「グレーゾーン解消」や「認証マーク」で成長を後押し--内閣官房のシェアリングエコノミー戦略 - (page 2)

3つの課題を解決して成長を後押し

 2016年11月にシェアリングエコノミー検討会議の中間報告書(シェアリングエコノミー推進プログラム)をまとめたのですが、シェアリングエコノミーには3つの課題があり、それぞれを解決する必要があると考えています。

 1つ目は、事故やトラブル時の対応について不安があるという声です。企業が提供するサービスであればある程度安心して利用されると思いますが、個人間による取引きでは安全性・信頼性の観点で課題があります。そこで、シェアリングエコノミー・モデルガイドラインというものを作りました。仮に行政が規制をするにしても法律を作ってしまうと、新たなサービスに対して臨機に対応することが難しくなってしまうので、プラットフォーマーが一定の責任を負う形で、業界において自主的なルールを作って運営していくのがベストだと考えています。


2016年に発足した「シェアリングエコノミー協会」(2015年12月撮影)

 ただ、最初から業界にお任せすると自分たちの都合の良いルールを作ってしまうのではないかという指摘を受けてしまう可能性もあるので、シェアリングエコノミー事業者にも検討会議に出ていただき、官民一体となってガイドラインの雛形を作りました。安全性の確保が求められるようなサービスにおいては本人確認を行うことをはじめ、レビューの仕組みを使ってお互いがどのような人なのかを評価できるようにする、顧客相談窓口を設ける、賠償責任保険に入るといった内容です。

 また、シェアリングエコノミー協会は、モデルガイドラインをもとに認証制度を作りました。消費者から見たときに安全性・信頼性の向上にちゃんと取り組んでいる事業者であることを一目で分かるようにするものです。シェアリングエコノミー事業者はスタートアップ企業が多いですが、認証マークを取っていれば、自治体や大企業と提携を進める際にも役立つことが期待されます。2017年7月に第1弾として6サービス、同年11月に第2弾として9サービスの計15サービスが認証を取得したことが発表されています。


シェアリングエコノミー認定マーク

 2つ目の課題は、シェアリングエコノミーがさまざまな分野に進展すればするほど、企業によるサービスの提供を念頭にして規定された既存法令が、個人間取引についても適用されるのか否かが不明瞭となる可能性が高まるということです。これについては、「グレーゾーン解消制度」の活用を推奨しています。簡単に言うと、事業者が新たなサービスモデルのビジネスを開始しようとするときに、法の解釈としてそのサービスがホワイトかブラックかを照会できる制度です。規制を所管する省庁にではなく、自ら運営する事業を所管する身近な省庁に問い合わせることができることが、この制度の味噌です。たとえば、先ほどご紹介したnottecoはこの制度を活用して、経済産業省経由で国土交通省から適法であるというお墨付きをもらってサービスを展開しています。

 世の中にはさまざまなシェアリングエコノミーサービスがありますが、それらを分類していくと、必ずどこかの省庁の担当になります。たとえば、民泊なら観光庁ですし、ライドシェアなら国土交通省なのですが、事業者からすると、自らがビジネスで取り扱うサービスがどの省庁に関わるのかは中々分かりづらいですよね。

 そこで、シェアリングエコノミー促進室がワンストップ窓口となって相談を受付けています。例えば、私たちが事業者に成り代わって、規制に関係する省庁に匿名で確認することも可能です。シェアリングエコノミー促進室が2017年1月に設置されて以来、スタートアップからの相談も含め、これまの1年間で約170件のさまざまな案件に対応しています。


「シェアリングエコノミー促進室」の活動内容(公式サイトより)

 3つ目が、シェアリングエコノミー自体が日本ではあまり知られておらず利用意向も低いということです。そこで、自治体とシェアリングエコノミー事業者の連携を進めています。シェアリングエコノミー協会は独自の取り組みとして、地域の課題解決や町づくりにシェアリングエコノミーを活用する「シェアリングシティ」を推進しており、2017年11月時点で15都市と連携しています。政府としても成長戦略において30地域で活用事例を創出するという目標を掲げているため、この協会の取り組みに大変関心を持って見守っているところです。

 たとえば長崎県の島原市は、時間単位で施設や店舗を貸し借りできるマーケットプレイス「スペースマーケット」を使って島原城をイベントなどで利用できるように貸し出していますし、さまざまな観光体験を予約できる「Tabica(タビカ)」を通じて伝統漁や街歩きなど地元の魅力を発信することで、新たな行政収入の確保や交流人口の増加を目指しています。


