ものづくりゲーム「Minecraft(マインクラフト)」は、子どもたちの間で人気のゲームだ。“自由なものづくり”、“決められたゴールがない”という同ゲームの特性は、教育との親和性も高く、海外の教育者の間では以前から学習への活用も進んでいる。2016年11月には、マイクロソフトから教育版の「Minecraft:Education Edition」もリリースされ、学校の授業でより活用しやすい環境が整った。
一方で、日本の教育機関はというと、Minecraft:Education Editionの導入校は増えているものの、まだまだ実践事例は少ない。そんな中、立命館小学校では約1年をかけてマインクラフトを活用した課題解決型学習を実施した。どのような内容なのか。同校が取り組んだ活動を紹介しよう。
マインクラフトとは、すべてが3Dの立方体で構成された仮想空間の中で、さまざまな種類のブロックを組み立てたり、壊したりしながら、自由なものづくりや探検を楽しめるゲームだ。発売から長い年月が経った今でも、世界的な人気を誇っており、PC版、スマートフォン版、ゲーム専用機など、すべてのバージョンを合わせた売上本数は1億4400万本(2018年1月時点)を突破。2017年12月の月間アクティブユーザー数は過去最高の7400万人を記録したと報じられた。
そもそも、なぜ子どもたちはマインクラフトに夢中になるのか。一番の魅力は、ワールドの中で「自由なものづくり」と「自由な行動」ができることだ。他のゲームのように、得点を競い合ったり、制限時間内にステージをクリアしたりといった、あらかじめ決められたゴールはマインクラフトにはなく、ブロックで建物や道具を作ったり、ワールドの中を探検したりしながら遊ぶ。つまり、自分の思うままに、考えたことやイメージしたことを表現する遊びが可能なツールなのだ。
それだけではない。子どもたちがマインクラフトにハマる理由は、マルチプレイの面白さだ。通信機能を使って友だちとつながり、ひとつのワールドに同時にアクセスして一緒に何かを作ったり、冒険したりするのは、一人のときより楽しい。当然、子ども同士のコミュニケーションやコラボレーションも活発になることから、海外の教育者の間では、21世紀型スキルを育むツールとしてマインクラフトを学習に生かす者も多いのだ。
なかでも、答えのない問題に取り組む「課題解決型学習」にマインクラフトを用いる事例は多い。一例として、自分たちの学校の校舎をクラス全員で共同建築したり、サステナブルな街をマインクラフトで再現したりするといった授業事例がそうだ。
このように教育的なメリットが多いマインクラフトだが、2016年11月に教育機関を対象にしたMinecraft:Education Editionがリリースされた。教育版のマインクラフトには、先生用アカウントや、作った建造物をカメラで撮影して保存できるポートフォリオ機能などが盛り込まれている。また、プログラミング環境「Code Builder」を使えば、マインクラフトでプログラミング学習も可能だ。
立命館小学校では、このMinecraft:Education EditionやCode Builderを用いて課題解決型学習を実施した。同校は以前から、Surfaceタブレットを導入し、5〜6年生全員に対して1人1台で活用するなど、先進的な取り組みを実践している先進校だ。
立命館小学校の6年生向けに行われた課題解決型学習のテーマは、「立命館小学校の地元、京都の観光名所を案内しよう」だ。グループで協力しながら、マインクラフトのワールドの中に地元の歴史建造物をつくり、エージェントと呼ばれるキャラクターにその中を案内させるプログラムを組み立てる。観光名所の事前調査、建造物の設計や制作、案内するキャラクターのプログラミングなど、各プロセスをグループで計画し、進めていく形だ。
こうした課題を取り上げた背景はなにか。これについて立命館小学校のICT教育部長 正頭英和教諭は、「子どもたちの方から“もっと世界の人たちに京都を知ってほしい”という声があがった。そのためにどうすればいいか。ひとつの手段として、マインクラフトで京都観光を疑似体験できれば、京都に来たくても来られない海外の子どもたちに興味を持ってもらえるのでないかと考えた」と語る。
そのため、“マインクラフトで歴史建造物を作って終わり”ではなく、最終的にはインド、アメリカ、マレーシアの小学校に作った作品を送り、現地の子どもたちが実際に体験した感想をフィードバックしてもらって修正作業に生かすという徹底ぶりだ。もちろん、海外の小学校とのコミュニケーションは英語で行う。
正頭教諭は、今回の課題解決型学習の狙いについて、「プログラミングを体験する」「トライ&エラーの姿勢を身につける」「個人の働きと周りの協力どちらも大事であることを認識する」という3点を挙げた。立命館小学校では、こうした正解がひとつとは限らない課題解決型学習に年間を通して取り組むことで、21世紀型スキルの育成をめざす。座学で教師から知識を学ぶ授業とは大きく異なるスタイルだ。
最初の学習は、社会の時間を利用して「京都の歴史を知ろう」という内容から始まった。歴史に関する情報を集め、その後、実際に京都の観光名所を訪れた。その際に、外国人の観光客に英語でインタビューし、どのような場所を訪れているのか、どのような観光ガイドが必要であるかを調査した。その結果、(1)清水寺、(2)金閣寺、(3)二条城、(4)平等院鳳凰堂、(5)伏見稲荷、(6)立命館小学校、の6カ所をマインクラフトの中で制作することが決まった。
その後は、歴史建造物をマインクラフトで再現するための設計図を作成したり、マルチプレイでひとつのワールドに入り、協同で建造物を制作したりした。正頭教諭は「最初は設計図なしで制作を開始させた。すると、子どもたち同士で建物の具体的なイメージが共有できていなかったため、『設計図が必要だよね』ということに気付かせるように導いた」と話す。子どもたち自身が目の前の課題をどのように解決していくかが、課題解決型学習の肝だ。
続いて、歴史建造物を作った後は、Code Builderを用いて、エージェントが観光ガイドをできるようにプログラミングした。どういう経路で案内すれば、歴史建造物の良さが伝わるかなど、観光のポイントを考えながら、エージェントに動きと英語のセリフをつけ加える。もちろん、こうした作業もグループで話し合いながら行い、ひとつの作品としてまとめていった。
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