2017年は元年?--麻倉怜士氏に聞く“有機ELテレビ”にまつわる10の疑問

 2017年は有機ELテレビがいよいよ本格始動しそうだ。年明けそうそうに米ラスベガスで開催した「CES 2017」では、ソニー、パナソニックといった日本メーカーが有機ELテレビをこぞって出品。1月11日には、東芝映像ソリューションが初の有機ELテレビ「4K有機EL REGZA X910」を日本で3月に発売することを発表した。

 遡れば、日本で有機ELテレビが話題になったのは2007年に発売されたソニーの「XEL-1」。11型という小型サイズながら、その画質は現在でも高く評価されている。しかしソニーでは2010年に有機ELテレビの国内販売から撤退することを発表。以来、新製品は発売していない。

ソニーが2007年に発売した11型の有機ELテレビ「XEL-1」。税別価格は19万476円だった
ソニーが2007年に発売した11型の有機ELテレビ「XEL-1」。税別価格は19万476円だった

 市場撤退という厳しい現実を乗り越え、新製品投入を目前に控える日本のテレビ市場。なぜ今有機ELテレビの導入が可能になったのか。液晶テレビとは何が違うのかという基本的なことから、今、テレビを購入するなら何がよいのかという現実問題まで、有機ELテレビに関する気になる10の質問を、有機ELテレビにも造詣が深いAV評論家、麻倉怜士氏に聞いた。

Q1:有機ELテレビとは?

A1: 有機材料が光を通すことで発光する原理を採用したテレビ。バックライトを使用する液晶と異なり、電圧をかけると有機EL自体が光る自発光型で、プラズマなどと同様に黒の沈み込みと、鮮やかな色再現力を持つ。

 1980年代の後半、ブラウン管の次に来るテレビデバイスとして各社が検討したのが、液晶、プラズマ、有機EL。中でも有機ELは明るさ、精細さが際立ち、画質が非常によかった。その時点で未来は有機ELだと確信したが、製造が難しく(Q3に詳細)、プラズマ、液晶が先に商品化された。

Q2:メーカーは違っても使用している有機ELパネルは同じ?

A2:現在、テレビなどに使用できる大型の有機ELパネルを作っているのはLGディスプレイのみ。日本のテレビメーカーもすべてLGのパネルを購入して有機ELテレビを製造している。

 元々有機ELパネルは、ブラウン管テレビの次のデバイスとして注目を集め、サムスンやソニー、パナソニックなども開発に取り組んでいた。ただ、有機材料は水と空気に弱い特性があり、製造過程では、水と空気を完全に遮断した状態で作らなくてはならない。この封止技術が大変難しい。

 その上、パネル基板の後ろには画像表示を駆動するトランジスタが必要で、なおかつ高速駆動が求められる。こういった製造工程の難しさから有機ELパネルの製造を諦めたメーカーは多い。

 日本では、ソニーとパナソニックが最後まで取り組んでおり、これが現在、中小型の有機ELパネル製造を手がける「株式会社JOLED(ジェイオーレッド)」の母体。製造工程が複雑で、かつ大型化できる技術を持っているのがLGディスプレイのみのため、1社独占の形になっている。

Q3:LGディスプレイはなぜ大型の有機ELパネルを作れるのか?

A3:LGディスプレイでは、液晶パネルも手がけていたが、市場が飽和するに従い、次世代ディスプレイの本命と言われていた有機ELパネルに製造をシフト。当初は歩留まりが悪く、パネル自体も大変高価だった。

 製造工程が複雑なことに加え、蒸着方式を採用する有機ELは製造スピードが上がらず量産化に不向き。細かな部分まで含めると、問題点は1000~2000ほどあったが、LGディスプレイは1つずつ粘り強く問題を解決していき、2015年春頃には、歩留まりが当初の10倍程度にまで上昇した。

 有機ELパネルには2つの方式がある。サブピクセルをRGB発光させるやり方と、RGBを積層して白色光にしてバックライト的に使い、色は表面のカラーフィルターで着色するやり方だ。LGディスプレイは10数年前に、前者のRGB発光方式を試したが、あまりに製造が困難なので諦め、白色パネルに方向を転換した。ライバルのサムスン電子はRGBパネルで55型のフルHD有機ELテレビを何とか商品化したが、結局、製造が不可能で撤退。今は液晶だけをテレビで展開している。そのため現在、世界で大型テレビ用の有機ELパネルは、LGディスプレイの白色方式が独占している。

 他社が諦めた大型有機ELパネルを作れた要因はずばり努力、そして技術力。

LGエレクトロニクス・ジャパンでは2015年3月に有機ELテレビ「LG OLED TV(エルジー・オーレッド・テレビ)」を日本市場に導入した
LGエレクトロニクス・ジャパンでは2015年3月に有機ELテレビ「LG OLED TV(エルジー・オーレッド・テレビ)」を日本市場に導入した

Q4:同じパネルを使っていても、テレビメーカーは自らの特色を出せるのか?

A4:パナソニック、ソニー、東芝映像ソリューションと現在発表している3社の有機ELテレビを見たが、その違いは明らか。映像エンジンによって変わる画作り、商品コンセプトを含めたモノ作りは三者三様に仕上がっていて、大変面白い。それは現在のLGディスプレイのパネルの階調の問題にどう対処するかで、暗部の見え方がまるで変わる。

Q5:海外では導入済み。パナソニックの有機ELテレビの実力は?

A4:3社の中でも、長年プラズマテレビに取り組んできたパナソニックは、自発光ディスプレイらしい高画質が特長。プラズマテレビも当初はノイズが多く、階調感に乏しかったが、開発を重ねて高画質化してきた歴史があるだけに、そこで培ったノウハウが有機ELでも存分に生きている。

 すでに、2015年から欧州向けに4K有機ELテレビ「CZ950」シリーズを展開しているパナソニックだが、売れ行きもよく、欧州のパナソニックファンからの評判も上々。今回のCESは第2弾モデルに当たるが、黒の沈み込みが断然よくなり、さらに手を加えてテレビとして磨きこんだ印象だ。

 パネルも前回の曲面型からフラットに変更し、映り込みを排除。同じLGディスプレイのパネルを使っていながら、パナソニックは画質に力を入れたことがよくわかる仕上がりになっている。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]