オーディオ&ビジュアル評論家麻倉怜士氏が、注目機器やジャンルについて語る連載「麻倉怜士の新デジタル時評」。第1回目は、1月に米国ラスベガスで開催した「CES 2018」で見つけたビジュアル機器について聞いた。自動運転車やAIスピーカといった“新技術”が数多く出展されていたが、麻倉氏は「今回ほどディスプレイ革命を強く感じた年はなかった」という。CES取材歴20年の麻倉氏が「テレビの新しい展開」として注目する、革命的なディスプレイモデルとは。
SD解像度からHD、4K、8Kと高解像度化を遂げているテレビだが、形自体はブラウン管テレビが薄型テレビに切り替わった時を最後に、大きな変化はなかった。テレビの究極の形は、見ない時は折りたたんで小さくでき、見る時に大きく広げられるもの。折りたためるテレビは今までも何度か研究開発などで発表されてきたが、実用化できるとは誰も信じなかった領域だ。
この究極のテレビの形をLGディスプレイが「ローラブルテレビ」として披露した。長方形のボックスの中から、ディスプレイが直立しながら現れ、最大65型のテレビになる。これまでは18型が試作機として登場していたが、今回はテレビサイズとして十分な65型になった。
ローラブルテレビの凄さは、ごく薄いガラスを使用し、巻き取れる形状ながら、黒が沈む、色再現性が高いといった有機ELの特長が見事に反映されていること。高画質かつ巻き上げることで“消えるテレビ”を実現している。
画面は3段階に変化し、第1段階はニュースや天気などが表示できる情報ディスプレイ、第2段階は画面のサイズが21対9のシネスコサイズ、第3段階が16対9の65型になる。ローラブルテレビはこれまでの常識をガラっと変えてしまう全く新しいテレビの登場だ。これを革命と言わず何を革命と言うか、と思わせるほどのインパクトがあるテレビだった。
ローラブルテレビで衝撃を受けたLGの2つ目の注目ディスプレイは、88型の有機EL 8Kテレビだ。日本では12月に8K放送がスタートするが、テレビメーカーで現在8Kモデルをラインアップしているのは液晶テレビのシャープのみ。有機ELによる8Kテレビの動向は注目されていた。
とにかく画質がすばらしい。8Kの良さは何と言っても高解像度だが、テレビの解像度はSD解像度からHD、4K、8Kと進化するに従い、SDからHDに変化した時のような驚きは、正直感じづらくなっている。私は解像度による驚きの変化を「ありがたみカーブ」と表現しているが、そのカーブが跳ね上がるのではなく、寝てしまっているのが昨今の状況だ。しかしLGの8K有機ELテレビでは、そのありがたみカーブが大きく跳ね上がった。
その理由は、解像度とともにコントラストにもメスを入れている点。解像度が上がると、細かい部分の情報量も上がり、その1つ1つにコントラストを付けることで、精細感が増す。
LGではこの8Kテレビを近い将来商品化すると私は見ている。有機ELテレビの光の取り出し方向は上に出す「トップエミッション方式」と下に出す「ボトムエミッション方式」があるが、開口率が低下しにくいトップエミッション方式が、セルサイズが小さい8Kテレビには最適と言われている。
しかしLGでは、4Kテレビ同様のボトムエミッション方式を採用。これは量産化を見据えた結果、製造工程が難しく歩留まりの悪いトップエミッション方式よりも、経験値の高いボトムエミッション方式を採用したためであろう。課題は約半分に下がるという透過率対策だが、LGは、液晶時代にもアモルファスから動きの早いIGZOに切り替えた経験があり、無理難題を実現に結び付けられる企業。今回の難題もぜひ切り開いて欲しい。
次世代テレビとして有機ELが注目を集めている中、サムスンでは、マイクロLEDテレビ「The Wall」を発表した。以前ソニーが出展していた「Crystal LED Display」と同様の構造で、ダイレクトにRGB発光するため輝度が高く、最大2000ニッツを実現する。
高輝度の秘密はブラウン管と同じインパルス発光ができること。有機ELや液晶テレビはフレーム単位での発光だが、マイクロLEDは一瞬光って閉じられるため、動画解像感が高く、さらに消費電力は低いと言われる。
今回の146型はブロックを組み合わせることで実現していたが、この方法を使えばあらゆる形のディスプレイを実現でき、ある意味ローラブルディスプレイのような可変性を持たせることも可能だ。
ただコストはかなり高価で、実用には遠い段階と聞く。サムスン以外に台湾メーカーが手がけるという噂もあり、新しいテレビの方向性として期待したい。
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