実は、オープンイノベーションのスキームはすべて異なっています。なので、日本とシリコンバレーの違いというよりも、すべての事業会社で異なるのではないでしょうか。シリコンバレーがいつでも正解ということはありませんし、人材の流動性が大きく異なる中で、シリコンバレーの成功モデルを日本にそのまま持ち込んで成功するとも思えません。
たとえば、シリコンバレーでは、入社したての人材がCVCの責任者をやり、その半年後には事業会社の本体と話をつけてベンチャー企業との協業を実現する。そもそも人が入れ替わることを前提とした社内の構造や社風が出来上がっているのです。これを日本でやるとどうなるか。外からファンドに明るい人材を雇ってCVCを任せて、事業部門の責任者と交渉しようものなら、まずなかなか入りにくいわけです。こうした風土の違いがあることから、CVCは日米で比較するのではなく企業ごとに比較した方が良いでしょう。シリコンバレーだけでなく、日本のCVCでも参考になるケースは多いと思います。
ーー今後、注目していきたい領域はどこでしょうか。
まずは、自動車産業の未来をはじめ、世界的に注目が高まっている次世代のモビリティですね。そして安心・安全の究極の形として「One to One」のサービスの実現にも注目しています。これから、薬、医療、保険などは、すべてが利用者ひとり一人にパーソナライズされた形で提供される世界がやってくると思っています。決して簡単なことではありませんが、人工知能、機械学習、ビッグデータといった技術は、すべてそこに帰結するのではないかと思います。現時点で、目指す世界に向けてどのようなステージにいるのかという点は、今後見極めていきたいと思います。
私個人としては、早く人と通信が直接つながる時代が来ないかと期待しています。スマートフォンやウェアラブルではなく、人が直接インターネットと常時接続する時代です。どのみち個人のデータをサービスに使うのであれば、自分自身のあらゆるデータを提供して、完全にパーソナライズされたオンリーワンのサービスがほしいわけです。もちろん制度上の難しさなどはありますが、今後はインプランタブル(人体埋込み型)の通信機器が実現するのではないかと期待しています。
ーー2017年、ベンチャー投資の分野ではICO投資(Initial Coin Offering:仮想通貨による資金調達)に注目が集まりました。海外では規制している国もありますが、ICOをどう捉えていますか。また、その中でVCの役割は変わっていくのでしょうか。
日本のように「ICOもひとつの選択肢」と認めている国はまだ少ないのではないでしょうか。私はICOについて否定はしません。資金調達にはいろいろな方法がありますが、ICOはその中でひとつのイノベーションだと思うのです。イノベーションが生まれるときに軋轢が生まれるのは当然のことで、ものごとの在り方に変革が生まれることは然るべきこと。ICOはそのひとつだと思います。もちろん、今後は違う方法が生まれたり、ICOそのものが進化すると思います。今後は、ベンチャーキャピタル自身も変わっていかなければならないのかもしれません。資金調達手段の変化に対して、私たちも当事者としてアンテナを高くしていく必要があると言えるでしょう。
ただ、VCの強みはベンチャー企業の経営やビジネス推進を支援することを通じて一緒に走るという点であり、この点はICOには絶対にできないこと。今後資金調達の選択肢が多様化する中で、こうしたVCの価値が際立つことになればいいのではないかと思います。
ーー最後に、今後の活動に向けた抱負を聞かせてください。
私自身、2017年はオープンイノベーションの理想像を抱えてトランスリンクへとやってきました。2018年にその理想をどこまで形にできるかはまだわかりませんが、近い将来、事業会社によるオープンイノベーションのモデルケースを作りたいと思っています。オープンイノベーションを巡っては成功事例も失敗事例も数多くあると思いますが、「オープンイノベーションといえば、あの事例だよね」と誰もが口を揃えるような事例はまだ生まれていないのではないでしょうか。その実現に向けて、まずは昨年立ち上がったSOMPOホールディングスとの取り組みに全力で臨みたいと思います。
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