援するのはもちろんのこと、その支援のつながりを循環させていく「起業家のエコシステム」を実現するために立ち上げた。

 Endeavor Globalの大きな特徴の1つは、「起業家支援ネットワーク」と銘打つ通り、世界中に広がる人的ネットワークにある。2017年3月時点の活動拠点は、日本を含む世界27カ国30カ所。別の企業・組織に在籍しながら起業家支援に助力を惜しまない約500人のボードメンバーと、3000人以上のメンターが所属し、資金調達援助やメンタリングによって起業家を全面的にバックアップする体制をとっている。たとえば、現在のボードメンバーの中には、ワーナー・ミュージックグループのCEOやLinkedInのチェアマン、米AmazonのシニアVPらが在籍している。


エンデバーに所属する代表的なボードメンバー

 これからビジネスを本格化させようとしている企業にとって、こうした世界的ネットワークの恩恵は計り知れない。国内拠点に限ってみても、起業家がすべきこと、考えるべきこと、企業やビジネスの成長に必要なものなどについて、もともと起業家だったり大企業出身だったりするボードメンバーやメンターらから的確なアドバイスを受けられるのは大きい。また、たとえば他国の市場に参入しようとしたとき、その国の事情を誰よりも深く理解している現地のメンターらによって、参入とその後の成功の確度を高めるために起業家がなすべきこと、協力を仰ぐべき企業などを教えてもらえる。資金調達が必要なときも、どこの誰に、どのように相談するのがベストか、というレベルの直接的で具体的なアドバイスを受けられることも多い。

 他にも、支援対象となった企業は、ハーバード大学、スタンフォード大学などのMBA生をインターンとして紹介してもらえたり、同大学で開かれているリーダーシッププログラムに参加できる権利を得られたりと、人材育成にかかわるサポートが受けられるメリットもある。ただし、エンデバーによる支援の本質は、支援が得られた後だけではなく、それ以前にもある。どんな企業も請えばすぐに支援を受けられる類いのものではなく、事前に審査が設けられているわけだが、その過程があまりにも過酷かつ実践的とされているからだ。

 審査ではまず始めに、エンデバーの各拠点スタッフによる調査や公募などにより支援候補となる起業家が選出され、書類上で初期のスクリーニングにかけられる。1997年から2016年まで、このスクリーニングにかけられたのは約5万件だ。次いで、各拠点のスタッフによる「一次面接」が行われ、ここで半分ほどに減らされる。続く「二次面接」では国内拠点のメンターが担当し、合格者はさらに絞られる。

 二次面接通過者は、国内拠点のボードメンバーとメンター計10人以上による「国内選考会」に諮られる。ここでその国の代表者として選出されれば、ようやく最終段階の「国際選考会」に進むことができる。国際選考会では、グローバルのボードメンバー・メンターからなるパネリスト6名、起業家6名(6社)ずつでグループをつくり、3日間のスケジュールでパネリストと起業家が徹底的に話し合う。


「エンデバー・アントレプレナー」選出に至るまでの選考過程

 最終日、6人による審査で全員から「合格」のお墨付きをもらうことができれば、支援対象起業家「エンデバー・アントレプレナー」として選出される。6人中1人でも反対すれば不合格だ。これまでエンデバー・アントレプレナーに選ばれたのは約900社、率にしておよそ2.5%という狭き門となっている。

求められるのは社会に還元する「起業家精神」の有無

 エンデバー・ジャパンでManaging Directorを務める眞鍋亮子氏は、この選考自体がエンデバーの起業家支援の一環であり、他にはない特徴にもなっていると話す。途中段階の面接からほとんどメンタリングに近い話し合いが行われ、国内選考会に至っては、その国の名だたる起業家、業界のキーマンらから直接アドバイスを受けたり、意見を交わしたりする。もし選出には至らなくても選考過程で“揉まれる”ことで、起業家としても、ビジネスとしても成長できる可能性が高い。

 では、最後の国際選考会まで残り、エンデバー・アントレプレナーに選出される起業家は、どういった資質を備えているのが望ましいのだろうか。選考会ではいくつか焦点となる審査項目があり、たとえば手がけているビジネスのスケーラビリティや、サービス・テクノロジがイノベーティブであるか、といった「ビジネスモデル」が1つ。ビジネスがインフレクション・ポイント(次の成長段階に進む変化点)にあると言えるか、エンデバーが関わることでより大きく成長できる可能性があるか、といった「タイミング」も重要となる。しかし同社が最も重視するのは、その人に「起業家精神があるかどうか」だ。

 すでに述べたように、エンデバーの目標は「起業家のエコシステム」の実現だ。これは単純に新たな起業家を次々に生み出していく、という意味ではない。エンデバーが支援した起業家が成長し、成功した暁には、次の起業家を支援する立場になって社会的に還元していき、起業家支援ネットワークをさらに拡大させる、というのが同社の望む「エコシステム」のあり方だ。

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