時間単位で場所を貸し借りできる「スペースマーケット」

 また、佐賀県の多久市はクラウドソーシングサービス「クラウドワークス」と連携しています。ここには私も視察に行ったのですが、ローカルシェアリングセンターというコンテナハウスを作って、そこで育児中の主婦や介護でフルタイムで働けない方などのために、ITスキル向上のためのセミナーを開催し、クラウドワークスを通じて都市部からウェブライティングの仕事などを受注することで、地域の中で稼げる仕組みを作っています。参加者にお話を聞くと、家計にプラスアルファの稼ぎが得られることに加えて、自分たちが書いた記事が全世界で読まれる可能性があるということに価値を感じていらっしゃいました。このように、自分の得意なことや身につけたスキルを通じて社会貢献や社会参画を実現できるところに生きがいが生まれ、住民満足度の向上につながるため、この多久市のモデルを参考にして、同じように取り組もうとしている自治体も増えつつあります。


シェアリングシティ認定都市の一例

 このほか、地方におけるシェアリングエコノミーの導入推進について、豊富な知見や活用の実績を備えた方々を「シェアリングエコノミー伝道師」として、2017年3月に5名、12月に6名を任命しました。シェアリングエコノミーという言葉がバズワード化していたり、その概念がなかなか理解されづらいものですので、伝道師を地域に派遣して、自治体職員や地域住民の方々に普及啓発などを行ってもらっています。霞ヶ関のウェブサイトに情報を載せてもなかなか見てもらえませんが、伝道師の方々のSNSやメディアなどを通じた情報発信力はとても大きいので、認知度向上にとても貢献していただけたと思います。これまでは普及啓発のフェーズでしたが、今後はシェアリングエコノミーサービスを自治体に導入するとともに課題解決につなげていきたいと考えています。


「シェアリングエコノミー伝道師」(公式サイトより)

——日本において、さらにシェアリングエコノミー市場が発展するために必要なことは何だと考えますか。先日、大手航空会社のANAは、Airbnb経由で宿を予約するとマイルがたまる連携を発表しましたが、国民から信頼されている企業やインフラ機関と組むというアプローチもあるかと思います。

 先ほどお話したように、ローカルコミュニティを支える共助の仕組みとしてのシェアリングエコノミーサービスは少しずつですが熱が高まっていると思います。また、AmazonやLINEなどもそうですが、グローバルスケールの革新的なサービスであっても、日本の国民性にフィットするサービスで、かつ利便性が高いものであれば、爆発的に普及する素地は十分にあると思います。もちろん規制が関係しているものであれば行政としてしっかり対応をしますが、使うかどうかを決めるのは国民ですので、これは便利だとみんなが思うようなサービスであれば普及していくのではないでしょうか。

 (シェアリングエコノミー事業者が大手企業などと組むことについては)おっしゃる通りだと思います。やはり、日本で名の通った企業に対する国民の信頼感や安心感は依然として大きいと考えられるため、そういったところと組めるのであれば認証マークを取らなくて済むかもしれません。一方の大手企業も、所有から利用へという流れの中で新たなビジネスをはじめるにしても、グレーゾーンで勝負するにはリスクがあるため、スタートアップなどとどのように組んでいけるのかを模索している状態だと思います。また、大手企業が自らシェアリングエコノミーのビジネスを手がける可能性もあると思いますので、今後日本にフィットする最適解が見つかっていくのではないでしょうか。

——ちなみに、岩坪さんご自身はシェアリングエコノミーサービスを使うことはありますか。

 スキルシェアサービスの「ココナラ」はよく使います。内閣官房IT総合戦略室には、さまざまな組織からの出向者が多いため送別会の機会も多いのですが、そういう時にココナラで似顔絵をお願いしてプレゼントするのが流行っていますね(笑)。また、シェアリングエコノミー推進室のロゴマークは、クラウドワークスで発注しました。


外国人が教える家庭料理教室サービス「Tadaku(タダク)」

 あとは、2016年にはスペースマーケットで忘年会の会場を手配して、そこで外国人が教える家庭料理教室サービスの「Tadaku(タダク)」を使いました。旅行に行かなくてもその国の食事を通して異文化交流ができるサービスなのですが、スペインとラトビアとスリランカの料理を楽しみましたね。そのほか、フードデリバリーの「Uber Eats(ウーバー イーツ)」はよく使っています。今後、海外に行く時にはAirbnbやUberなども使いたいですね。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]