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ドコモから米VCに転身し「オープンイノベーション」に挑む--トランスリンク秋元氏

藤井涼 (編集部) 井口裕右2018年02月12日 08時00分
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 これまで、NTTドコモ・ベンチャーズの副社長として数多くのスタートアップ企業の支援や新ビジネスの立ち上げに尽力してきた秋元信行氏が、2017年7月に米国シリコンバレーに拠点を置くトランスリンク・キャピタルのマネージングパートナーに就任した。

 新天地でのスタートから半年、すでに国内外のさまざまなプロジェクトに携わっている同氏は、世界の新興産業やスタートアップ企業の動向にどのような気づきを得てきたのだろうか。


米トランスリンク・キャピタルのマネージングパートナーの秋元信行氏

理想とするオープンイノベーションを追求したい

ーー改めて、なぜ長年在籍してきたドコモを離れて、ベンチャーキャピタル(VC)へと転職したのでしょうか。

 一番大きい理由は、日本でも活況なオープンイノベーションについて今までは事業会社の立場で携わってきましたが、このムーブメントを日本に根づかせるためにいろいろと模索をする中で、私にとってベストな形を実現するためには、事業会社の中にいるではなく、より広い視野で活動できる独立系VCの立場から事業会社を支援したほうがいいのではないかという結論に達したことです。そのため、ドコモを卒業して違うステージを求めて転職をしました。

 もうひとつの理由は、年齢的な理由もあり、キャリアチェンジするには今がラストチャンスではないかと。そういうタイミングでトランスリンクから話をいただいたのも、何かの縁なのではないかと感じています。

ーートランスリンクとはドコモ時代からつながりがあったのでしょうか。

 そうですね。私が米国でドコモ・キャピタルの代表に就任した翌年の2006年に、彼らがトランスリンクを立ち上げて、その頃からいろいろと交流していました。その縁もあって、トランスリンクの会社設立以来、近い関係でコミュニケーションを継続して、ドコモベンチャーズとトランスリンクで共同投資するようなビジネスも展開していました。もちろん、そのときには今のような形になるとは思ってもいませんでしたが(笑)。

ーー数多くあるVCの中で、トランスリンクを選んだ決め手は何でしょうか。

 トランスリンクは会社設立当時の2006年から、事業会社の戦略的なベンチャー投資を積極的に支援しながら、ファンドとしてのパフォーマンスを追求してきたというのが大きなポイントですね。こうしたモデルを支援の「Day1(スタート段階)」から行っているのです。今でこそ、事業会社の戦略的リターンに寄り添う形でビジネスを行うVCは多いですが、2006年当時はそんなことをいうVCは皆無だったと言えるでしょう。トランスリンクはそんな時代から今までの間、一貫して同じ姿勢で事業会社を支援してきました。

 加えて、私を含めてリードメンバーはみなアジアのCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の米国側の責任者でした。事業会社のベンチャー投資を支援するという姿勢にはしっかりとしたバックグラウンドがあり、ベンチャー投資をする事業会社の実情を十分に理解して支援ができるチームである点も、大きなポイントだったと思います。

ーーいま、トランスリンクの中でどのような役割を担っているのでしょうか。

 私は日本におけるトランスリンクのマネージングパートナーとして、主に日本からファンド投資していただいているLP(投資家、この場合は事業会社)に対してトランスリンクがソーシングしてきたベンチャー企業を紹介したり、事業提携の支援をしています。また、2017年にはSOMPOホールディングスと共同で、自動車の自動運転技術やIoT領域の技術を対象としたCVCファンドを立ち上げており、その運営も行っています。投資対象は全世界のベンチャー企業なので、シリコンバレーに行くのはもちろん、その他のエリアにも積極的に足を運んでいます。

ーートランスリンクのこれまでの投資実績はいかがでしょうか。

 これまでの10年で126社の事業会社にベンチャー企業を紹介させてもらい、その約半数が具体的な契約締結に至っています。また投資先ポートフォリオの98%は私たちが紹介した事業会社と何かしらの契約締結に至っています。加えて、その半数の投資先に対しては事業会社からの直接投資も発生しています。つまり、それだけ重要なパートナーシップが築けているということです。

 紹介するベンチャー企業については、LPである事業会社の興味関心によるところが大きいですが、最近の日本国内ではFinTech、IoT、インシュアテック(保険+IT)、ヘルスケアの領域が大きいですね。これまでトランスリンクでは日本のベンチャー企業には投資をしていないのですが、今後は積極的に投資していきたいという構想は持っています。ただ、私たちは国内の他のVCとは違い、シリコンバレーや東アジアに大きなネットワークを持っているという強みがありますので、世界への展開を前提に事業展開している国内のベンチャー企業を支援していきたいと考えています。

VCの現場で感じる、中国ベンチャー市場の「本気」

ーーこれまでの活動の中で、日本と海外のベンチャー投資でどのような違いを感じていますか。

 シリコンバレーや東アジアにおけるトランスリンクの活動を通じて見えてきている範囲でお話をさせてもらうと、最近急増しているのは中国関連の投資案件です。シリコンバレーに本社がありR&D部門が中国にあるケースも、中国に本社があり他国に展開しているケースも両方ありますが、中国に拠点を置くベンチャー企業の数は非常に増えているのではないかと感じています。

 中でも、電気自動車や自動運転に関連してその基礎にあたる部品などの技術を開発するベンチャー企業が非常に増えています。すでにメディアなどでも報じられていますが、中国は電気自動車の時代が到来したときに世界のイニシアチブを取るべく、国を挙げてこの領域に取り組んでいると言われていますよね。それを実際の投資の現場で見聞きすると、政府の後押しが着実に形になりつつあるということを実感します。

ーー中国はモバイルペイメントの領域をはじめ、新しい技術やビジネスの推進に積極的ですよね。

 日本と中国を比較すると、そもそもゲーム(戦い方)の構造が違いますよね。これは私が北京に行ってトランスリンクのアドバイザーになっている方と話しているときに言われたことなのですが、彼は、ベンチャー企業の価値基準になるのは、人、ビジネスモデル、コアテクノロジといった一般的なものに加えて、中国では「キャッシュ」だというのです。そのキャッシュというのも日本のベンチャーが考えるレベルとはかけ離れている規模で、数百億という単位になるわけです。


 そして、そうした競争に耐えられる資金調達を実現したベンチャー企業は、そのスケールメリットを生かして、競合他社を価格優位性で徹底的に排除して自社のビジネスモデルを時間を掛けて構築していくというのです。頭では理解できていたのですが、たとえば中国の自転車シェアリングの市場を見てみると数多くあったベンチャー企業が淘汰されて、現在は2社ほどでシェアの8割を取る状況なってしまっている。そういう日本からは想像できないビジネスをしているのです。

 加えて、中国では国が主導してイノベーションのためにさまざまな手当を驚くようなスケールで実施することができ、新しい技術を実現するための高速PDCAを桁違いのスピードで行うことができるわけです。新しいビジネスを発展させるためには税制面の優遇や規制緩和などにも積極的です。そうした国の体力を肌で感じると、新しい産業で世界一を取るというスローガンは嘘ではないのではないかと感じますね。

 こうした現状は日本と単純に比較できるものではありませんが、中国のベンチャー市場はシリコンバレーをも意識して彼らに競争で勝ち、あるいは彼らを取り込んで成長しようとしている。日本はシリコンバレーだけでなく、中国市場の動向にも注視していく必要があるでしょう。

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