場所や時間などの遊休資産を、インターネットのプラットフォームを介して個人間で貸し借りしたり、交換したりできる「シェアリングエコノミー」。日本でも、空き部屋や駐車場、衣服などのシェアや、家事・育児の代行、イラスト作成のマッチングなど、幅広い分野でサービスが生まれている。安倍晋三内閣が目指す「一億総活躍社会」や地方創生を実現すべく、政府もシェアリングエコノミーの普及に前向きだ。
内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室内に設置された「シェアリングエコノミー促進室」の参事官補佐である岩坪慶哲氏に、同組織の活動内容や今後の展望を聞いた。
——なぜ、内閣官房はシェアリングエコノミーの普及に力を入れているのでしょうか。
シェアリングエコノミーによって、十分に使われていない既存のリソースやスキルなどの資産を効率的に活用し、個人がさまざまなサービスを提供したり享受したりできるようにすることで、社会課題の解決につながることを期待しているためです。行政による支援を「公助」、自分で自分を助けることを「自助」と言いますが、その中間となる「共助」によって住民同士で助け合うことで、地域が抱える課題を解決しようということです。
——シェアリングエコノミーによって、具体的にどのような効果を期待していますか。
期待する効果は大きく4つあります。まず1つ目は、個人の市場参加と柔軟な働き方につながると思います。たとえば、クラウドソーシングなど人のスキルを提供するサービスなら、社会人の方が得意なスキルを活かして業務時間外に個別にサービスを提供する、“2枚目の名刺”のような働き方も可能です。あるいは、高齢者や育児・介護中でフルタイムで働けない方も、自分の空いている時間を使って働くことができるようになります。
2つ目は、新たな供給の手段になることです。個人間カーシェアリングの「Anyca(エニカ)」を例に挙げると、移動手段としてレンタカーを借りるという選択肢もありますが、車種によっては普段乗れない高級車を運転できるという非日常体験も供給できます。利用者の「プロに頼むほどではないけれど、ちょっと詳しい友人に頼みたい」といったニーズを埋められるわけです。そういった、個人が提供するさまざまなサービスの中から、消費者が目利きをしながら選べる時代になりつつあると思います。また、地方で祭りやコンサートなどのイベントがあるとホテルや旅館が満室で予約できないことがありますが、そういう時に一時的に民泊で供給を増やすということもできます。そういった、柔軟に供給力を高められることが大きな価値だと思います。
3つ目は、新たな需要の創出です。シェアリングエコノミーが普及すると新しいものが売れなくなるのではないかというネガティブな見方をする向きもありますが、一方で購入を投資と捉える考え方も出てきています。これもAnycaを例に出すと、車に乗らない平日は貸し出すことを前提にして、そこで得られる収入を計算に入れて車を買うという消費行動もあるそうです。また、ファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」では、洋服を借りて気に入ればそのまま購入できます。“試す”というスタイルで商品を利用できるので、なかなか物を買わないと言われるミレニアル世代に対するメディアや広告として機能する可能性もあるのではないかと思います。
4つ目が、行政として一番期待している地方創生です。少子高齢化や都市への人口流出などにより、加速度的に進む人口減少は地方においては喫緊の課題です。そのため、各自治体では、地域において新たな雇用の創出や観光を通じた交流人口の増加などに取り組まれています。このような取り組みに、たとえばクラウドソーシングを活用して就業機会を作り出したり、その土地ならではの暮らしや人々の魅力を発信して観光客を誘客したりするなど、シェアリングエコノミーを地方創生の1つのツールとして活用できると思います。
——日本におけるシェアリングエコノミー市場の現状や事業者をどう見ていますか。
シェアリングエコノミーと一口に言っても、皆さんが思い浮かべるものはバラバラだと思うのですが、私個人の見解では大きく2つに整理できると思います。1つが、民泊の「Airbnb(エアービーアンドビー)」や、配車サービスの「Uber(ウーバー)」のようなグローバルスケールでデジタル革新を促すモデルです。もう1つが、人のスキルや労働力をシェアするといった共助の仕組みでローカルなコミュニティを支えるプラットフォームのモデルです。
前者は、まだ日本では普及していないと思います。その原因が規制なのか、海外に比べて現金主義なのでデジタルエコノミーが流行らないのか、あるいは見知らぬ人とシェアすることに抵抗があるという国民性の問題なのか、どこにあるのかはまだ特定されていないような気がします。ただ、Uberなどの配車サービスでいうと、国によってはタクシーに対する信頼度はまちまちで、日本のように深夜でも安心してタクシーを利用できる国ばかりではありません。そのような国では、既存サービスを代替する安全なものという存在で使われているところもあります。一方で日本は、都市部では5分待てばタクシーが捕まりますし安全なため、他国に比べるとそこまでニーズが顕在化してないのだと思います。やはり、諸外国で普及しているから日本でもやるべきだということだけではなくて、国民のニーズやサービスに求める要求水準をしっかり把握して判断すべきだと思います。
後者の、共助型のシェアリングエコノミーサービスについては、行政との親和性が高いと考えています。日本は他国に比べても超少子高齢化の課題先進国と言われていますが、特に地方においてはそれが顕著で、なかなか地方だけで解決するための仕組みを作ることが難しくなってきています。行政が公的なサービスとして提供したくても、税収が落ちていたり職員数が減っていたりするため簡単ではないと思います。つまり、地域の課題は複雑化かつ多様化しているにも関わらず、そこに投入できる政策リソースが限られているというジレンマを抱えているのです。こうした課題に対してシェアリングエコノミーは切り札になると考えています。
たとえば、交通過疎の問題について、北海道の天塩町では2017年3月から実証実験が行われています。天塩町では買い物や通院を目的に稚内市に行く人が多いのですが、距離でいうと70kmも離れています。電車だと片道で2~3時間かかってしまうため、その日のうちに帰ってくるには稚内市内での用事を1時間で終えなければいけません。そうすると病院にも行けないですし、買い物をするにも大変です。そういった交通弱者や高齢者の足の確保というのが自治体で問題になっているのです。
実証実験では相乗り型のライドシェアサービスの「notteco(ノッテコ)」を使ってこれを解決しようとしています。町が募集した稚内市まで送ってくれるドライバーと稚内市に移動したい人とをマッチングするものです。スマートフォンを使えない高齢者も多いので、電話による申込みも可能としており、月平均20人くらいが主に通院を目的に利用しているそうです。ドライバーが報酬を得て人を乗せると(自家用車をタクシーにする)“白タク”行為となってしまうため、現在はガソリン代および道路通行料を収受して相乗りさせるという形で法的に問題なく提供しています。ただし、そうなるとドライバー側がボランティアの形になってしまい、取り組みとしての継続性に課題も出てきますので、現行の法律に沿ったよりよい方法を模索しているところです。
——内閣官房ではシェアリングエコノミーの普及に向けて、どのような支援をしているのでしょう。
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